醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1101号   白井一道

2019-06-21 11:54:10 | 随筆・小説



  芹焼や裾輪の田井の初氷   芭蕉 元禄六年


 「この句、師のいはく、ただおもひやりたる句也と也。芹やきに名所なつかしく思ひやりたるなるべし」。『三冊子』。
 「裾輪の田井」とは山の付け根の日陰の田圃のことか。『万葉集』に次のような歌がある。「筑波嶺の 裾廻の田居に 秋田刈る 妹がり遣らむ 黄葉手折らな」。筑波の嶺の山すそのめぐりの田んぼの秋の稲を刈る、愛しいあの子の所へ送るもみぢを手折ろう。高橋虫麻呂の歌である。
 芭蕉は元禄六年十一月上旬、大垣藩邸を訪れ、芭蕉、涼葉と三吟歌仙を巻いた。その発句。
 山すそを巡る田んぼの初氷の中に芹が生えている。その芹の料理だ。有難い。大垣藩邸で芹焼のもてなしを受けた。この芹焼きのもてなしに芭蕉は深い思いやりを感じた。 
芹やきとは、鴨の肉を芹や蓮根と共に醤油で味付けした料理。芹はにおい消しのために使った。または熱した石の上に芹をのせ、覆いをして蒸し焼きにした料理。冬、体を温める料理の一つだった。
芭蕉の体は冷え切っていた。だからなのだろう。大垣藩邸の皆さんに深い思いやりを芭蕉は感じて詠んだ句なのであろう。