2008年 中谷 巌は「資本主義はなぜ自壊したのか・「日本」再生
への提言」を懺悔の書として公にした。
日本を代表する近代経済学者である中谷巌氏は1990年代から2
000年代にかけて小泉構造改革路線に経済学的根拠を与えたブレイ
ンだった。その中谷氏が自分の唱えた経済政策は富める者が更に富む
経済だったのではないかと疑問を持ち始め、結果的に貧富の格差が拡
大し、社会に不安定さを増しただけではないかと反省した。その著書
が「資本主義はなぜ自壊したのか」という本である。この著書の副題
が「懺悔の書」である。
中谷氏は、貨幣を商品として扱ったことが間違いだった、と主張し
ている。経済学者である中谷氏がこのような発言をすることに私はビ
ックリした。貨幣は商品だと高校の「政治・経済」の教科書にも書い
てある。マネー資本主義。お金を資本主義経済の主要な取引商品にし
たことが間違いだったと私は理解した。
更に人間の労働力を時間で売り買いする。労働力を商品として扱う
ことも間違いだと言っている。なぜなら時間というものは再生産でき
ないからだ。働く人にとって時間というものは一回かぎりのものであ
る。その時間というものを商品として売り買いできるものではないと
言っている。私もそのとおりだと思う。しかし現実には一時間、85
0円という価格で働いている学生は幾らでもいる。「労働力は商品で
はない」とILOは言っている。確かに年功序列賃金などというもの
は労働市場での自由な売買によって決まる労働力価格ではないように
思う。市場で労働力価格を決めた方が効率的・合理的なんだという主
張が新自由主義者の主張だった。これが間違いだったと言っている。
結果的に言えば年功序列賃金というものも合理的根拠をもつ賃金決定
システムであったと反省しているのかもしれない。同様に再生産でき
ない「土地」を商品として売り買いしたのは間違いだったと言ってい
る。確かにそうだ。土地は全人類共有の財産のように思う。空気や電
波が人類共有のものであるように土地もそのようなものであってほし
いものである。
現在の日本は貧困率が15%を超える国になっている。この貧困率
とはOECD加盟国の中ですべての人の年収を横に並べ、その真ん中
に位置する人より下にいる人がどのくらいいるかというのが貧困率と
いうものである。アメリカは貧困大国だと言われている。そのアメリ
カの貧困率が14%超だという。日本の貧困者の割合はアメリカを超
えてしまった。年収200萬円以下の人が1000万人もいるという
のだから日本は貧困大国になったということができる。昔は総中流と
いった。ほとんどの家にはクーラーがあり、自動車が持てるようにな
ったことを言っていたのかもしれない。それがここ20年間ぐらいの
間に貧しい人々がこのように増加してしまった。経済のグローバル化
は日本の働く人々の賃金を低くしてしまった。発展途上国の追い上げ
にあい、国際的な価格競争をする企業は人件費を抑制せざるを得なか
った。だから働く人々の賃金は安くなった。しかし一方には少数なが
ら巨万の富を得た者もいる。市場原理主義は豊かな者と貧しい者とを
生み出す経済システムだった。経済合理性、それは経済的効率性を追
求する。その結果は貧富の格差を拡大する。
今から6年前にリーマンショック後に出された書の中で中谷氏が主張
していることが更に今、助長されている。消費税増税がまた貧富の格
差を拡大する。なぜなら、消費税は貧しいものから富を吸い上げ、富
める者に富を移転する税制なのだから。