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表紙素材は、湯弐様からお借りしました。
「ベルサイユのばら」「天上の愛地上の恋」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「ただいま。」
馬車から降りたオスカルは、慣れないドレスの裾を摘みながら自室に入ると、そこには彼女の帰りを待っていたアンドレの姿があった。
「お帰り、オスカル。」
「アンドレ、寝ないでわたしの帰りを待っていてくれたのか?」
「あぁ。舞踏会はどうだった?」
「どうもしないさ。それよりもアンドレ、用が無いなら出て行ってくれ。」
「わかった。」
アンドレが自室から去った後、オスカルは溜息を吐きながら、ドレス姿のまま長椅子の上に横たわった。
「オスカル、入るぞ。」
「アンドレ。」
オスカルは、アンドレが様々な菓子が載ったワゴンを押して部屋に入って来るのを見た。
「それは何だ?」
「舞踏会では、あんまり食べられなかったんだろう?だから、こうして菓子を持って来たんだ。」
「そうか、ありがとう。」
オスカルはそう言うと、アンドレが運んで来た菓子のひとつをつまみ、それを口に放り込んだ。
「美味いな。」
「良かった、チョコのマカロン、初めて作ったからオスカルの口に合うかなと思っていたんだが・・気に入ってくれてよかった。」
「ありがとう、アンドレ。もうひとつ、くれないか?」
「あぁ、いいが・・それよりも先に、着替えないのか?コルセット、苦しいんだろう?」
「全く、女の格好は窮屈で動き辛いし、苦しくてかなわん。」
オスカルはそう言った後、結い上げた髪を解いた。
「コルセットを外すのを手伝ってやるよ。そんな窮屈な格好じゃぁ、菓子の味見が出来ないだろう?」
「そうだな、頼む。」
アンドレに鎧のようにきつく己のウェストを締め付けていたコルセットを緩めて貰ったオスカルは、解放感の余り思わず溜息を吐いてしまった。
「もう二度と、こんな物は着ない。」
「オスカル、そんな事を言ったら、ばあちゃんが嘆き悲しむぞ。今夜の舞踏会で、やっとお前にドレスを着せる事が出来たって喜んでたのに・・」
「ばあやには悪いが、わたしはもうドレスは着ない。」
オスカルはそう言った後、マカロンの隣に並べられてあったエクレアを一個摘むと、それをそのまま頬張った。
「うん、美味い。」
「ドレスを汚してばあちゃんに怒られる前に、早く着替えろ。」
「わかった。」
オスカルの部屋から出て行ったアンドレと入れ替わり、部屋に入って来た侍女達に手伝って貰いながら着替えを終えたオスカルは、寝室に入るとそのまま寝台の上に横になって泥のように眠った。
その後、彼女は不思議な夢を見た。
『撃て~!』
夢の中の自分は、軍の指揮官だった。
暫く指揮を執り、攻撃を続けていたが、オスカルは敵軍に撃たれ、その若い命を散らした。
―隊長、バスティーユに白旗が!
誰かがそう叫ぶのを聴いた後、オスカルは夢から覚めた、
頬を伝う涙が枕を濡らしている事に気づいた彼女は、手の甲で乱暴に涙を拭うと、寝癖を手櫛で整えた。
「おはようございます、お嬢様。」
「おはよう、ばあや。アンドレは?」
「アンドレなら、先程買い物に出掛けて、すぐに戻って来ますよ。」
「そうか。」
オスカルがばあやことマロン・グラッセとそんな話をしていると、アンドレが息を切らしながら二人の前に現れた。
「オスカル、ただいまっ!」
「アンドレ、‟オスカル様“とお呼び!」
「どうした、アンドレ?そんなに息を切らして・・」
「いや、さっき買い物の帰りに、途中で寄った店でこんな物を見つけてな、買って来たんだ!」
そう言ってアンドレがオスカル達に見せたものは、大きな箱に入ったケーキだった。
「何だ、これは?」
「昨日、話していたザッハートルテだ。いやぁ、いつも行列が出来ている店で、今日に限って空いていて良かった・・」
「そうか・・」
オスカルはアンドレからケーキが入った箱を受け取り、その蓋を開けると、美味しそうなチョコレートケーキが入っていた。
「まぁ、美味しそうなケーキ!さっそく頂きましょう!」
マロン・グラッセはダイニングテーブルの中央にケーキの箱を置くと、いそいそとした様子で厨房へと消えていった。
「頂きます。」
オスカルは、皿に載せられたザッハートルテをフォークで一口大に切り、それを頬張った。
「どうだ?」
「しっとりとした味わいでいい、気に入った。お前が作ったガトー・オー・ショコラには負けるがな。」
「お前が喜んでくれて良かったよ、オスカル。」
アンドレがオスカルに笑顔を浮かべた時、ジャルジュ邸の前に、一台の馬車が停まった。
「どうしたのかしらねぇ、こんな朝早くに。」
「さぁ・・」
ダイニングテーブルでオスカルがアンドレとザッハートルテを食べていると、そこに突然、オスカルの父・ジャルジュ伯爵が現れた。
「オスカル、早く支度しろ!」
「何事ですか、父上?」
「ルドルフ皇太子様がお前に会いたいとおっしゃっている、早くわたしとホーフブルク宮殿へ向かうぞ!」
「わかりました、すぐに参ります。」
オスカルはダイニングルームから出て自室に戻り、身支度を済ませると、ジャルジュ伯爵と共に、ハプスブルク家からの迎えの馬車に乗り、ホーフブルク宮殿へと向かった。
(一体、ルドルフ皇太子様がわたしに何の用だろう?)
