離別哥
守覚法親王家ノ五十首ノ歌に 藤原ノ隆信ノ朝臣
だれとしもしらぬ別のかなしきは松浦のおきを出るふな人
松浦は、もろこしへ渡る海なれば、誰ともしらぬ人の
わかれも、かなしとなり。
遠き所に修行せむとて出たちける人〃わかれを
しみてよみ侍ける 西行
たのめおかむ君も心やなぐさむとかへらむことはいつとなくとも
詞は、別をしみけるにとか。ければとかあるべきことなり。
上句、二三一と句を次㐧して見べし。 たのめおかんは、
いつのほどは歸らむと契りおくなり。 君もといへるに、
我もの意あるべし。
さりともと猶あふことをたのむ哉しでの山路をこえぬわかれは
めでたし。
題しらず 俊成卿
かりそめの旅のわかれとしのぶれど老は涙もえこそとゞめね
めでたし。 かりそめの旅と、引つゞけて見る時は、ち
かき旅なり。又かりそめのと切て、旅の別と見る時は、死ぬる
別にむかへていふ也。老はとあれば、さも聞ゆるなり。
しのぶは、かなしさをおさへしのぶ也。 結句は、旅行人をえ
とゞめぬに、涙をもえとゞめぬなり。
定家朝臣
忘るなよやどる袂はかはるともかたみにしぼる夜はの月影
めでたし。詞めでたし。 二三の句は、又こと人と契を
かはして、今かたみにしぼる、我袂はかはりて、こと人
の袂にやどるともなり。かたみにはたがひになり√契り
きなかたみに袖をしぼりつゝ云々。 一首の意は、又こと人とかた
らひをなして、袂はかはるとも、今かたみにそぼりあひて、
わかれをしむ此袂に、やどれる月影をば、わする
なとなり。 わかれゆく人の哥にて、とゞまる女に
よみかけたる意なり。
※√契りきなかたみに袖をしぼりつゝ
後拾遺集 恋歌四
心変はりてはべりける女に、人に代はりて
清原元輔
契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは