>強くなれた。「負けました」。頭を下げた羽生が頭を上げても、藤井は頭を下げ続けた。

>藤井が生まれたとき、羽生はすでに4冠を独占していた。平成から令和へ、歳月が流れ、20歳と52歳の“世紀の一戦”。それぞれが培ってきた将棋観が激突する戦いでもあった。
>毎局後の感想戦を「とても楽しい時間だった」と振り返った。
【王将戦】藤井聡太王将は羽生九段の頭脳吸収しまた成長 充実の6局に「得るもの多いシリーズ」
3/12(日) 20:30配信
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王将戦第6局の投了図
将棋の最年少5冠、藤井聡太王将(竜王・王位・叡王・棋聖=20)が羽生善治九段(52)の挑戦を受ける、第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第6局(主催 毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社・日本将棋連盟)が11、12の両日、佐賀県上峰町「大幸園」で行われ、88手で後手の藤井が勝ち、4勝2敗でタイトルを初防衛した。通算タイトル数は最速、最年少で森内俊之九段(52)と並ぶ歴代8位の12期目を獲得した。
【図】王将戦第6局の投了図
羽生は前人未到のタイトル100期獲得はならなかった。
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強くなれた。「負けました」。頭を下げた羽生が頭を上げても、藤井は頭を下げ続けた。
「考えても分からない局面が多く、将棋の奥深さを感じた」。毎局、工夫をこらし、深い研究手をぶつけてくる羽生の戦法を解読しようと、考え抜いた。
今シリーズは先手番が勝ち続ける一進一退の攻防戦。第6局は先手の羽生が角換わりの戦型に誘導した。羽生は第4局で勝利した角換わり腰掛け銀ではなく、駒が前に前に進む早繰り銀を選択した。1日目午前、藤井の40手目「後手6四角」で前例を離れると、未知の領域に入り、昼食休憩を挟み1時間以上の長考合戦になった。
藤井の形勢有利で迎えた2日目は、お互いの角の働きがポイントとなった。藤井の筋違いの「後手7四角(生の手持ちの角)が刺さるのか。57手目、羽生が勝負手を放つ。藤井陣の深く打ち込んだ「先手2一角」。異次元の受けでこの角を働かせず、逆に76手目「後手5六角」と強烈に角を進軍させた。「寄せの形が見えてきた」。
“羽生マジック”を封印し、勝利への手応えを感じた瞬間だった。
藤井が生まれたとき、羽生はすでに4冠を独占していた。平成から令和へ、歳月が流れ、20歳と52歳の“世紀の一戦”。それぞれが培ってきた将棋観が激突する戦いでもあった。
「棋は対話なり」。無言の対局でも盤を挟んで「羽生の頭脳」を吸収し、毎局後の感想戦を「とても楽しい時間だった」と振り返った。師匠の杉本昌隆八段は言う。「いっしょに過ごす時間が長く、若い藤井5冠が得るものは多い」。
「中盤以降に気づいてない手を指されることが何度もあった。難解な将棋が多く、大変なシリーズだった」と振り返ったが、「得るものが多いシリーズだった。8時間という長い持ち時間で6局指すことができ、羽生先生の強さや自分の課題を感じた」。
渡辺明棋王(名人)に挑む棋王戦5番勝負では、2勝1敗で奪取に王手をかけ、羽生以来、史上2人目の最年少での6冠獲得を目指す。19日には第4局が行われる。名人戦の挑戦権も獲得し、4月から名人戦7番勝負に挑む。さらに強くなった20歳が、最強の道を歩む。
【松浦隆司】