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風車の庭

風車の庭 戸田房子

いつかの日のやうにあなたはそこにたつてゐる。
古風な草花をかんむりのやうにからませて。
その胸は虹、瞳はぬれた童話の匂ひがする。
なにかそれはせつないほどの。
遠くとほく雲のはてをひかつた雪片を追つてゐる

わたしは喪失した沓をはいてそつとよりそふ、その乳兒の肌。
黃昏色の輕羅をすかせば。
あなたはかぼそくわらふ、深海の魚あなたはかぼそくわらふ、層楼の埃。
わたしはなほもよりそふ

これは睡眠の扉だらうか。
瞬間うしろの騷音がわたしのこころをかきみだす。
わたしはひしとあなたの手をにぎる。
なんと、その手はわたしの掌のなかで花粉のやうに崩れる。
わたしはふるへる鄕愁であなたをかき抱くあなたは一片の無臭の塊となる

それが約束でもあるかのやうに假死した蝶が笑ふとこはれた風車がことことまはりはじめたその乾いたこゑ。
蒼ざめて目をあげると、凍つた時間のなかをたくみに逸走する白い鳩。
白い鳩よ。
それにしても。
ゆふぐれの徑にむらさきの花はあまく、飾石にもたれると、夢辺の合唱がなほもきこえてくるのであるが。


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