醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  911号  白井一道

2018-11-15 07:56:46 | 随筆・小説


   冬の芽や耐えて大きな花の咲く  一道


 日曜の朝、庭に出てハナミズキを見上げました。葉の半分が落ち、残った半分がまだらに紅葉していました。朝の青空にハナミズキの樹形を眺めました。樹形をじっと見ていると枝の先端に丸い小さな蕾を見つけました。この小さな蕾は厳しい冬の寒さに耐え、春になると花を咲かせてくれるるのだなとハナミズキの命の息吹を感じました。
 大脇さんは一人で野田在住の外国人をサポートするボランティアをしていると聞き、同行しました。大脇さんが運転する小さな車は居酒屋やスナックが並ぶ四階建てのビルの前に駐車しました。居酒屋にでも入っていくのかなと思っているとビルの裏側に回り手すりの付いた鉄の階段を上り始めました。最上階まで元気にのぼっていきます。いくらか私の方が若いのに息が切れそうなくらい急な階段です。最上階に着くとここに段差があります。気をつけて下さいとアドバイスをいただきました。廊下に設置された洗濯機が夕暮れの
中で音をたてていました。
すると左側の一番奥の部屋のドアが開きました。
 「遅くなってごめんね。今日は友人を連れてきました。」と言うと玄関が台所になっているアパートの中の一室に大脇さんは入っていきます。私も後についています。二畳ぐらいの台所兼入り口を抜けると三畳ぐらいと感じられる畳の部屋にテレビとソファーが置いてありました。そこに大脇さんと私、四十前後のフィリピン人女性が座りました。小太りの女性には少し窮屈そうに見えました。
 大脇さんは早速書類を取
り出し、本人に確認をしながら記入し始めました。これでは振り込めないと言われましてね、とフィリピン人に説明しながら仕事をしていきます。何の書類なのかなと思っていると「確定申告は五年さかのぼってできるということなんですがね、まぁーいろいろありまして二年間さかのぼって申告したところ、還付金を柏税務署が振り込んでくれることになりました。これが振込先を記入する署名なんです。銀行名と銀行支店名の記入が無かったため振り込めないという通知があったんです。」と説明してくれました。柏税務署行きという封筒に書類を入れ、のり付けし、裏面に署名してあげていました。この仕事が終わると女性はこの書類が読めないと一枚の紙を出しました。見ると身元保証書とありました。
 ミンダナオ島出身の女性の妹さんが姉さんを頼って日本に来るというようなことらしい。その妹さんの身元保証をお姉さんがする保証書だった。女性には英語が通じるようだ。これはギャランティーだ、と大脇さんが説明すると女性は納得した。これはイヤー、これはマンス、これはデイ。ナショナリティー、アドレス、ネーム、次々と説明しながら日本語を英語に変えて書いていく。「法令を遵守します。」というところでちょっと詰まってしまいました。私も何と言うのかなと思っているとキープ・ザ・ロウと大脇さんは英語で書きました。さすがだ。
ゴミ分別の方法も英語を日本語の下に書いたところ、ゴミを分別するようになり、コンビニにゴミを捨てなくなったという。大脇さんは大きな花を咲かし初めているようだ。