「火宵の月」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。
「わたしが、陰陽寮に?」
「ああ、そうだ。今しがた、京の土御門家から文が来た。」
梅雨が過ぎ、蒸し暑さを感じるようになった夏の昼下がり、土御門仁(つちみかどじん)は、父・有匡(ありまさ)に呼び出されて彼の自室へと向かうと、彼から上洛するよう言われた。
一瞬動揺した後、仁はずいと身を乗り出し、父を問い詰めた。
「何故、わたしが上洛しなければならないのですか、父上?土御門家とは、母上と結婚した時に絶縁されたと、そうおっしゃいましたよね!?」
「ああ、そのつもりだったが、向こうは人を使って密かにわたし達の生活を調べていたらしいのだ。」
有匡はそう言って嘆息すると、握り潰してくしゃくしゃになった土御門家からの文を仁に手渡した。
そこには直ちに仁を上洛させ、陰陽寮に入寮させるようにとの旨が書かれてあった。
「一体あちらは何を考えているのでしょうか?」
「それはわからぬ。ただ、このまま返事をせずに居ると悪い方へと事が進むかもしれぬ。」
「それは・・」
「母上と雛(すう)のことは心配するな。」
「ですが父上・・」
「くどいぞ、仁。これはもう決まった事なのだ。」
尚も仁が有匡に抗議しようとすると、彼はそっと仁の肩を叩いた。
「わかりました。父上がそうおっしゃっておられるのなら、わたしは従うしかありませんね・・」
悔しさの余り唇を噛み締めながら、仁はそう呟いて俯いた。
「仁、お父様と何を話していたの?」
「姉上・・」
有匡の部屋から出た仁は、サラサラという衣擦れの音とともに姉の雛がやってきたことに気づいた。
双子の姉である彼女は、母・火月譲りの金髪紅眼の美しい容姿の持ち主ではあるが、外見は母親似であるのに対して、性格は父親である有匡に似ていた。
「その様子だと、お父様に何か言われたようね?」
「ええ。」
「どうせ土御門家があなたに上洛せよという文が届いたのでしょう?あちらの主の体調が芳しからないというから、何か含むところがありそうね。」
「姉上のおっしゃる通りです。」
「まぁ、あなたが留守の間、わたしがこの家を守るから心配要らないわ。」
雛はそっと仁の手を握ると、彼に微笑んだ。
姉とともに自室に戻った仁は、衣紋掛けに見慣れぬ直衣が掛けられていることに気づいた。
「先程土御門家から届きました。」
父の式神である種香がそう言うと、仁を見た。
「・・僕の趣味じゃないな。」
「どうやら有匡様が駄目なら、仁様に家督をお譲りする気になったのかもしれませんね?」
「それはどうかな、向こうとは絶縁したって思っているんだから、こっちは。」
上洛するまでの間、仁は土御門家がどんな手を使って有匡に自分の上洛を迫ったのかが気になり、眠れぬ夜を過ごした。
「行ってらっしゃいませ、仁様。」
「仁、くれぐれも身体には気を付けるのですよ。」
「わかりました、母上。それでは、行って参ります。」
出立の日の朝、姉と母に見送られ、仁は上洛する事になった。
「有匡様も薄情よねぇ、息子の見送りにも顔を出さないなんて。」
「殿もお辛いんじゃないんの?だからわざと仕事を入れてさっさと職場に向かわれたんだと思うわ。」
「まぁ、そうかもねぇ・・」
式神達はそんな囁きを交わしながら、家事に取りかかった。
「仁、よう来たな。さぁ、近う寄れ。」
「は・・」
上洛した仁は、土御門家当主と対面した。
有匡の養父である彼は、自分の義祖父に当たる人物なのだが、何故か仁は彼に対して不信の感情しか抱けないでいた。
「そなたをここに呼んだのは他でもない、土御門家を再興する望みをお前に託す為じゃ。」
「そんな大それたことをわたくしが出来る筈がございません。元服したとて、わたくしはまだまだ半人前ですから。」
