醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  960号  白井一道

2019-01-07 14:55:07 | 随筆・小説


  自由と規制について


侘助 規制と自由という問題について考えてみようよ。
呑助 労働法制の岩盤規制をこじ開けると安倍総理は握りこぶしを振り上げて国会答弁している姿が瞼に浮かびますね。
侘助 労働法制とは、労働者の権利を守る法律のことを言う。労働法制の岩盤規制をこじ開けるとは、労働者の権利を奪うということを意味しているように思うな。
呑助 労働者にとっては、ひどいことになるということなんですか。
侘助 企業経営者・資本家と企業に働く労働者・勤労者との関係においては、圧倒的に労働者・勤労者の方が弱いよね。経営者側の方が圧倒的に強いから国が法律で労働者側を守ることによって経営者側と労働者側とを対等な人間関係にしている。
呑助 規制とは、弱者と強者とを対等なものにする働きがあるということなんですね。
侘助 対等な人間関係を創り出すことが社会を豊かにするという認識が社会的にあるからこそ労働法制がつくられてきたのではないかと思う。
呑助 確かにそうだと思いますよ。会社への愛着というか、働き甲斐のようなものがでてきますよ。
侘助 世の中には強い者と弱い者がいる。弱者がいるから強者がいる。最年少の将棋棋士藤井聡太七段は強い強い将棋指だ。彼は実に聡明な少年だ。将棋には勝ち、負けがある。真剣勝負をした後、将棋には感想戦というものがある。この感想戦について藤井七段は敗者のためにあると正月のインタヴューで述べていた。勝者が敗者を労い、敬う儀式が感想戦だという認識を披露していた。
呑助 そんなことをいっているんですか。勝利至上主義のスポーツ指導者に聞かせたいような話ですね。
侘助 自由競争というのは強い者に有利だ。弱者が浮かび上がることはない。自由は強者に有利なんだ。規制改革と称する規制廃止は弱者を切り捨てていくことを意味している。最終的に強者は一人きりになる。それでは社会は成り立っていかないよね。
呑助 その結果、現代世界は成り立たなくなってしまっているのかもしれませんね。
侘助 そうなのかもしれない。福島原発事故後、『もし世界が100人の村だったら』という本が世界的にベストセラーになった。その本の中で「6人が全世界の富の59%を所有し、その六人すべてがアメリカ国籍者だ」ということが書いてある。自由な競争の結果、アメリカの極一部の人が巨万の富を独占している。これを読み、私はフランス革命前のフランス社会を述べたシェイエスの『第三身分とは何か』を思い出したよ。
呑助 「第三身分とは何か。すべてである。今日まで何であったか。無である。」高校の頃を思い出しますね。フランス革命前の社会を表現したパンフレットのようなものですかね。
侘助 富の世界的な遍在が世界に怒りと恐怖をばらまいている。少しづつでも富を分配するような政策をとらないと大きな大きな出来事というと戦争かな、世界的な戦争が地球を滅ぼしてしまうかもしれない。そのような恐怖の中に世界はあるのかもしれないよ。