本書は、第3部「数で描かれた絵」(25章)、第4部「知は物質を超える」(21章)で構成されている。前半(第1部・第2部)を扱った翻訳の1冊目に引き続き、知的好奇心を喚起するという意味で実に楽しい本である。
第3部の冒頭の文章にこんなことが書かれている。
「目は統計よりも感度の高い解析器なのである。・・・・数学に関しては、本当に理解するためには見なくてはならない。英語で『わかりました』と言いたいときに、よく「I see(見えます)」というのは、決して偶然ではない。」
第3部は数学と絵・図との深い関係を様々な事例で解りやすく解説している。面白そうな話をいくつか紹介しよう。本書を手に取ってみようと思う気に多分なるだろう。
我々は中学校でピュタゴラスの定理を習った。あの定理には「幾百通りもの証明があり、古代バビロニア人、中国人、インド人、エジプト人は、ピュタゴラスよりもはるか昔にこの定理を知っていたことがわかっている。」(p44)という。ご存じだっただろうか。私は知らなかった。「バビロニア人にいたっては、ピュタゴラスの関係式を満たすA,B,Cを選択して三角形を作図する手法を紀元前1600年より前に使っていた」(p44)そうな。
一方で、こんな話がある。サイコロは古代から存在した。確率という数学の考え方を学んだときサイコロの目の出方を使ったことを思い出すだろう。算術、代数、幾何学の起源は大文明、文化の発祥の時代にさかのぼる。だが、この確率が数学の一分野として確立するのは1660年なのだという。なぜか?天文学において、天動説が信じられ地動説が排斥されたのと通じるところがあるように理解した。つまり、一つの理由が宗教にあるとか。「古代の世界には、誰にも予測できないという意味での偶然の出来事という概念がなかったようだ。・・・神々(もしくは唯一神)を信仰する文明では、期せずして起こることの多くは神が自分の意思を知らせるための手段だと考えられた」から。もう一つの理由は「結果の出る確率を均等にするという考え方」が欠けていたことによるのだとか。それは本当に均一な状態のサイコロを作れなかったことによるようだ。つまり、特定の目がどうしても出やすくなるサイコロしかつくれなかったことに原因があるという。
(p73-74)
数学は芸術につながる。こんな話も載っている。「メビウスの輪」と呼ばれるもの。この発見が「位相幾何学」として発展していくようだが、1858年にアウグスト・フェルナンド・メビウスがこれを発見したのとは全く独立に、同じ年の7月にヨハン・リスティングもこれを発見していた。二人はドイツの数学者で、共にカール・フリードリヒ・ガウスの教え子だったとか。このメビウスの輪のモチーフは、エッシャーの「メビウスの輪」、スイスの彫刻家マックス・ビルの「無限のリボン」、アメリカの物理学者で彫刻家ロバート・ウィルソン「イモータリティ」の創作に刺激を与え、一方、アーサー・C・クラーク『暗黒の壁』、アーミン・ドイッチェ『メビウスという名の地下鉄』などが創作されることにつながるというから、おもしろい。数学は芸術、美を喚起するというところか。
第3部の第14章、第15章はグラフの起源とその重要性を語っている。当たり前のことのように使っているグラフにも歴史がある。
データがグラフで表示されたのは10世紀から11世紀のことで、現存する最古のグラフは太陽系惑星の軌道傾斜角を時間に沿って示したものだという。我々がx軸、y軸と呼び慣れた二本の軸が直交する座標というあの概念が確立されたのは1637年。「デカルト座標」として馴染み深い(と著者は記すが、私は知らなかった)。フランスの数学者で哲学者のルネ・デカルトが確立したという。「ベッドに横になっていたデカルトが、天井を蠅が歩いているのを見て思いついたと伝えられている」(p138)のだから、おもしろい。また、ジェイムズ・ワットの下で蒸気機関の製図を担当していた機械技師のウィリアム・プレイフェアが「円グラフ」を考案した。1801年にロンドンで『統計的解明』を出版し、その中で、ヨーロッパ主要国の人口と税収を比較するために円グラフで表示したのが初めのようである。その図が本書に掲載されている(p133)。機械技師が税収比較図に使ったというのだからこれも併せておもしろい。
しかし、「グラフ」という言葉を考案したのはイギリスの数学者ジェイムス・ジョセフ・シルベスターで、1878年に分子の化学結合の図を指すのに使ったそうだ。
著者はいう。「情報を収集するだけでは科学ではない。それはたんに科学に必要な準備段階にすぎない。データとデータのつながりを探し、データの羅列から意味ある規則性を見出すことで、初めて科学が始まるのである」そこでグラフが重要な役割を果たし、規則性、法則性を見出そうという気にさせるのだと。つまり、I see が意味を持つ。
この第3部はいくつかの数学の分野が出てきて、時には数式も入っているが、数学知識に乏しくても楽しめるところがいい。数学と絵・図の関係がテーマであるからかもしれないが、数学の授業などでは教えられることのなかった周辺の話が次々に出てくる。ここで取りあげられているような話が数学の授業に入っていたら、もっと数学に興味が湧くのではないだろうか。そんな気がする。
確率論で一番なじみになる「正規分布」。この名称は、19世紀に、チャールズ・ダーウィンの従弟にあたるフランシス・ゴールトンがこう表現したという。そして、その特徴的な形から1872年にエスプリ・ジュフレが「ベルカーブ(鐘形曲線)」と名づけたとのこと。こういう豆知識まで載っている。
この本から、クイズを作ったら面白いのではないかとも思う。たとえば、
Q. すべての面が同一の正多角形という条件を満たす凸形多面体はいくつあるか?
Q. +と-の算術記号が同時に書物に現れ、現存する最古のものは何時頃のものか?
Q. 数学に等号(=)を導入したのは誰か、また何時頃か?
Q. 三角法で使うサイン、コサイン、タンジェントの名の由来はどこからか?
Q. 無限大の記号(∞)の由来は? だれが数学の世界でこの記号を採用したのか?
など・・・・本書を読まずに回答せよと言われたら私は0点だった!
(参照: p17、p55、p58、p95&p97、p109&p111 )
「数で描かれた絵」という第3部に、なぜか「ドーナツ、レモン、みんな-楽譜」という第16章がある。中世の音階は6つの音しかなかったが、やがて1音つくられて7音になったということで数に関連するのか、最初4線譜だったのが5線譜になったという数の関連か・・・
いずれにしても、あの馴染みの線譜の由来をここで学べたのは興味深かった。
11世紀にベネディクト会の聖歌隊指揮者だったグイード・ダレッツオという人が譜表を考案し、記譜法の基礎を確立したようだ。そして、賛美歌『聖ヨハネ賛歌』の「各節の歌詞の最初の音節が譜表で表した音階のとおりに一音ずつ高くなっている」(p146)ことに気づき、上昇音階の覚え方を「Ut(ウト)、Re(レ)、Mi(ミ)、Fa(ファ)、Sol(ソル)、La(ラ)とした」という。そして、UtがDoに置き換えられ、同賛美歌の歌詞の最終行の頭の2字から「Si(シ)」が第7音としてつくられたとか。ドレミファはラテン語から来ているようだ。p141、p143に引用されている図も興味深い。
第3部を読んで、印象に残る章句を抜き出してみる。
*ロンドンの地下鉄地図は20世紀のデザインを象徴するロンドンのシンボルだが、同時に位相幾何学で表した初めての地図でもある p13
*星形多面体・・・・これらはルネサンス期に職人がプラトンの立体を装飾に利用しようとして手を加えるうちに個別に発見された。 p20
*素数が無限にあることを、エウクレイデスは2000年以上も前に見事に証明してみせた。・・・・1000万桁を超える素数の発見には、電子フロンティア財団より10万ドルもの賞金が掛けられている。 p33-34 (付記:エウクレイデス=ユークリッド)
*記号は論理を内包する言語なのだ。 p55
*西洋と東洋のサイコロは、鏡映しになっているのだ。 p72
(付記:サイコロの1の目を上にすると、2と3の目が左右逆であるとは!)
*サインとコサインは、いまや応用数学に欠かせないグラフ関数である。 p99
*物理学の世界では1975年以降、現在知られているすべての自然法則を「万物理論」として統一して数学的に記述しようとする試みがなされている。 p119
*数学の特異な点は、直観に反するような性質をもつ構造のつくり方を示すところにある。 p154
*「純粋」と「応用」の二つに分けられていた数学の分野は、「実験数学」が加わって3つになった。 p164
*マンデルブロー集合とジュリア集合はアート作品として美術展の壁を飾り、フラクタルの自然美を称賛される。一方で、数学的な構造が「具現化された」証として扱われもする。だが、マンデルブロー集合が私たちに何よりも教えてくれるのは、簡単な命令が予測不可能な底知れない結果をもたらすことだ。 p169
*不可能な三角形の不思議なところは、なぜ目は物理的にありえないと認識した形を立体として捉えようとするのかということである。・・・・ありえないものであるにもかかわらず、目はなんとしても三角形を三次元の物体として解釈しようとするのだ。 p174
*数学者が求めているのは、証明した事柄を別のところに適用すると未知の事柄に敷衍できるような新しい問題、新しい証明方法、新しい手法である。 p195
*統計的な動向の研究は、多くの数学者と経済学者がデータに見られる不規則な変動や誤差の発生率を公式として導きだそうとした18世紀後半に始まった。 p206-207
*おもに賭博の勝率計算という動機から、ピエール・ド・フェルマー、ブレーズ・パスカル、ヤーコプ・ベルヌーイといった名だたる数学者によって確率の研究が進められるようになった。 p207
*各過程が独立していて加法的であるかぎり、結果は実際の過程の特性によって決定される平均値と分散をもった正規分布にかならずなるのである。 p211
*人間の特性は正規分布するという考え方は、平均を求め、人口を平均以上と平均以下に機械的に分ける手段として利用された。・・・・・近年「ベルカーブ」は、社会や人種によって知性や経済的な豊かさに優劣をつけることが問題視されて批判の的になっている。 p214
*「物事はできるだけ簡潔にしなくてはならないが、それ以上簡潔にしてはならないのである」 アインシュタイン
第3部を楽しみ、読後印象を書き出すと思わず長くなったので、一旦ここでまとめとしたい。
ご一読、ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
第3部を読みながら、ネット検索で本書の楽しみ方を膨らませてみた。ご参考を兼ねて一覧にした。
ウィキペディアをはじめ、アップロードされている皆様に感謝する次第です。
正多面体 :ウィキペディア
プラトン立体 :シムダンス「四次元能」
多面体 :ウィキペディア
プラトン立体とケプラー・ポアンソ立体 :小野満麿士氏のブログ
星形正多面体 :ウィキペディア
アルキメデスの立体
Archimedean solid:From Wikipedia, the free encyclopedia
Archimedean Solid :WolframMathWorld
フラーレン :ウィキペディア
C60フラーレンを宇宙で発見 :National Geographicのニュースサイトから
エウクレイデス :ウィキペディア
パスカルの三角形 :ウィキペディア
パスカルの三角形に色をつけよう :「結城浩-The Essence of Programming」
朱世傑 :ウィキペディア
メビウスの輪 ← メビウスの帯 :ウィキペディア
資料:ラカン「メビウスの輪」と「ボロメオの輪」:「Toward the Sea」ブログから
位相幾何学 :ウィキペディア
ケーニヒスベルクの橋 → 一筆書き :ウィキペディア
三葉結び目 :ウィキペディア
Trefoil knot の画像検索結果
エッシャーの「Knots」(結び目) ←
M.C.エッシャーの絵 公式サイトから
カテナリー曲線 :ウィキペディア
ウロボロス :ウィキペディア
無限 :ウィキペディア
超ひも理論 ← 超弦理論 :ウィキペディア
コッホ雪片 ← コッホ曲線 :ウィキペディア
Koch曲線(コッホ曲線)→ クリックで図形を描けるサイトです。
シェルピンスキーのカーペット :ウィキペディア
シェルピンスキーのギャスケット →10パターンをクリックで試せるサイトです。
メンガーのスポンジ :ウィキペディア
マンデルブロー集合 :ウィキペディア
壁紙ギャラリー →マンデルブロ集合の図の壁紙(持ち帰り自由なサイト)
マンデルブロー集合-2次関数の複素力学入門- :川平友規氏
Mandelbrot Set 00 :YouTube
Mandelbrot Set 100-th powers of 10 :YouTube
ジュリア集合 → 定数Aの入力ができ、描画結果を楽しめるサイト
ジュリア集合拡大 :YouTube
不可能図形 :ウィキペディア
ペンローズの三角形 :ウィキペディア
不可能図形
錯視 :ウィキペディア
北岡明佳 :「北岡明佳の錯視のページ」
現時点のアクセス画面にある「蛇の回転」の同系画が本書に掲載(p177)
Robert Ammann :From Wikipedia, the free encyclopedia
ロジャー・ペンローズ ← Penrose Tiling :Alien Scientist.com
平面充填 :ウィキペディア
Aperiodic tiling :From Wikipedia, the free encyclopedia
Tessellation :From Wikipedia, the free encyclopedia
Non Periodic Tiling of the Plane Written by Paul Bourke
Nonperiodic Tillingの画像検索結果
TheTiles of Infinity by Sebastian R. Prange
The topkapi scroll: geometry and ornament in Islamic architecture.
