徴用工判決について 宮武嶺氏のブログを転載させていただきました。
朝鮮半島が大日本帝国の植民地にされ、日本統治下にあった戦時中、日本本土の工場に強制徴用された韓国人の元徴用工4人が、新日鉄住金を相手に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、韓国大法院(日本で言う最高裁)は、個人の請求権を認めた控訴審判決を支持し、同社の上告を退けました。
これにより、同社に1人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた判決が確定したのですが、この判決に対して、日本では官民挙げて猛攻撃しています。
いわく
「日韓請求権協定で、強制徴用の問題も含めて最終解決しているのだから、この判決は不当な蒸し返しである」
確かに、1965年に日韓国交正常化に伴い締結された日韓請求協定では、日本が韓国に無償3億ドル、有償2億ドルを供与することで、
「両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決されたと確認する」(2条)
とされています。
しかし、ここで最終解決されたという「請求権」の具体的な対象は明記されていませんし、本件のように被害者個人が日本企業に請求する
「個人請求権」
という言葉は言葉さえ出てきていませんから、この中に含まれていないことは明らかです。
日韓請求権協定は国と国同士の一種の条約ですから、国とは別人格の個人の権利を勝手に放棄したりすることはできません。条文にも「両国間の」とあるように、これは国同士がお互いに賠償請求しないことを決めた協定であることは実は明白です。
そして、このことを日本の外務省も日本の国会で何度も説明してきました。
たとえば、1991年8月27日の参院予算委員会では、当時の柳井俊二・外務省条約局長がこの日韓請求権協定について、「両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決した」の意味を、以下のように答弁しています。
「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。
したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」
同じく、柳井氏は別の時にこう詳しく説明しています。
「しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます」
「この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます」(1992年2月26日衆院外務委員会)
柳井氏は非常に有名な外務官僚で、後に外務省の事務方トップの事務次官、外交官としてトップの駐米大使も務めたエリート中のエリートですが、その人が条約関係をつかさどる条約局のトップであるときに、日韓請求権協定について
「この条約は個人の請求権を直接消滅させたものではない」
と明言しているのです。
また、
「韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない」
とも断言しているのですから、ましてや、強制徴用で働かせた直接の加害者である日本企業に請求を提起することは、日韓請求権協定から全く問題はないことは明らかなのです。
これでは、日本の政府も企業もマスコミもネット右翼も、日韓請求権協定で個人の賠償請求権まで解決済みだなんて、口が裂けても恥ずかしくて言えないと思いませんか?