外出自粛で定期券を継続せず、通勤手当はどうなる? 減額や不支給になるケースも
新型コロナウイルスの影響で在宅勤務になった人や、外出自粛で定期の継続手続に行けないという人も多いのではないか。そうした場合、通勤手当はどうなるか――。
不正受給の温床
4/14/2020
残業手当や休日出勤手当と異なり、労働基準法には通勤手当の支給義務に関する規定はない。通勤に要する費用は従業員自ら負担するのが原則だからだ。
ただ、現実には多くの会社が就業規則などに基づいて通勤手当を支給している。従業員の福利厚生などのためだ。
こうなると、労使間の合意に基づく賃金の一部として会社に支払い義務が生じるから、会社の一方的な判断で減額したり、不支給にすることは許されない。
他方、会社が従業員の通勤を常時監視しているわけでもないから、通勤手当は不正受給の温床にもなっている。次のような手口がその代表だ。
● 実際には自転車で通勤しているのに、電車で通勤しているように装う。
● 最短ルートではなく、遠回りしたルートを通勤経路だと申告する。
● 会社の近くに引っ越したのに会社に黙っておき、引っ越し前の住所のまま通勤手当を受給する。
いずれも詐欺にあたる犯罪であり、会社から過払い分の返還を求められるほか、懲戒処分の対象にもなりうる。
就業規則の内容が重要
そこで、労使間でトラブルにならないようにするため、1ヶ月の上限額など、通勤手当の支給条件について会社が就業規則にどのような規定を置いているかが重要となる。
電車やバスによる通勤だと、基本形はおおむね次のようなものだ。
「通勤手当は、運賃、時間、距離等の事情に照らし、最も経済的かつ合理的と会社が認めた通常の通勤経路・方法について、1ヶ月の通勤定期券の実費を支給する」
1ヶ月分の定期券代ではなく、より安い6ヶ月分の定期券代の実費を年2回にわたって先払いするといったパターンもある。例えば、4~9月の6ヶ月分を4月にまとめて支給するといったものだ。
問題は、今回の新型コロナ騒動のように、政府や知事らの強い要請に基づき、欠勤ではなく、1ヶ月間の出勤日の全部または大部分が在宅勤務になった場合の取り扱いだ。
しかし、就業規則に先ほどの基本形以外の規定がなければ、実際の出勤日数とは無関係に、会社は1ヶ月分の通勤手当を丸々支給しなければならない。
定期券の場合、1ヶ月間の出勤日数が1日でも30日でも金額に変わりはないし、有効期間が1ヵ月を切っていると払い戻しができないからだ。
在宅勤務を踏まえ、従業員が定期の継続手続をしなかったり、購入した定期券を払い戻したからといって、会社に対する詐欺になるわけでもない。
減額・不支給ができるのは?
逆に言えば、就業規則に次のような規定があれば、会社は通勤手当の減額や不支給が可能だ。むしろ多くの会社が、このパターンにあたるのではないか。
「出張、欠勤その他の事由により、賃金計算期間の全日数にわたって通勤の実態がない場合には、通勤手当は支給しない」
「所定労働日数のうち、通勤実態が2分の1に満たない者の通勤手当は半額とする」
「月の途中で入社・退職した者、1週間以上通勤しない日がある者の通勤手当は、日割り計算とし、実際に通勤した日についてのみ支給する」
すでに会社が従業員に対して1ヶ月分とか6ヶ月分の通勤手当を全額支給していれば、この就業規則に基づき、出勤日数に応じた出勤手当を算定し、過払い分の返還を求めることができる。
賃金控除に関する労使協定の規定があれば、次の賃金から過払い額を差し引くことになるだろう。
もし従業員が定期券を購入していれば、払い戻しができなかったり、その金額が少なくなるなど、従業員にとって不利になる。それでも、先ほどのような就業規則がある以上、会社が責任を負う必要はない。
とはいえ、従業員は、在宅勤務によって通信機器や通信回線を整備したり、余分な光熱費などを負担しなければならない。
本来であれば、就業規則に費用負担や在宅勤務手当などに関する規定を置いておくべきだが、まだまだ社会全体に在宅勤務が浸透していないため、そこまで至っていない会社も多いのではないか。
そうなると、通勤手当を事実上の在宅勤務手当分として取り扱うといった会社も出てくるかもしれない。
この機会に、自分の会社の就業規則がどうなっているか、改めてよく確認しておくとよいだろう。
4/14tue/2020