生きながら一つに氷る海鼠(なまこ)かな 芭蕉 元禄六年
「生きながら一つに氷る」とは、半ば死んでいるということであろう。そのような人は世の中に数多くいる。その中にあって自ら「生きながら一つに氷る」人がいる。芭蕉と同時代を生きた仏教僧、円空である。六二歳になった円空は自分の死を自覚し、生きたまま自分で掘った穴に身を修め、水や食を断って亡くなったと言われている。生きて仏になった。生きながら一つに氷って円空は生涯を終えた。
日々厳しい農作業を厭うことなく働き続ける寡黙な農民たちを見て芭蕉は「生きながら一つに氷る」現実を見ていた。山で働く人や漁業に働く人々を見て「生きながら一つに氷る」人々を感じていたのかもしれない。
芭蕉は台所の桶の中で「生きながら一つに氷って」いるように見える海鼠を見て、そのまま表現した。海鼠は死んでいるように見えて生きているんですなぁーと、歌仙俳諧の発句に詠んだ。ここには俳諧の心、諧謔がある。