なるべく当たり障りのない言葉を選びつつ、仁はそう言って義祖父を見つめると、彼は少し落胆したかのような表情を浮かべていた。
「おお、そのような事を言うでない。わしはそなたの父、有匡に絶縁を言い渡されて以来、生きるのが嫌になったことがあった。有仁(ありひと)の時もそうであった・・」
「ご自分のご都合のよいように解釈されては困ります。祖父が死んだのは、あなた方の所為でしょう?」
土御門家前当主であり、有匡の実父である有仁は、帝を惑わした妖狐・スウリヤと逃げ、土御門家を勘当された挙句、土御門家の追手によって無残な最期を遂げた事を仁は知っていた。
「父上が駄目ならば、わたくしに土御門家の家督を譲ろうとお思いになられていることでしょうが、わたくしはこの家を継ぐ気などさらさらありません。」
今まで義祖父を傷つけぬよう、下手に出ていた仁だったが、いい加減彼との噛み合わない会話をしてきてもうどうにでもなれと思ったのだった。
「この際はっきり申し上げますが、わたくしはもうあなた方とは親族でも何でもありません。父がこの家で暮らしていた時、あなた方が父にどのような仕打ちをなさったか、お忘れか?」
仁がそう言って義祖父を睨み付けると、彼はヒィッと叫んで身を竦めた。
「わたくしも狐の子ですゆえ、いつ何時あなた方の寝首を掻き切るかもしれませぬ。それでも良いというのならば・・」
老い先短い老人を脅迫するような真似はしたくなかったが、祖父や父の事を有耶無耶にしようとするこの男が仁は許せずにいた。
「もうよい、そなたの気持ちは解った。じゃが京に居る間、我が家に滞在してはくれぬか?」
「いいでしょう。ですがあなた方とは顔を合わせたくはありませんので、別邸で過ごすことに致しましょう。」
一緒に暮らすことだけでも有り難いと思え―そんな負の感情を言葉の端々に滲ませながら仁がそう言うと、先ほどまで沈んでいた義祖父の顔がパァッと輝いたように見えた。
「何をしておる、別邸を整えよ!」
「は、はい!」
仁が別邸に住むとわかった途端、彼はテキパキと家人達にそう命じ始めた。
(まったく、何て爺なんだ・・父上が絶縁したくなったのも、解る気がするな・・)
別邸と本邸を隔てる渡殿を歩いていた仁はそう思いながら、深い溜息を吐いた。
その時、向こうから自分と同い年の少年が数人やって来た。
どうやら一族の厄介者の息子である自分の姿を見ようと来たらしく、彼らは仁と目が合うなり、意地の悪い笑みを口元に湛(たた)えていた。
「お前があの有匡の息子か?」
「薄気味の悪い顔をしているな、流石あの狐の子と血を分けた息子らしい。」
「呪力はどうかな?まぁ、似ているのは顔だけだと思うがね。」
初対面だというのに、彼らは仁にそんな事を言いながら無遠慮な視線を投げつけて来た。
「わたくしの顔をとやかく言う前に、一度ご自分の顔を鏡でご覧になられてはいかがです?性根が腐りきった醜い顔をしておられますよ?まぁ、あなた方の顔は元から大層残念なものですけれどね。」
背後で彼らが何か喚いている声が聞こえたが、仁はそれを無視してそこから去っていった。
別邸で眠れぬ夜を過ごした仁は、そのまま陰陽寮へと入寮することとなった。
「貴殿が、あの土御門有匡殿のご子息か?」
「はい、これからお世話になります。」
入寮早々、彼は陰陽頭(おんみょうのかみ)・賀茂忠光(かものただみつ)に挨拶に行った。
遥か平安の御世、陰陽道の大家として名を馳せた賀茂家の出身だけあり、彼は何処かこの世を達観しているような賢い顔立ちをしていた。
「君の噂は聞いているよ。何でも、父上にもひけをとらぬほどの実力だとか?」
「いいえ、わたしはまだまだ父の足元にも及びません。」
「そう謙遜するんじゃないよ。それよりも、鎌倉に居る父君に宜しくお伝えしてくれ。」
