世界平和アピール七人委員会が、「原発のない世界」を求めてアピール
7月11日、外国特派員協会で発表
日、英、仏、独語で
世界平和アピール七人委員会は、東日本大震災から4カ月となる7月11日、日本外国特派員協会(東京・有楽町)で記者会見し、「原発に未来はない 原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える」と題するアピールを発表した。アピールは日、英、仏、独語で、日本と世界の市民、リーダーに呼びかけている。会見には池田香代子、池内了、小沼通二、武者小路公秀、辻井喬の5委員が出席し、記者たちの質問に答えた。
発表されたアピールでは、「私たちは、全世界の原子力発電所すべての廃止を決定すべきだと考える」と呼びかけている。特に日本においては、活断層上の原発の即時停止、複数の原子炉を持つ発電所の規模縮小などを求めた。さらにエネルギー政策の「小型化、分散化、多様化」への転換を提起し、自然エネルギー開発や省エネルギーの推進を促した。IAEAと加盟国に対しては、原子力の軍事転用に限らず大型施設の情報把握を強め、原発事故発生時には国際専門家チームを組織して主体的に収束に努めるよう希望した。
「世界平和アピール七人委員会の7月11日のアピール」は、日本語のほかに英独仏語版があり、七人委員会のホームページ http://worldpeace7.jp に掲載してあります。独仏語版は改定中。) 発表は東京の外国特派員協会で、国内・国外の報道関係者30人近くに対して日本語と英語で行いました。 七人委員会のサイトから説明30分、質疑30分全体1時間のアピール発表全体のU-stream の動画を 見ることも出来ます。
[日本語全文]WP7 No.104J
原発に未来はない;
原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える 2011年7月11日
世界平和アピール7人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬
2011年3月11日に発生した東日本大震災の 地震と津波、東京電力福島第一原子力発電 所事故に際して、国内・国外の市民や各国 政府から多大の援助、特に福島原発事故の 対策については不可欠の技術協力、をいただ いている。原発の過酷な事故現場では多数の 人たちが日夜対応に当っている。これらすべて のひとたちに対して、心から感謝の意を表したい。 世界平和アピール七人委員会は、天災のなかでおこった人災としての東京電 力福島原子力発電所事故について、われわれ日本人と全世界の人々がともに 考え、ともに対策を練るべき問題が山積していると考える。日本と世界諸国 の市民、学界、言論界そして政府関係者、特に原発はやめられないのではな いかと考えている人たち、が真剣な検討を進めてくれることを切望する
1. 東京電力福島第一原子力発電所事故
巨大な地震と津波が襲いかかった東京電力福島第一原子力発電所(以下福島原発と略す)では、人的なまずさが重なり、すべての電源が失われ、6基の原子炉中、運転中の3基でメルトダウンが起こり、停止中の3基の中の1基も 含めて4基で水素爆発が起こって、大きく損傷し、空中、地中、海中の環境 に多大な放射性物質が放出されるという、起こしてはならない事態を生じ、 廃炉にせざるを得なくなった。日本の太平洋岸の原子炉20基と六ヶ所村の ウラン再処理工場、定期点検で停止していた原子炉も含めて、事故発生後 すべて運転を停止している。
事故発生から4か月経過した現在でも、発熱を続ける核燃料の安定した制御 には至らず、短時間に状況が大きく変わる可能性は低減したとはいえ、新たな 水素爆発発生の危険性はなくなっていない。また冷却に使った大量の高濃度汚 染水の処理はできないままであり、発電所外への放射性物資の放出も収束でき事故終息宣言が出せないでいる。何が起きたのかの全貌は、まだわかって いない。
東京電力と経済産業省の原子力安全保安院は、科学と技術のもつ基本的性格 と可能性を軽視し、安易に原発利用を進めてきたため、事故発生後適切な対応 を速やかに取れず、被害が拡大したといわざるを得
