醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより 131号  聖海

2015-03-25 10:32:13 | 随筆・小説

  現在知られる芭蕉のもっとも古い句
       春や来し年や行きけん小晦日(こつもごり)   芭蕉19歳、寛文2年

句郎 現在知られている芭蕉が初めて詠んだ句を華女さん、知っている?
華女 知らないわ。何を詠んだ句なの。
句郎 「春や来し年や行きけん小晦日(こつもごり)」という句らしいよ。
華女 何を詠んでいるのか、さっぱりだわ。
句郎 「小晦日(こつごもり)」とは大晦日の前日を言うらしい。「春や来し」とは「春が来た」という意味かな。「年や行きけん」とは「新しい年が来た」ということ。
華女 全然わからないわ。何を言っているの。
句郎 寛文2年の12月29日は大晦日の前日、小晦日の日になるでしょ。この小晦日の日に寛文2年は立春が来てしまった。寛文2年の小晦日の日は春が来たと言うのか、それとも新しい年が来たというのかなと、言う意味のようだ。
華女 ただそれだけの句なの。
句郎 芭蕉19歳の時の句だからね。
華女 実際にそういうことってあったのかしら。
句郎 太陰暦の場合、そういうことが起こったんじゃないの。
華女 いまいち、良くわからないけど、わかったことにしておくわ。
句郎 『古今集』春歌の最初が在原元方の詠んだ歌、ふるとしに春たちける日によめると前書きして「年の内に春は来にけり一年を去年とや言はん今年とや言はん」とね。
華女 芭蕉はこの歌を下敷きにして詠んだというわけね。
句郎 そのようだよ。芭蕉のこの句の他にも北村季吟は『山之井』の中に「年の内へふみこむ春の日足哉」があるそうだ。更に「あだ花の春やまづたつ年の内」と言う句や「雲も霞も立つ春を去年とやいはん年の暮」とかね、同じような句があるようだよ。
華女 年の中に春が来るのを面白がって詠んでいるわけね。
句郎 手垢の付いた笑いなのかな。
華女 使い古されたオヤジギャグってところね。
句郎 芭蕉は笑いの好きな機知に富んだ青年だったというイメージが湧くよね。
華女 一緒にいると楽しい男の人という印象が芭蕉だったのかしら。
句郎 そうかもね。だからモテタんじゃないかな。
華女 芭蕉の周りには人が集まって来たんじゃないかしらね。
句郎 当時、笑いを楽しむ談林派の俳諧が大勢だったから、農民や町人でも楽しめる俳諧に興味関心を芭蕉は持ったのかもね。
華女 芭蕉は生涯にわたって、「笑い」を求める精神を持ち続けたんじゃないのかしらね。小説家なんかもその作家の精神は処女作に表れているなんて言うじゃない。
句郎 そうだよね。風雅の誠を追求する孤高の俳人というイメージが芭蕉にはあるけれども実際の芭蕉はそうではなかったんじゃないかという気がするね。
華女 案外、そうなんじゃないかしらと、私も思うわ。