「はい、わかりました。」
「では、わたしについてきなさい。君にとって陰陽寮は初めてだろう?今日の内に全体を把握しておいた方がいい。」
「わかりました。」
「では早速、案内するよ。」
陰陽寮のトップである忠光の後ろについて歩く仁の姿を、好奇心を剥き出しにした他の学生達(がくしょうたち)の視線が突き刺さった。
突然やって来た、東国(かまくら)から来た新入りが、何故忠光と歩いているのか皆興味があるらしく、仁は行く先々で声を掛けられた。
「お前、忠光様と一体どんな関係なんだ?」
「わたしは大した者ではありませんので、どうかお気にならさぬよう。」
そう言って暦生(れきしょう)の一人に微笑んだ仁であったが、はいそうですかと彼らが納得する筈がなく、あっという間に暦生達に仁は取り囲まれてしまった。
「どうせお前、親のコネで入ったんだろ?さもなきゃ、名高い陰陽寮に田舎者が入れるわけないもんな?」
暦生の一人が冷笑交じりでそう言うと、仁の前に出て来た。
「ほう?それならば貴殿は、どのようにして陰陽寮に入ったのですか?まさか、親の縁故で入ったとは言えませんよねぇ?」
陰陽寮に入る学生達は、天賦の才がある者も居るのだが、その大半は親の口添え、つまり縁故で入ってきた者が殆どだった。
「ふん、そんな筈ないだろう?俺は才能を買われてここに入ったんだ!お前のような田舎者とは違う!」
「ならば、その才能とやらをとくと拝見致しましょう。」
そう言った仁は、近くにあった暦を自分の手元に引き寄せた。
「この暦で、吉凶を占ってくださいませ。常日頃緻密な計算をされる貴殿なら、このような物は朝飯前でしょう?」
「クソ、俺を馬鹿にするな!」
仁の軽い挑発を受けた暦生は、仲間達が見守る中作業に取り掛かったものの、数秒もしない内に根を上げた。
「お前もやってみろ!」
「やらずとも、もう占えましたから。」
仁はスラスラと、暦で吉凶を占い始めた。
「ここは、西北に災いありと出ております。」
「ふん、なかなかやるじゃないか。ならばこれを作ってみろ!」
負け惜しみなのかどうかわからないが、暦生は未完成の暦を仁に押し付けると、そそくさと部屋から出てしまった。
これが新人いびりというものか―仁は苦笑しつつも、暦作りに取り掛かった。
「仁、そんな所で何をしているんだ?」
「先程先輩方から仕事を任されました。」
「全く、新人を来た早々いびるなど・・後で君に仕事を押しつけた者達を呼び出して叱らなければ・・」
「いえ、もう出来あがりましたから。それよりも忠光様、どうやらわたしは彼らに良い刺激を与えたようです。」
「そ、そうか・・」
忠光は仁の言葉を受け少し面食らったが、そのまま彼に背を向けて部屋から去っていった。
新入りでありながら、仁は陰陽寮の学生達に一目置かれる存在となった。
幼い頃から父・有匡に陰陽道の何たるかを叩き込まれ、厳しい鍛錬を重ねて来た甲斐があり、難解な講義にもついていけた。
「先日の試験が発表された。最下位の者は追試を受けることになっているから、心してそれに臨むように。」
忠光がそう言って講堂から出て行くと、学生達は我先にと試験結果が張りだされている場所へと殺到した。
仁はつま先立ちになりながらも、自分の名を必死に探した。
そして一番上に自分の名が出ている事を確認し、彼は安堵のため息を吐いてその場から離れた。
「なぁ、土御門仁って何者なんだ?」
「さぁな。何でも、父親の土御門有匡殿は宮中に居た頃色々と噂になった大物だそうだ。」
「土御門といえば・・確か昔陰陽頭を務めていたのも、土御門姓の者だったよな?」
「やっぱり、血は争えないんだろうなぁ。」
学生達が試験の結果について―正確に言えば仁について話していると、一人の学生が彼らの元へとやって来た。