ない。避難を強いられた人たちは、土地と家と、家族のまとまり、コミュニティ内 の絆、いつくしんできた動植物、仕事、精神的安心などを突然失うことを強い られ、被曝者を出し、今日でも、今後の見通しをたてられずに不安定な毎日を送らされている。
2. 恐怖と欠乏を免れた平和な生活を
日本の市民は、第二次大戦までの日本に対して反省をおこない、日本国憲法 前文に世界諸国民が「恐怖と欠乏を免れて平和に生存する権利」を持つこと を確認した。 世界平和アピール七人委員会は、1955年の発足以来、不偏不党の立場に立っ て、世界の平和と繁栄を願って活動を続けてきた。七人委員会が、すべての 核兵器と戦争に無条件で反対し、国際協調の下で国連を強化して、新しい世界 秩序を打ち立てることを願ってきたのはこのためであった。2009年には「いの ちを大切にする世界をめざして」アピールを発表して、「人間の地質圏・生命圏 に及ぼす破壊力の自覚の必要性」と「知識開発・権力行使・市場活動の規制の 必要性」を強調した。 しかるに日本の現行の危機管理政策は、経済効果とのバランスを優先し、災 害被災地の住民、とくに脆弱な立場の市民の平和的生存権を侵害している事実 について十分配慮していない。 現在、避難を強制された人たち、その周辺で不安に打ちひしがれながら懸命に 生きている人たち、さらに距離が離れているにもかかわらず、外で遊ぶことが 出来なくなった子供たち、妊娠中・育児中の女性たち、放射性物質が飛来して きて生産物が売れなくなった人たちなどのことを考えると、彼らの基本的人権 が侵されていると考えざるを得ない。 私たちは、“可能な限り”などという安易な言葉は使わず、いつまでも東京電力 福島第一原発の被災者との連帯の意識を最優先に考えて、行動していきたい。 七人委員会は、日本列島の地質圏の不安全性を前にして、日本の政府と財界に 対して、エネルギー政策の選択において、事故が起きてからの対策以前に、予 防原則にのっとった事前の慎重な政策を採用することを訴えたい。 日本列島に住む市民は、自然との棲み分けによる共生をめざすべきである。
3. 安心と安全を破壊する原子力発電所の廃止の具体的提案
原子力発電は、原子炉の中で核分裂によって大量の放射性物質を作り出し、そ の時の発熱を利用して発電する装置である。運転停止後も、年単位で続く発熱 を冷却し続けなければならず、作られた放射性物質は一万年以上管理を続けな ければならない。この管理に失敗すれば、理由のいかんを問わず人体を含む環 境を汚染する。 実際に、1986年のチェルノブイリ原発事故と今回の福島原発事故によって、大 量の放射性物質が環境に放出され、多数の被災者が発生したことを考えると、 今後も、天災あるいは人災による過酷な事故が起こりうると考えなければなら ない。さらに使用済核燃料中の放射性物質の確実で安全な処理・管理方法が見 つかっていないこと、核燃料が限りある資源であること、事故が起きた時の経 済性を併せて考えれば、原発は将来の安定した安全なエネルギー源と位置付け ることはできない。 従って我々は、スイス・ドイツ・イタリヤだけにとどまることなく、全世界の 原子力発電所すべての廃止を決定すべきだと考える。 日本における廃止の順序と期限についての具体的提案を以下で述べる。 日本の原子力発電は、1966年に最初の原子力発電所が茨城県東海村で稼働して 以来、拡大の一途をたどり31年後の1997年に53基に達した。翌年、最初の原発 を廃炉にしてからも新設と廃炉による増減が続き、福島原発が事故を起こした 時点で54基だった。規模の拡大は1997年で止まったのだった。現在発電用原子 炉数は米・仏に続き世界第3位の規模である。現在建設中・計画中の発電用原子 炉が11基あるが、これらがすべて実現したとしても、初期に建設した原発の廃 炉が続くことになるので、原子力発電の規模は減少せざるを得ない。これに対 して、当初耐用年限を30年、40年としていた原子炉をこの期限を超えて運転継 続するという方針が出されている。これらはすべて、従来の安全審査基準に基 づいて審査されたものであって、福島原発事故後、政府自身が、基準が不十分 だったことを認め、安全審査基準の見直しを進めることにしていることに留意 すれば、極めて危険な選択であるといわざるを得ない。 これらを考慮すれば
