醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1489号   白井一道   

2020-08-14 13:03:18 | 随筆・小説



   「黒い雨」訴訟って



侘助 ノミちゃん、「黒い雨」とは、何か、知っているかい。
呑助 もちろん、知っていますよ。井伏鱒二の小説ですよ。
侘助 何を井伏鱒二は表現しているのかな。
呑助 原爆被害についてなんじゃないですか。
侘助 原子爆弾が投下された広島市にも、長崎にも黒い雨が降った。また、フランスの核実験場であったムルロア環礁でも、ソ連の核実験場であったセミパラチンスク周辺でも同じように黒い雨が降ったという。
呑助 黒い雨とは、何なのですか。
侘助 原子爆弾炸裂時の泥やほこり、すすや放射能などを含んだ重油のような粘り気のあるような大粒の雨のようだ。一種の放射性降下物(フォールアウト)だと言われている。
呑助 福島原発事故ではどうだったのでしょうかね。
侘助 だから3.11後、雨水に皆、恐れた。確かに爆発による激しい上昇気流と粉塵や溶融した金属などが細かい粒になり、これが雨の核になって大粒の人工雨となったのが黒い雨の実体であるからね。
呑助 今回、「黒い雨」訴訟では何が争われたのですかね。
侘助 原爆投下後、広島市では、主に北西部を中心に黒い大雨が激しく降り注いだ。この黒い雨は強い放射能を帯びているため、この雨に直接打たれた者は、二次的な被曝が原因で、頭髪の脱毛や、歯ぐきからの大量の出血、血便、急性白血病による大量の吐血などの急性放射線障害をきたした。大火傷・大怪我をおった被爆者達はこの雨が有害なものと知らず、喉の渇きから口にするものも多かったという。原爆被災後、他の地域から救護・救援に駆けつけた者も含め、今まで何の異常もなく元気であったにもかかわらず、突然死亡する者が多かった。水は汚染され、川の魚はことごとく死んで浮き上がり、この地域の井戸水を飲用した者の中では、下痢をすることが非常に多かったと言われている。長崎でも、黒い雨の降雨記録が残っている。黒い雨は爆風や熱線の被害を受けなかった地域にも降り注ぎ、広範囲に深刻な放射能汚染をもたらしたようだ。
呑助 私は井伏鱒二の小説「黒い雨」を読んでいませんが、どのような小説なのですかね。
侘助 閑間重松は、矢須子の縁談が決まらないことが気がかりだ。それというのも、矢須子があの8月6日に被爆した原爆患者ではないかと思われているからである。たしかに矢須子は、あの日黒い雨を浴びていた。しかし、今のところ彼女に原爆患者と同じような症例は出ていないし、健康診断も問題ない。重松は矢須子の身体が健康であることを見合い相手に証明するため、8月6日からの日記を清書し始めた。その日記の清書から、終戦間近の広島と人々の様子が再び描き出されていく。日記の清書をする現在と、日記の中の過去の話が同時進行的に進んでいき、8月15日の清書を終えたところで物語は幕を閉じる。
呑助 黒い雨に濡れた若い女性の結婚話ですか。
侘助 この井伏鱒二の小説を今村正平監督が「黒い雨」という映画を撮った。この映画によって広く「黒い雨」は有名になった。
呑助 今村正平というと私らが若かったころ、注目された映画「ニッポン昆虫記」でしたね。
侘助 そうだったね。日本社会の底辺に生きる女性の逞しさに昆虫を発見した映画だったかな。私は若かったころ、単に性的な興味だけで見たような記憶が残っているけれどね。
呑助 私も同じような者でした。もう戦争が終わって75年にもなって、未だに裁判が行われているのですね。
侘助 被災した人も皆、超高齢になっている。広島市への原爆投下直後に放射性物質を含んだ「黒い雨」が降った。国の援護対象区域外にいた原告84人全員(死亡者含む)を被爆者だと広島地裁は判決した。この事について安倍政権は控訴した。
呑助 どのような理由で安倍政権はこの広島地裁判決を受け入れないのでしようかね。
侘助 「最高裁判例と異なる見解が含まれていること」「十分な科学的知見に基づいているとはいえない点がある」と述べている。