伝統文化を想う
数年前の大晦日恒例の「朝まで生テレビ」という番組を見た。その番組に日本
共産党国会対策委員長の穀田恵二さんが和服姿で現れた。似合っていると思った
が違和感があった。着物も高級なもののように見える。共産党のイメージじゃな
い。こう思った。2012年10月23日放送されたニコニコ動画に日本共産党を紹介す
る一時間の番組があった。この番組に穀田恵二さんがやはり和服を着て出てきた。
「穀田さん、和服ですね」と司会役の日本共産党政策委員長の小池晃さんが穀田
さんに話しかけた。「そうですねん、小池さんが和服着て来いと言わはるから着
てきたんです」と穀田さんは京都弁で答えた。この会話を聞き、日本共産党に伝
えたい主張があるのだなと感じた。
小池さんは穀田さんの羽織を摘み、「これは西陣織ですか」と聞いた。「そう
です。西陣織は京都の伝統産業ですからな。私、今日足袋を履いて来ました。今
や京都でも足袋を作る職人さんは一人きりになってしまいました」と穀田さんは
地場産業としての伝統産業が衰退してきていることを嘆いた。
小池さんは日本各地で地域懇談会を開いている。この懇談会に出て来てくれる
商工会議所の方たちや中小企業の方たちが驚かれるのは日本共産党に経済成長戦
略があるということなんですと、穀田さんに話を向けると「私は京都の伝統産業
を宣伝するために着物を着てテレビにでているんです」と穀田さんは発言した。
着物を着てテレビ討論番組に穀田さんが出るのは西陣織のコマーシャルだったん
だと、納得した。初めて穀田さんの和服姿を見たときには論客の中でただ一人の
和服姿に気障だと思ったが理由があった。実はこの違和感に日本共産党の主張が
あったのだ。
保守政党を自認する自民党総裁だった京都選出の谷垣禎一氏など和服を着てテ
レビに出演すれば違和感なく見えるように思うが谷垣氏の和服姿などテレビでは
見たことがない。伝統保守の自民党のイメージと日本の着物文化とは相性がよさ
そうだ。自民党は伝統文化や伝統産業を守り、支え、発展の道を探る政党のよう
なイメージがある。
伝統産業は今や小規模企業、支えている人の高齢化が進んでいる。衰退産業で
ある。私が住む埼玉県春日部市にも伝統産業がある。今から三十年ほど前までは
桐箪笥製造の小規模工場がいくつもあったが、今やほとんどなくなった。数年前、
桐箪笥製造の一番腕のよい職人さんが桐箪笥作りでは生活できないという話を聞
いた。ワーキングプアの世界が我が住む街にあった。春日部には桐箪笥を売る大
きな家具屋さんが何軒もあったが今や一軒の家具屋もない。桐箪笥を作る職人さ
んたちの仕事はなくなった。自家製造していた家具屋の主人たちの中には職人さ
んたちの生活を思い、財産を食いつぶし、限界まで職人を抱え、頑張った人がい
る。
「オヤジは俺たちのことを思ってよ、毎月赤字でも頑張ってくれているんだ。気
の毒でよ。そう言ってもよ、俺たちだって、生活あるべ、だから今までだったら
引き受けなかったようなつまらない仕事でも請けるようにしているんだ。それで
も限界があるべ、だから店を辞めることにしたんだ」。
居酒屋で仲良くなった箪笥職人さんから酒を飲みながら聞いた話である。職人
さんたちは主人を気の毒に思い自ら身を引いた。伝統産業には人情があった。主
人は職人さんを思い、職人さんは主人を思う。互いに思いやりをもつ、人情の伝
統があったが、伝統産業が衰退していくと街から人情もまたなくなっていった。
保守政党には伝統文化や伝統産業を守り、支えていく政策があるのだろうか。
地場産業を守る保守政党の選挙用政策はあるかもしれないが本気になって取り組
む気持ちはあるのだろうか。衰退産業に金をかけるのは経済合理性に反する。も
っともっと成長産業にお金はかけなければいけない。国際競争に勝てるよう企業
は大規模化すべきだ。効率化しなければいけない。大企業を優遇してこそ日本の
発展はあるのだ。大企業が発展すればそこから富の分け前がこぼれ落ちてくる。
トリクルダウンなどという横文字を使い、権威をもった経済学者が保守政党の政
策を新聞、テレビ、雑誌で宣伝する。
広告・宣伝の巨大企業、電通には国民に消費を促す十か条がある。買わせろ、
飽きさせろ、捨てさせろ、流行遅れにさせろ、これらが国民に消費を促す宣伝、
広告の原則だ。自分で好きなものを買っているつもりにさせる。これが消費させ
る戦略だ。消費は美徳なりの生活を普及した。これが保守政党政治の成果だった。
母が嫁入りしたときに持ってきた箪笥を娘は職人さんに作り直してもらう。母か
ら娘へ、娘から孫娘へと引きつながれていく桐箪笥のようなものは消費を喚起し
ない。同じように娘が母の着物を壊し、仕立て直しをする。このような伝統文化
は経済を成長させない。伝統的なものは流行おくれにする。新しい家具、洋服を
次々買わせては捨てさせる。これが経済を成長させる。このような政策を推進し
てきたのが保守政党だった。これが国の政策である以上、地場産業としての伝統
産業は衰退していく運命にあった。保守を自認する政党は本当に日本の伝統産業
を保守してきたのだろうか。
地場産業としての伝統産業を守り、新しく発展の道を探る政策は保守政党には
ない。伝統文化や伝統産業を守り、発展の道を探る政策を追求する政党は保守政
党ではなく、革新政党である日本共産党である。このような主張を象徴するもの
が穀田さんの西陣織の着物姿なのかもしれない。