(1) 当初の耐用年数に達した老朽化原子炉は、故障の確率が増加するので、 寿命を延ばすことなく廃炉にすべきである。
(2) 建設中・計画中の発電用原子炉は、不十分な安全審査基準によって認可 されたものなので、直ちに凍結・廃止すべきである。
(3) 4つのプレートが集まっていて、数しれぬ活断層が地下にある日本では、 地震・津波は避けることができない。活断層の上など危険性が高い原子 炉は即時停止すべきである。
(4) 福島原発事故が終結できない一つの理由は、一つの敷地に6基の大型原 発を設置している過密によるものであった。日本の原子力発電所はほと んどすべて複数の原子炉を持っている。複数原子炉は、削減の順序を決 め速やかに規模を縮小すべきである。
(5) これらの基準によって廃止されることにならない原子炉があれば、再び 大事故が起こりうると覚悟ができた場合に限り、安全対策について万全 の策を講じ、国内・国外の第三者の検証をもとめて承認を得たうえで、 設置する地元自治体だけでなく、危害が及びうる範囲の市民の同意を条 件として、最短期間運転を続ける。これらの条件をすべて満たすことが 出来ないならば、これらの原発の廃止に踏み切る以外ない。 この方式を採用すれば、一番遅い場合でも日本は最新の原発が耐用年数を迎 える年までに原発のない国になる。
4. 原発廃止は可能である
福島原発事故直後から、今後も原子力発電所が不可欠だと発言している人た ちがいる。彼らは、「安全性を確保したうえで」というが、これは50年以上言 い続けてきた裏付けのない言葉にすぎなかった。1950年代から原子力発電を推 進してきた経済産業省(と前身の通商産業省)、その外局である原子力安全保安 院は、安全確保のために身をひきしめなければならないのに、福島原発事故の 全貌が見えていない段階であり、確認された汚染地域が広がりつつある中で、 定期検査のために停止中の原子力発電所について、安全対策が確認できたと主 張して再稼働実現を目指して地元への圧力を強めている。 日本で初めて原子力発電所を建設しようという問題が起きた1950年代後半に、 日本学術会議は学術的視点に立って、耐震性を含む安全性、廃棄物処理、採算 性などの検討を進め、問題点を指摘した。政府がこれらの提言を誠実に受け止 めれば今日の事故は起こらないで 済んだ可能性が大きい。 世界をみれば、再生可能な自然エネルギーの研究・開 発・利用は着々と拡大し ている。過去2年を見れば中国は世界最大の投資を続けているし、原子力大国 である米・仏を見ても10位以内の地位を占めている。その中で、日本の状況は 微々たるものであって、諸外国との差が大きく広がっている。 これまでの日本のエネルギー政策は、原子力発電を推進してきた人たちの主導 権の下できめられてきた。電力会社は発電から送電、電力販売までを扱う地域 独占であり、発電に必要な経費は、すべて自動的に電気料金に上乗せされるシ ステムになっている。日本のエネルギー関連研究開発経費はほとんどが原子力 分野につぎ込まれてきた。外部からの再生可能な自然エネルギーの参入は種々 の規制によって大部分が阻まれてきた。日本の遅れの原因は制度上のものだっ たのである。
このたびの原発事故に対して苦悩の中で対応している福島県民が、二度と原発 による被災者を出さないために、すべての原発に別れを告げ、再生可能な自然 エネルギーの、日本における最先端県を目指す歩みを 始めたことを、七人委員 会は高く評価し、全面的に支持したい。 しかしこ れは福島県民だけの問題ではない。20世紀型の自然支配をめざした大 量生産、 大量消費、大量廃棄社会を維持し続けるか、自然の脅威を恐れつつ、 その恩恵 に感謝してこれを利用する21世紀、22世紀を目指すかの、日本全体の、 そして 世界的選択の問題である。 われわれ世界平和アピール七人委員会は、将来に向 けたエネルギー政策を速や かに進めるために必要な手順を提言したい。
(1) 再生可能な自然エネルギーの研究・開発・利用の速やかな拡大を優先し て進め る。大型化・集中化・一様化から、小型化・分散化・多様化への転換を はか り、これを支えるための種々の規制の撤廃を進める。
(2) 日本では、市民と企業の間に省エネルギー意識が急速に浸透しつつある。 電力使用量の一層の削 減、省エネルギー機器の採用・普及によるエネルギー効 率の向上、電力使用時 間の分散化の徹底、自家発電の推進によって電力使用の ピークを大きく減少さ せる。
