BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

誠食堂ものがたり 第七話

2024年10月11日 | 薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説「誠食堂ものがたり」



「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「おはよう、総司。昨夜はよく眠れたか?」
「はい・・」
そう言った総司の顔は、少しやつれていた。
どうやら、“きなこ”の夜泣きは一晩中続いていたようだった。
「眠気覚ましのコーヒー、淹れておいてやったぞ。」
「ありがとうございます。」
「トシ、引っ越しの準備は進んでいるか?」
「あぁ。」
家族が増え、手狭になったマンションの部屋からの引っ越しを勇が決めたのは、引っ越し先のマンションが店から徒歩五分という近距離にあるからだった。
今住んでいるマンションは、店から片道徒歩三十分かかる距離で、部屋の広さは勇と歳三、猫の二人と一匹暮らしには充分だが、猫と犬、ファンシーラットと総司という新しい家族と暮らすには狭過ぎた。
「断捨離は大方終わったぜ。」
「そうか。」
「僕も終わりましたよ。元々、荷物は少ない方だったから楽でしたよ。」
「そ、そうか・・」
「嫌だなぁ、そんな悲しい顔をしないで下さいよ。僕は、あなた達の家族となれて幸せなんですから。」
「総司~!」
「勝っちゃん、遅れるぜ。」
「あ、じゃぁ行って来る!」
勇はそう言うと、慌ててトースターからトーストを取り出すと、それを咥えてそのまま玄関から出て行った。
「お父さんがスーツなんて珍しいなぁ。」
「雑誌の取材を受けるんだとよ。」
「へぇ。」
「まぁ、コロナ禍でみんな大変な中、うちだけ繁盛しているものなぁ・・」
「引け目を感じる事、ないんじゃないんですか?今は苦しいですけれど、何とかなりますって!」
「あぁ、そうだな・・」
歳三と総司は、朝食を済ませた後、食堂でランチの仕込みをした。
「今日は、お客さん少ないですね。」
「緊急事態宣言が発令されてから、まだ数週間しか経ってねぇからな。」
「そうですね。そういえば最近、SNSで大量注文詐欺に遭っている飲食店が増えているんですって。」
「うちも気をつけねぇとな。」
歳三がそんな事を総司と話していると、店に備え付けてあった電話がけたたましく鳴った。
「はい、誠食堂です。」
相手は何もしゃべらず、一分間黙った後、電話を切った。
「いらっしゃいませ!」
「チキン南蛮定食ひとつ!」
「は~い!」
緊急事態宣言発令から数週間たったが、ランチタイムになると弁当を買いに来るサラリーマンやOLが長い行列を作っていた。
「あ~、疲れた。」
「夕飯の仕込み、今の内にしておきます?」
「そうだな。」
総司が夕飯の仕込みを店の厨房でしていると、また電話がかかって来た。
「出なくていい。」
「え?」
電話がけたたましく鳴った後、数秒後にまた鳴った。
「イタズラ電話ですかね?」
「そうだろうな。それよりも総司、宿題はちゃんとやっているか?」
「えぇ。」
中学校に入学してから、総司はNPO法人が経営する学習塾へと通い始めた。
そこには、総司のようにと読字障害や算数障害、発達障害などを抱える子供達が通っている。
「この前、学校のテストで満点取りました!」
「へぇ、凄いじゃねぇか!」
「小学校の時と違って、中学校には学習支援のボランティアの方が来てくれて、学校の先生よりも良く勉強を見てくれます。」
「そうか。総司、学校は楽しいか?」
「少しは。でも、コロナの所為で大抵クラスの大半はオンライン授業だし、給食は黙食だし、部活も中止になって、剣道教室も中止になって再開のメドが立っていなくて・・」
「町内会のイベントも中止になって、みんなコロナの所為でイライラしちまっているし。」
「本当に終息するんでしょうかね?」
「さぁな。俺達が今出来る事は、コツコツと地道に働く事だ。」