「血統が何だっていうんだ?親が偉大な人物でも、その仁って奴が凄いっていう訳じゃないだろう?」
「それは・・」
「つまらないことで騒ぐなよ、馬鹿らしい。」
その学生は鬱陶しげに前髪を掻きあげると、蒼い双眸で周囲を睥睨(へいげい)した。
「何が天才だよ、馬鹿らしい・・」
周囲には聞こえぬ低い声でそう呟いた彼は、簀子縁(すのこのえん)を歩いてくる仁を見るなりさっと立ち上がり部屋から出ていった。
「お前が、土御門仁か?」
「はい、そうですが・・あなたはどちらさまでしょうか?」
「ふぅん・・どんな奴かと思ったら、余りパッとしない顔だな。」
「おや、どうやらあなた様はご自分のご容姿にさぞや自信がおありのようですね?」
初対面の相手に“パッとしない”と言われ、黙って引き下がる仁ではなかった。
咄嗟にそんな言葉をその学生に返すと、彼は怒りで顔を赤く染めた。
「真雅(ただまさ)、そこで何をしている?」
「忠光様・・」
仁と睨み合っていた学生は忠光の姿を見るなり、慌てて彼にひれ伏した。
「どうして仁をあんな目で睨みつけていたんだ?」
「いえ・・」
「すまないね、仁。この者にはわたしからよく言い聞かせておくから、今回はわたしに免じて許してやってくれないだろうか?」
「わたしは別に構いませんよ?」
「そうか、ありがとう。真雅、来なさい!」
「ですが忠光様・・」
「黙ってわたしの後について来なさい、真雅!」
まるで見えない鞭に打たれたかのように、その学生はビクリと身を震わせると、慌てて忠光の後を追いかけていった。
「真雅、お前が仁に対して良からぬ感情を抱いていることはわかる。だが、少し分別というものを身につけないといけないよ?」
「ですが、あいつの父上は・・」
「親同士の関係がどうであれ、お前達がいがみ合う理由はない筈だ、そうだろう?」
忠光にそう言われ、真雅は唇を噛み締めながら俯いた。
「わかればいいんだ。さぁ、もう仕事に戻りなさい。」
「これで、失礼致します。」
真雅は忠光の部屋を出ると、苛立ち紛れに近くの柱を拳で殴った。
仁が陰陽寮に入寮して数日後、鎌倉に居る父から文が届いた。
そこには体調を崩さぬようにとだけ書かれていた。
いかにも父らしく、そっけない文だったが、それでも仁にとっては嬉しかった。
「仁様、何やらご機嫌ですわね?」
「そうかな?」
仁の式神・涼香(すずか)がそう言って彼の肩越しから有匡からの文を覗き見ると、彼女は溜息を吐いた。
「そっけない文ですわね。」
「まぁ、別にいいんじゃない?逆に長ったらしい文を書かれたら嫌だよ。」
「そうですわね。それよりも仁様、今日はご出仕ならさないのですか?」
「うん・・試験がまたあるから、勉強しないと。」
「実技はもう終わったのでは?」
「今度は小論文の試験なんだ。実技は出来るんだけど、小論文は苦手なんだよね。」
「余り無理なさらないでくださいね。」
「わかった。」
朝食を食べ終えた仁は、すぐさま自室で試験勉強に取りかかった。
元は有匡所有の別邸には数人の使用人達の他には誰もおらず、ひっきりなしに来客が訪れる本邸とは違って静かだった。
周りに雑音がしなくて勉強に集中できた甲斐があったのかどうかわからないが、仁は小論文の試験でも満点を取った。
「君は優秀だね。実技だけでなく小論文も得意とは。やはりあの父君の子だけである。」
「いえ、わたしは努力してそれが報われただけです。」
そう言って仁が謙遜すると、陰陽博士(おんみょうのはかせ)である賀茂輝義(かものてるよし)は苦笑しつつ彼の肩を叩いた。
「そんな事を言うな。君の実力は君自身がわかっていることじゃないか?」
「まぁ、それはそうですけれど・・」
輝義と仁の会話を、真雅(みつまさ)は柱の陰から聞いていた。
(どうして、あいつの顔を見ると苛々するんだろう?)