(3) 前2項の拡大とともに、残存原子力発電所の運転間を短縮が可能になるし、させなければならない。 日本での電力不足は、一年のなかで、夏の短期間の午後の数時間の電力使用ピ ークの問題なのである。エネルギーはほしいだけ作るという経済論理でなく、 利用できる範囲で生活すると考え、市民の平和的生存権を優先させることが大 事である。 歴代の自民党政権は、日本は核兵器製造の能力を持つが、その政権が続く間は 造らないといい続けてきた。そのうえで、原子力発電を拡大し、大量のプルト ニウムを保有し、ウラン濃縮技術も手に入れた。この政策は、核兵器の有用性 に裏付けられた核の傘への依存とともに、海外から日本の意図について長年の 間、疑惑の目で見られてきた。原子力発電からの離脱に向け舵を切れば、この 疑惑を払拭することも可能になる。
5. 原子力発電所へのIAEAの関与の一層の強化を
国連の専門機関として 1957年に発足した国際原子力機関(IAEA)は、原子力 平和利用に貢献し、軍事 利用への転用の防止を確保するために活動してきた。 1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発の事故では、放射性物質の放 出は事故の10日後に収束で き、4か月後の8月25日から29日までIAEAが主 催してウィーンで専門家会議を開催し事故を分析した。 われわれは、福島原発事故発生に際し、意見の違いを乗り越えて、速やかな収 束にむけて国内・国外の全面的な協力が進められることを希望し、批判を控え てきた。しかし事故発生後4か月経過した今日になって も、遺憾ながら事故の 実態を分析できる段階になっていない。 東京電力と原子力安全保安院の事故に対するこれまでの対応を見ると、見通し のない、その場しのぎの極めて歯痒いびぼう策の繰り返しが多く、最も楽観的 な期待を事実であるかのように述べ、次々に予測が外れ、後手に回り、起こし てはいけない被害を拡大させた。 日本では原子力基本法に公開の原則が決められている。それにもかかわらず 、東京電力と原子力安全保安院の透明度は極めて低く、実態がなかなかみえず、 刻々と変わる状況に対し市民が適切な判断をすることは非常に困難だった。東 京電力と政府は、市民を信頼して、不明なことは不明とし、危険は危険として、 事故の状況と将来への見通しを速やかに公開しなければならない。 原子力発電所の事故の影響は、国境を越え、領海内にとどまらず波及すること を考えれば、対策は本来当事者に任せるだけでなく、国内・国外の英知を結集 して当たるべきである。 IAEAは、平常時から、安全性について科学技術的側面と社会的側面についての 国際的基準を作成し、軍事転用の可能性についての現地査察にとどまらず、各 国の原子力平和利用の大型施設の情報把握を一層強化していくべきである。さ らに万一原発事故が起きた場合には、要請を受けてから助言をし、協力し、情 報を収集して加盟国に報告することにとどまらず、主体的に国際専門家チーム を組織し、事故の完全収束にむけて、全面的 な処置の中心になる体制を整えて いくようIAEA ならびに加盟各国に希望する。なお我々七人委員会は、現在日本を含めた各国で進められている原子力発電所 輸出の動きは、輸出先国に原発事故による過酷な被害の可能性を輸出すること になるので、行うべきではないと考える。また持続可能な自然エネルギー研究・開発・利用の国際協力こそ積極的に強化すべきだと訴える。
6. 結び
日本は3.11東日本大震災における東京電力福島第一原発爆発の人災を経験する こと 、広島・長崎・ビキニにおける核の軍事利用の被災国であることに加え、 平和利用の原発の被災国となった。 世界平和アピール七人委員会は、日本の多くの市民と思いを共有して、核の軍 事利用の廃絶とともに原子力発電所を全廃する世界に向かう道を歩むことを、 日本および全世界の良識ある市民とリーダーとに求めるものである。 以上
連絡先:世界平和アピール七人委員会事務局長小沼通二
eメール: mkonuma254@m4.dion.ne.jp
ファクス:
045-891-8386
URL: http://worldpeace7.jp
