振売の雁あはれなり恵美須講 芭蕉 元禄六年
「神無月二十日、深川にて即興」。このような前詞がある。芭蕉・野坡・孤屋・利牛と四吟歌仙を深川芭蕉庵で編んだその発句。『炭俵』に載せられている。
振売とは、手に下げ、または籠にいれたものを売り歩く、行商人を言う。恵比須講は神無月(旧暦10月)に出雲に赴かない「留守神」とされたえびす神(夷、戎、胡、蛭子、恵比須、恵比寿、恵美須)ないしかまど神を祀り、1年の無事を感謝し、五穀豊穣、大漁、あるいは商売繁盛を祈願する祭である。この祭は講のひとつであり、漁師や商人が集団で祭祀をおこなう信仰結社的な意味合いもあるが、えびす講は各家庭内での祭祀の意味も持つ。東日本では家庭内祭祀の意味合いが強く、また東日本では商業漁業の神としてのみならず、農業神として崇める傾向が西日本よりも顕著のようである。
芭蕉は江戸町人の生活を詠んでいる。元禄時代の町人たちは雁を食べていた。和歌が詠まなかったことを芭蕉は詠んでいる。振売の雁に芭蕉は俳諧を発見した。