「そうですね。」
その日、深夜になっても勇は家に帰って来なかった。
スマホに何度も掛けたが、繋がらなかった。
一睡も出来ずに二人が彼の帰りを待っていると、突然玄関のチャイムが鳴った。
『警察です。』
「警察が、うちに何のご用でしょうか?」
『実は、ご主人が夜間病院に運ばれまして・・』
「え!?」
警察によると、勇は昨夜轢き逃げ事故に遭い、意識不明の重体だという。
「どうして、こんな事に・・」
「ご主人は、轢き逃げに遭った後、すぐに通行人によって救護されてこちらの病院に運ばれたので、一命を取り留めました。」
歳三と総司が、勇が搬送された病院で彼の担当医からそんな説明を受けていると、そこへ勇の両親がやって来た。
「お久しぶりです、お義父さん、お義母さん。」
「トシさん、勇の様子は?」
「一命を取り留めましたが、意識不明の重体です。」
「そうか。」
「二人共、今日は疲れたでしょう。病院の近くにホテルを取っているから、そこで休みましょう。」
「はい・・」
「ねぇ土方さん、お父さんは死なないよね?」
「あぁ、大丈夫だ。」
勇は轢き逃げに遭ってから数日後、意識を取り戻した。
「心配かけて、済まなかったな二人共・・」
「良かった。」
「お父さん、お店の事は僕達に任せて、しっかり身体を治して下さいね。」
「あぁ、わかった。」
勇が入院している間、歳三と総司は店を切り盛りして、家事も二人で分担した。
「お父さん、早く帰って来ないかなぁ。」
「あぁ、そうだなぁ。」
轢き逃げ犯が捕まったのは、勇の事故から一月後の事だった。
犯人は無免許の上に飲酒運転をしていた。
「被害届を取り下げろ?」
「はい・・」
「待って下さい、向こうが100%悪いのに、被害届を取り下げろっておかしくないですか?」
「それは・・」
「もしかして、向こうから何か言われたのですか?」
「はぁ・・」
「では、あちらには被害届は決して取り下げないつもりだと、お伝え下さい。」
「わかりました・・」
「ったく寝言は寝て言えってんだ。」
「トシ、俺は大丈夫だから・・」
「わかったよ。それにしても、ふざけた事を抜かしやがる。」
「暫く店の事はお前に任せてもいいか、トシ?」
「あぁ。なぁ勝っちゃん、食堂の新メニューの事なんだが・・」
「へぇ、クッキーか。」
「まぁ、アレルギーがあるお客さん用に作る予定なんだが、試作品が出来たら試食してくれねぇか?」
「あぁ、わかった。」
勇の退院は、二月かかった。
季節はすっかりクリスマスソングが町中に響く頃になっていた。
「ほぉ、ハムスターのクッキーか。可愛いなぁ。」
「猫のクッキーも作ってみたぜ。」
「へぇ、いいじゃないですか。ねぇ、今日は早めにお店を閉めて、お父さんの退院祝いのパーティーをしましょうよ。」
「そうだな。」
三人はその日は店を早く閉めて、自宅マンションの部屋で勇の退院祝いのパーティーを開いた。
「もうすぐクリスマスですね。ケーキ、どこで買いますか?」
「いつもの所でいいんじゃないか?」
「そうだな。」
「ねぇ、来年のクリスマスもお正月も、家族みんなで過ごしましょうよ。」
「あぁ。」
年末年始の時期は、コロナ禍でも商店街は活気に満ちていた。
誠食堂の新作、“どうぶつクッキー”は、SNSで話題となりそれと比例して客足もコロナ以前のように戻って来た。
だが、そこでひとつの問題が出て来た。
それは、人手不足だった。
人件費を余りかけないようにしていた勇だったが、人手が足りないと店の回転率が悪くなっている事に気づき、漸く彼はアルバイトを雇う事にした。
「SNSで呼びかけてみるか?」
「それだと、安全性が低いですよ。やっぱりここは、タウン誌や求人サイトに広告を出した方がいいですよ。」
「そうか・・」
「求人広告を出すのは、俺に任しておけ。」
「ありがとう、トシ。」

数日後、一人の青年がアルバイトの面接に来た。

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