7月11日、外国特派員協会で発表
日、英、仏、独語で
世界平和アピール七人委員会は、東日本大震災から4カ月となる7月11日、日本外国特派員協会(東京・有楽町)で記者会見し、「原発に未来はない 原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える」と題するアピールを発表した。アピールは日、英、仏、独語で、日本と世界の市民、リーダーに呼びかけている。会見には池田香代子、池内了、小沼通二、武者小路公秀、辻井喬の5委員が出席し、記者たちの質問に答えた。
発表されたアピールでは、「私たちは、全世界の原子力発電所すべての廃止を決定すべきだと考える」と呼びかけている。特に日本においては、活断層上の原発の即時停止、複数の原子炉を持つ発電所の規模縮小などを求めた。さらにエネルギー政策の「小型化、分散化、多様化」への転換を提起し、自然エネルギー開発や省エネルギーの推進を促した。IAEAと加盟国に対しては、原子力の軍事転用に限らず大型施設の情報把握を強め、原発事故発生時には国際専門家チームを組織して主体的に収束に努めるよう希望した。
「世界平和アピール七人委員会の7月11日のアピール」は、日本語のほかに英独仏語版があり、七人委員会のホームページ http://worldpeace7.jp に掲載してあります。独仏語版は改定中。) 発表は東京の外国特派員協会で、国内・国外の報道関係者30人近くに対して日本語と英語で行いました。 七人委員会のサイトから説明30分、質疑30分全体1時間のアピール発表全体のU-stream の動画を 見ることも出来ます。
[日本語全文]WP7 No.104J
原発に未来はない;
原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える 2011年7月11日
世界平和アピール7人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬
2011年3月11日に発生した東日本大震災の 地震と津波、東京電力福島第一原子力発電 所事故に際して、国内・国外の市民や各国 政府から多大の援助、特に福島原発事故の 対策については不可欠の技術協力、をいただ いている。原発の過酷な事故現場では多数の 人たちが日夜対応に当っている。これらすべて のひとたちに対して、心から感謝の意を表したい。 世界平和アピール七人委員会は、天災のなかでおこった人災としての東京電 力福島原子力発電所事故について、われわれ日本人と全世界の人々がともに 考え、ともに対策を練るべき問題が山積していると考える。日本と世界諸国 の市民、学界、言論界そして政府関係者、特に原発はやめられないのではな いかと考えている人たち、が真剣な検討を進めてくれることを切望する
1. 東京電力福島第一原子力発電所事故
巨大な地震と津波が襲いかかった東京電力福島第一原子力発電所(以下福島原発と略す)では、人的なまずさが重なり、すべての電源が失われ、6基の原子炉中、運転中の3基でメルトダウンが起こり、停止中の3基の中の1基も 含めて4基で水素爆発が起こって、大きく損傷し、空中、地中、海中の環境 に多大な放射性物質が放出されるという、起こしてはならない事態を生じ、 廃炉にせざるを得なくなった。日本の太平洋岸の原子炉20基と六ヶ所村の ウラン再処理工場、定期点検で停止していた原子炉も含めて、事故発生後 すべて運転を停止している。
事故発生から4か月経過した現在でも、発熱を続ける核燃料の安定した制御 には至らず、短時間に状況が大きく変わる可能性は低減したとはいえ、新たな 水素爆発発生の危険性はなくなっていない。また冷却に使った大量の高濃度汚 染水の処理はできないままであり、発電所外への放射性物資の放出も収束でき事故終息宣言が出せないでいる。何が起きたのかの全貌は、まだわかって いない。
東京電力と経済産業省の原子力安全保安院は、科学と技術のもつ基本的性格 と可能性を軽視し、安易に原発利用を進めてきたため、事故発生後適切な対応 を速やかに取れず、被害が拡大したといわざるを得
ない。避難を強いられた人たちは、土地と家と、家族のまとまり、コミュニティ内 の絆、いつくしんできた動植物、仕事、精神的安心などを突然失うことを強い られ、被曝者を出し、今日でも、今後の見通しをたてられずに不安定な毎日を送らされている。