初めて顔を合わせた時から、何故か真雅は仁の事が嫌いになった。
何故彼を嫌うのか、自分でも解らない。
それはひとえに、父・文観と彼の父・有匡との確執が原因なのかもしれない。
文観は有匡のことを嫌い、有匡も文観の事を嫌っていた。
だが、有匡の妹・神官(シャマン)が文観の妻となったので、親戚同士となった二人はあからさまに好悪の感情をぶつけ合うことはないものの、親戚づきあいは皆無に等しかった。
親同士の仲が悪いと、当然それは子ども達にも悪影響を及ぼす。
一度も顔を合わせた事がない従兄弟達に対して、真雅はいつの間にか彼らに悪感情を抱いていたのだった。
「どうしたんだ、真雅?」
「父上・・」
何者かに肩を叩かれて真雅が振り向くと、そこには墨染の衣の上に金襴(きんらん)の袈裟を掛けた帝の護持僧(ごじそう)である父・文観の姿があった。
「あれが、有匡殿の息子か?」
「ええ。父親に似て優秀で、それでいて憎らしい顔をしております。」
「そんな事を言うんじゃない、真雅。宮中で不用意な発言を控えるように。」
「はい、父上。」
真雅は、そう言うと俯いた。
「人の事を気にするよりも、勉学に励むがいい。陰陽寮に入った以上、志を高く持ってくれよ?」
文観は我が子を励ますかのように、そっと真雅の肩を叩いた。
「歌会、ですか?」
「ああ。何でも、雲居の御息所(みやすんどころ)様が最近気欝(きうつ)なご様子でいらっしゃる姫君様をお励ましになろうとお思いになって今宵開くんだとか。」
「へぇ・・雲居の御息所様がそんな事を・・」
雲居の御息所の名は、仁は何度か宮中でその名を聞いたことがあった。
かつて東宮妃(とうぐうひ)として後宮で権勢を振るうも、政敵の娘である中宮の讒言(ざんげん)により宮中から追い出され、今は姫君と実家で暮らしているという。
「仁はどうするんだ?」
「歌会ですか?お恥ずかしながら、余り歌を詠むのが得意ではないので遠慮させていただきます。」
仁がそう言って歌会を欠席する旨を忠光に伝えようとした時、衣擦れの音とともに一人の童子が講堂に姿を現した。
「土御門仁様は、おられますか?」
「わたしですが・・」
「これを、雲居の御息所様から預かって参りました。」
そう言うと童子は、梅の枝に巻きつけた文を仁に手渡した。
「ありがとう。」
文には、是非今宵の歌会に出席して欲しいという旨が書かれていた。
「どうやら、出席しなければならないようだね?」
「はい・・」
そう言った仁の声は、少し沈んでいた。
「雲居の御息所様の歌会に?」
「うん。歌を詠むのが苦手なのに、歌会なんて・・人前で恥をかくのは嫌だよ。」
帰宅した仁はそう涼香に愚痴をこぼすと、彼女はそっと仁の肩を叩いてこう言った。
「大丈夫ですよ。雲居の御息所様はそんなに意地の悪いお方ではありませんから。」
「そうだといいんだけど・・」