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野にうち捨てられ朽ちていく美女の死体。戦慄のイメージが現代に及ぼすものは?―山本 聡美『中世仏教絵画の図像誌』

2024年11月09日 17時03分45秒 | 女と男のこと
野にうち捨てられ朽ちていく美女の死体。戦慄のイメージが現代に及ぼすものは?―山本 聡美『中世仏教絵画の図像誌』山崎 一昭による書評

野にうち捨てられ朽ちていく美女の死体。戦慄のイメージが現代に及ぼすものは?


多彩な仏教思想が花開いた中世。地獄・鬼・六道輪廻(ろくどうりんね)など、仏教的罪業観は人々の生き方を規定し、今も日本人のDNAの中に脈々と受け継がれている。こうした仏典の教説は文字だけでなく、絵画化されることで具体化し、社会により深く浸透していった。



本書は、仏典に基づく詞書と絵を備える「経説絵巻」、後白河上皇の絵巻コレクションである「宝蔵絵」(ほうぞうえ)、死後の裁きや六道めぐりを描いた「六道絵」(ろくどうえ)、死後の肉体が辿る九段階の相を描いた「九相図」(くそうず)の各論を通じて、仏教絵画の成立と受容の実相である「仏教絵画の生命誌」をダイナミックにひもといていく。

中でも、野にうち捨てられた美女の亡骸が無惨に腐敗し、鳥獣の糧となって白骨と化すという「九相図」の凄烈な死の描出は、見る者を戦慄させずにはおかない。従来、修行僧が湧き起こる性的煩悩を断ち切るために用いられてきたと理解されてきたが、さらに著者は死体として描かれる女性側の視点にも着目して「(「九相図」は)女人教化の役割をも担っていた」と踏み込む。


「不浄と無常の図像」として完成した「九相図」は、やがて聖武天皇の后・光明(こうみょう)皇后や嵯峨天皇の后・檀林(だんりん)皇后、王朝美人として名高い小野小町といった特定の女性と結びついて描かれるようになる。そして今、現代の画家によっても新たな死のイメージをもって再創造されており、「過去の九相図から架橋された豊饒な物語を語り始め」ていると展望する。

本書が提示する絵画を用いた唱導方法の豊かさは、現在とこれからの仏教の布教のあり方を考える上でも多くのヒントを与えてくれる。

[書き手] 山崎 一昭(やまざき かずあき・「仏教タイムス」記者)

[書籍情報]『中世仏教絵画の図像誌』
著者:山本 聡美 / 出版社:吉川弘文館 / 発売日:2020年02月14日 / ISBN:4642016635

仏教タイムス 2020年4月2日掲載

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