2. 恐怖と欠乏を免れた平和な生活を
日本の市民は、第二次大戦までの日本に対して反省をおこない、日本国憲法 前文に世界諸国民が「恐怖と欠乏を免れて平和に生存する権利」を持つこと を確認した。 世界平和アピール七人委員会は、1955年の発足以来、不偏不党の立場に立っ て、世界の平和と繁栄を願って活動を続けてきた。七人委員会が、すべての 核兵器と戦争に無条件で反対し、国際協調の下で国連を強化して、新しい世界 秩序を打ち立てることを願ってきたのはこのためであった。2009年には「いの ちを大切にする世界をめざして」アピールを発表して、「人間の地質圏・生命圏 に及ぼす破壊力の自覚の必要性」と「知識開発・権力行使・市場活動の規制の 必要性」を強調した。 しかるに日本の現行の危機管理政策は、経済効果とのバランスを優先し、災 害被災地の住民、とくに脆弱な立場の市民の平和的生存権を侵害している事実 について十分配慮していない。 現在、避難を強制された人たち、その周辺で不安に打ちひしがれながら懸命に 生きている人たち、さらに距離が離れているにもかかわらず、外で遊ぶことが 出来なくなった子供たち、妊娠中・育児中の女性たち、放射性物質が飛来して きて生産物が売れなくなった人たちなどのことを考えると、彼らの基本的人権 が侵されていると考えざるを得ない。 私たちは、“可能な限り”などという安易な言葉は使わず、いつまでも東京電力 福島第一原発の被災者との連帯の意識を最優先に考えて、行動していきたい。 七人委員会は、日本列島の地質圏の不安全性を前にして、日本の政府と財界に 対して、エネルギー政策の選択において、事故が起きてからの対策以前に、予 防原則にのっとった事前の慎重な政策を採用することを訴えたい。 日本列島に住む市民は、自然との棲み分けによる共生をめざすべきである。
3. 安心と安全を破壊する原子力発電所の廃止の具体的提案
原子力発電は、原子炉の中で核分裂によって大量の放射性物質を作り出し、そ の時の発熱を利用して発電する装置である。運転停止後も、年単位で続く発熱 を冷却し続けなければならず、作られた放射性物質は一万年以上管理を続けな ければならない。この管理に失敗すれば、理由のいかんを問わず人体を含む環 境を汚染する。 実際に、1986年のチェルノブイリ原発事故と今回の福島原発事故によって、大 量の放射性物質が環境に放出され、多数の被災者が発生したことを考えると、 今後も、天災あるいは人災による過酷な事故が起こりうると考えなければなら ない。さらに使用済核燃料中の放射性物質の確実で安全な処理・管理方法が見 つかっていないこと、核燃料が限りある資源であること、事故が起きた時の経 済性を併せて考えれば、原発は将来の安定した安全なエネルギー源と位置付け ることはできない。 従って我々は、スイス・ドイツ・イタリヤだけにとどまることなく、全世界の 原子力発電所すべての廃止を決定すべきだと考える。 日本における廃止の順序と期限についての具体的提案を以下で述べる。 日本の原子力発電は、1966年に最初の原子力発電所が茨城県東海村で稼働して 以来、拡大の一途をたどり31年後の1997年に53基に達した。翌年、最初の原発 を廃炉にしてからも新設と廃炉による増減が続き、福島原発が事故を起こした 時点で54基だった。規模の拡大は1997年で止まったのだった。現在発電用原子 炉数は米・仏に続き世界第3位の規模である。現在建設中・計画中の発電用原子 炉が11基あるが、これらがすべて実現したとしても、初期に建設した原発の廃 炉が続くことになるので、原子力発電の規模は減少せざるを得ない。これに対 して、当初耐用年限を30年、40年としていた原子炉をこの期限を超えて運転継 続するという方針が出されている。これらはすべて、従来の安全審査基準に基 づいて審査されたものであって、福島原発事故後、政府自身が、基準が不十分 だったことを認め、安全審査基準の見直しを進めることにしていることに留意 すれば、極めて危険な選択であるといわざるを得ない。 これらを考慮すれば
(1) 当初の耐用年数に達した老朽化原子炉は、故障の確率が増加するので、 寿命を延ばすことなく廃炉にすべきである。