一方、ホーフブルク宮殿内にあるスイス宮では、ルドルフが寝台の中で黒髪の天使、アルフレートと睦み合っていた。
「ルドルフ様、もうわたしは行きませんと・・」
「まだ大丈夫だ。」
「ですが・・」
「ルドルフ、開けろ!」
ドンドンという乱暴なノックの音が扉の向こうで聞こえ、アルフレートに口づけしようとしたルドルフは舌打ちをして彼から離れた。
「何だ、大公?朝からうるさいぞ。」
「ルドルフ、早く支度しろ、客人が間もなくホーフブルクに来るぞ!」
「客人?」
「お前、とぼけるのもいい加減にしろ!その格好はなんだ、さっさと着替えろ!」
「あぁ、わかった・・」
ルドルフはそう言った後、寝台の中で自分を見つめているアルフレートの額にキスをすると、寝室から出た。
身支度を済ませ、ルドルフがスイス宮の廊下をヨハン=サルヴァトールと歩いていると、一台の馬車がスイス門の前に停まり、中から一人の正装姿の‟男性“が降りて来た。
光り輝く金色の髪をなびかせ、堂々とした足取りでルドルフ達の方へと向かって来た‟彼“は、夏の蒼穹をそのまま写し取ったかのような美しい蒼の瞳で二人を見た。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます、皇太子様。わたしは、レニエ=ド=ジャルジェ、そしてこちらは我が末娘、オスカルでございます。」
「お初にお目にかかります、皇太子殿下、サルヴァトール大公様。」
オスカルがそう言って俯いた顔を上げると、そこには長身の貴公子の姿があった。
―オスカル・・
何処からか、‟彼女“の声が聞こえて来たような気がしてオスカルは周囲を見渡したが、そこには誰も居なかった。
(気のせいか・・)
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。」
オスカルは我に返り、ルドルフの顔を見た。
すると、彼女は‟ある事“に気づいた。
ルドルフの何処かに、‟彼女“―マリー=アントワネットの面影を感じられるのだ。
「さてと、ここで立ち話もなんですから、お茶でも飲みながら話しましょう。」
「はい。」
「では、こちらへ。」
ルドルフ達と共にスイス宮の中へと入ったオスカルは、丁度階段から降りて来た一人の青年司祭と目が合った。
美しい闇夜のような艶やかな黒髪を揺らした彼は、翠の瞳でオスカルを見つめた。
(まるで、神がこの地に遣わした天使のような美しい人だ・・)
「オスカル殿、紹介致します。わたしの友人の、アルフレート=フェリックスです。」
「アルフレート=フェリックスです。」
「オスカル=フランソワ=ジャルジェだ、よろしく。」
ルドルフ様もオスカルさまもアンドレも‥!
続きが楽しみです。
オスカルさま、ザッハートルテとガトー・オー・ショコラ‥お菓子たくさん召し上がられて良かったです(笑).
白鳥いろは
オスカル様、甘いものを沢山召し上がられて第万奥ですね。
ルドルフ様とオスカル様を会わせたかったのは、やはりルドルフ様がアントワネット様の子孫なので・・これからの展開をどうぞご期待くださいね。
千菊丸