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ノンポリ

 私が入学した30年ほど前の京大には、まだまだ学生運動の残り火が学内にくすぶっていて、赤いヘルメットを被った集団が堂々と闊歩していた。入学するに当たって、親や親戚の者たちから、「ヘルメットだけは被るなよ」と固く釘をさされていた私は、時計台の前でスピーカーを使ったアジテイションを繰り返す一団を、横目で見ながら無関心を装っていた。『二十歳の原点』『されどわれらが日々』など、当時の若者が一度は感化される書物もしっかり読んでいたが、いざヘルメットを被った人々を目にすると、私との時代感覚のずれが感じられ、何を今頃と思わずにいられなかった。
 学内のそんな様子も冷静に見始められるようになったある日、授業の開始を待って雑談していた私達の教室へ赤ヘルの集団が入ってきて、何か叫びながらビラを配り始めた。私の前に体格のいいひげ面で熊のような男がやって来て、私にビラを差し出した。『いらない。』と返す私を遮って、『受け取れ』と押し返してきたのに一瞬ムッとなった私は『受け取らないのも自由だろ。』と、怖いもの知らずの勢いで応戦した。すると、その熊男がいきなり私の胸ぐらをつかんで、『お前は******』と意味不明の言葉を大声でがなりたて始めた。その迫力に気おされて、生来小心者の私は、何も言えずに立ち尽くすだけだったが、様子に気付いた熊男の仲間が飛んできて、彼を押さえて私から引き離してくれた。私はといえば、カッコ悪いやらびっくりするやらで、ただ目を白黒させていただけだった。それ以来、こんなファナティックな人物がいる集団には絶対に近づくまいと心に誓って、いたって軟派な学生になってしまったが、大学生活で初めて受けた洗礼として、今でも鮮明に記憶に残っている。
 何故こんなことを持ち出したかといえば、8月30日に衆議院議員選挙が公示されたからである。私は今まで一度も特定の政党を支持したことのない、ただのノンポリオヤジだが、私がこうなった原点として、上に述べた体験がトラウマのようになって、政治に関心を持てなくなったと言ったら、ムシのいい言い分けになってしまうだろうか。今回の選挙が、郵政民営化の是非を問う国民投票的な選挙であることくらいは、いかな私でも知っているし、地元の選挙区で誰と誰が立候補したかくらいはちゃんと把握している。勿論、投票にはいくつもりだし、今までだって棄権したことはほとんどない、権利を主張するためには義務を果たさなければならないことは分かっているから。
 でも、でもなんだよなあ。投票したい、応援したいと思える候補者がいない。選挙公約を見れば立派なことを言っているし、それなりの努力もしてくれているのだろう。でも、魅力ある候補者がいない。ならば、今の私にとって魅力ある候補者とはどんな人なんだろう・・・
 それは、この夏休みに朝から深夜まで必死になって働いて納めさせていただく、文字通りの私の血税を、大事に無駄なく、有効に使うことを約束してくれる人物に決まっている。『ほんとうに、税金がきつくて・・・』などと愚痴を言っても始まらない。ただ、少しでも私達のためになる政治をしてくれる人が、一人でも多く当選することを願うのみである。
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