(2) 建設中・計画中の発電用原子炉は、不十分な安全審査基準によって認可 されたものなので、直ちに凍結・廃止すべきである。
(3) 4つのプレートが集まっていて、数しれぬ活断層が地下にある日本では、 地震・津波は避けることができない。活断層の上など危険性が高い原子 炉は即時停止すべきである。
(4) 福島原発事故が終結できない一つの理由は、一つの敷地に6基の大型原 発を設置している過密によるものであった。日本の原子力発電所はほと んどすべて複数の原子炉を持っている。複数原子炉は、削減の順序を決 め速やかに規模を縮小すべきである。
(5) これらの基準によって廃止されることにならない原子炉があれば、再び 大事故が起こりうると覚悟ができた場合に限り、安全対策について万全 の策を講じ、国内・国外の第三者の検証をもとめて承認を得たうえで、 設置する地元自治体だけでなく、危害が及びうる範囲の市民の同意を条 件として、最短期間運転を続ける。これらの条件をすべて満たすことが 出来ないならば、これらの原発の廃止に踏み切る以外ない。 この方式を採用すれば、一番遅い場合でも日本は最新の原発が耐用年数を迎 える年までに原発のない国になる。
4. 原発廃止は可能である
福島原発事故直後から、今後も原子力発電所が不可欠だと発言している人た ちがいる。彼らは、「安全性を確保したうえで」というが、これは50年以上言 い続けてきた裏付けのない言葉にすぎなかった。1950年代から原子力発電を推 進してきた経済産業省(と前身の通商産業省)、その外局である原子力安全保安 院は、安全確保のために身をひきしめなければならないのに、福島原発事故の 全貌が見えていない段階であり、確認された汚染地域が広がりつつある中で、 定期検査のために停止中の原子力発電所について、安全対策が確認できたと主 張して再稼働実現を目指して地元への圧力を強めている。 日本で初めて原子力発電所を建設しようという問題が起きた1950年代後半に、 日本学術会議は学術的視点に立って、耐震性を含む安全性、廃棄物処理、採算 性などの検討を進め、問題点を指摘した。政府がこれらの提言を誠実に受け止 めれば今日の事故は起こらないで 済んだ可能性が大きい。 世界をみれば、再生可能な自然エネルギーの研究・開 発・利用は着々と拡大し ている。過去2年を見れば中国は世界最大の投資を続けているし、原子力大国 である米・仏を見ても10位以内の地位を占めている。その中で、日本の状況は 微々たるものであって、諸外国との差が大きく広がっている。 これまでの日本のエネルギー政策は、原子力発電を推進してきた人たちの主導 権の下できめられてきた。電力会社は発電から送電、電力販売までを扱う地域 独占であり、発電に必要な経費は、すべて自動的に電気料金に上乗せされるシ ステムになっている。日本のエネルギー関連研究開発経費はほとんどが原子力 分野につぎ込まれてきた。外部からの再生可能な自然エネルギーの参入は種々 の規制によって大部分が阻まれてきた。日本の遅れの原因は制度上のものだっ たのである。
このたびの原発事故に対して苦悩の中で対応している福島県民が、二度と原発 による被災者を出さないために、すべての原発に別れを告げ、再生可能な自然 エネルギーの、日本における最先端県を目指す歩みを 始めたことを、七人委員 会は高く評価し、全面的に支持したい。 しかしこ れは福島県民だけの問題ではない。20世紀型の自然支配をめざした大 量生産、 大量消費、大量廃棄社会を維持し続けるか、自然の脅威を恐れつつ、 その恩恵 に感謝してこれを利用する21世紀、22世紀を目指すかの、日本全体の、 そして 世界的選択の問題である。 われわれ世界平和アピール七人委員会は、将来に向 けたエネルギー政策を速や かに進めるために必要な手順を提言したい。
(1) 再生可能な自然エネルギーの研究・開発・利用の速やかな拡大を優先し て進め る。大型化・集中化・一様化から、小型化・分散化・多様化への転換を はか り、これを支えるための種々の規制の撤廃を進める。
(2) 日本では、市民と企業の間に省エネルギー意識が急速に浸透しつつある。 電力使用量の一層の削 減、省エネルギー機器の採用・普及によるエネルギー効 率の向上、電力使用時 間の分散化の徹底、自家発電の推進によって電力使用の ピークを大きく減少さ せる。
(3) 前2項の拡大とともに、残存原子力発電所の運転間を短縮が可能になるし、させなければならない。 日本での電力不足は、一年のなかで、夏の短期間の午後の数時間の電力使用ピ ークの問題なのである。エネルギーはほしいだけ作るという経済論理でなく、 利用できる範囲で生活すると考え、市民の平和的生存権を優先させることが大 事である。 歴代の自民党政権は、日本は核兵器製造の能力を持つが、その政権が続く間は 造らないといい続けてきた。そのうえで、原子力発電を拡大し、大量のプルト ニウムを保有し、ウラン濃縮技術も手に入れた。この政策は、核兵器の有用性 に裏付けられた核の傘への依存とともに、海外から日本の意図について長年の 間、疑惑の目で見られてきた。原子力発電からの離脱に向け舵を切れば、この 疑惑を払拭することも可能になる。
5. 原子力発電所へのIAEAの関与の一層の強化を
国連の専門機関として 1957年に発足した国際原子力機関(IAEA)は、原子力 平和利用に貢献し、軍事 利用への転用の防止を確保するために活動してきた。 1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発の事故では、放射性物質の放 出は事故の10日後に収束で き、4か月後の8月25日から29日までIAEAが主 催してウィーンで専門家会議を開催し事故を分析した。 われわれは、福島原発事故発生に際し、意見の違いを乗り越えて、速やかな収 束にむけて国内・国外の全面的な協力が進められることを希望し、批判を控え てきた。しかし事故発生後4か月経過した今日になって も、遺憾ながら事故の 実態を分析できる段階になっていない。 東京電力と原子力安全保安院の事故に対するこれまでの対応を見ると、見通し のない、その場しのぎの極めて歯痒いびぼう策の繰り返しが多く、最も楽観的 な期待を事実であるかのように述べ、次々に予測が外れ、後手に回り、起こし てはいけない被害を拡大させた。 日本では原子力基本法に公開の原則が決められている。それにもかかわらず 、東京電力と原子力安全保安院の透明度は極めて低く、実態がなかなかみえず、 刻々と変わる状況に対し市民が適切な判断をすることは非常に困難だった。東 京電力と政府は、市民を信頼して、不明なことは不明とし、危険は危険として、 事故の状況と将来への見通しを速やかに公開しなければならない。 原子力発電所の事故の影響は、国境を越え、領海内にとどまらず波及すること を考えれば、対策は本来当事者に任せるだけでなく、国内・国外の英知を結集 して当たるべきである。 IAEAは、平常時から、安全性について科学技術的側面と社会的側面についての 国際的基準を作成し、軍事転用の可能性についての現地査察にとどまらず、各 国の原子力平和利用の大型施設の情報把握を一層強化していくべきである。さ らに万一原発事故が起きた場合には、要請を受けてから助言をし、協力し、情 報を収集して加盟国に報告することにとどまらず、主体的に国際専門家チーム を組織し、事故の完全収束にむけて、全面的 な処置の中心になる体制を整えて いくようIAEA ならびに加盟各国に希望する。なお我々七人委員会は、現在日本を含めた各国で進められている原子力発電所 輸出の動きは、輸出先国に原発事故による過酷な被害の可能性を輸出すること になるので、行うべきではないと考える。また持続可能な自然エネルギー研究・開発・利用の国際協力こそ積極的に強化すべきだと訴える。
6. 結び
日本は3.11東日本大震災における東京電力福島第一原発爆発の人災を経験する こと 、広島・長崎・ビキニにおける核の軍事利用の被災国であることに加え、 平和利用の原発の被災国となった。 世界平和アピール七人委員会は、日本の多くの市民と思いを共有して、核の軍 事利用の廃絶とともに原子力発電所を全廃する世界に向かう道を歩むことを、 日本および全世界の良識ある市民とリーダーとに求めるものである。 以上
連絡先:世界平和アピール七人委員会事務局長小沼通二
eメール: mkonuma254@m4.dion.ne.jp
ファクス:
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