ポートラックハウス :「mindscape」のtravelから
「スコットランド南部、ダンフリーズという街の郊外に、チャールズ・ジェンクスがデザインした、1年に一日だけ公開される、とても魅力的な庭園」
四色定理 :ウィキペディア
ケプラー予想 → 球充填 :ウィキペディア
面心立方格子構造 :ウィキペディア
六方最密充填構造 :ウィキペディア
ロンドン地下鉄路線図 :ウィキペディア
Tube Map(標準ロンドン地下鉄路線図)
聖ヨハネ賛歌 :ウィキペディア
<番外:附録> おもしろいのに出会いました。ご紹介です。
四色問題で遊ぼう
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第3部の冒頭の文章にこんなことが書かれている。
「目は統計よりも感度の高い解析器なのである。・・・・数学に関しては、本当に理解するためには見なくてはならない。英語で『わかりました』と言いたいときに、よく「I see(見えます)」というのは、決して偶然ではない。」
第3部は数学と絵・図との深い関係を様々な事例で解りやすく解説している。面白そうな話をいくつか紹介しよう。本書を手に取ってみようと思う気に多分なるだろう。
我々は中学校でピュタゴラスの定理を習った。あの定理には「幾百通りもの証明があり、古代バビロニア人、中国人、インド人、エジプト人は、ピュタゴラスよりもはるか昔にこの定理を知っていたことがわかっている。」(p44)という。ご存じだっただろうか。私は知らなかった。「バビロニア人にいたっては、ピュタゴラスの関係式を満たすA,B,Cを選択して三角形を作図する手法を紀元前1600年より前に使っていた」(p44)そうな。
一方で、こんな話がある。サイコロは古代から存在した。確率という数学の考え方を学んだときサイコロの目の出方を使ったことを思い出すだろう。算術、代数、幾何学の起源は大文明、文化の発祥の時代にさかのぼる。だが、この確率が数学の一分野として確立するのは1660年なのだという。なぜか?天文学において、天動説が信じられ地動説が排斥されたのと通じるところがあるように理解した。つまり、一つの理由が宗教にあるとか。「古代の世界には、誰にも予測できないという意味での偶然の出来事という概念がなかったようだ。・・・神々(もしくは唯一神)を信仰する文明では、期せずして起こることの多くは神が自分の意思を知らせるための手段だと考えられた」から。もう一つの理由は「結果の出る確率を均等にするという考え方」が欠けていたことによるのだとか。それは本当に均一な状態のサイコロを作れなかったことによるようだ。つまり、特定の目がどうしても出やすくなるサイコロしかつくれなかったことに原因があるという。
(p73-74)
数学は芸術につながる。こんな話も載っている。「メビウスの輪」と呼ばれるもの。この発見が「位相幾何学」として発展していくようだが、1858年にアウグスト・フェルナンド・メビウスがこれを発見したのとは全く独立に、同じ年の7月にヨハン・リスティングもこれを発見していた。二人はドイツの数学者で、共にカール・フリードリヒ・ガウスの教え子だったとか。このメビウスの輪のモチーフは、エッシャーの「メビウスの輪」、スイスの彫刻家マックス・ビルの「無限のリボン」、アメリカの物理学者で彫刻家ロバート・ウィルソン「イモータリティ」の創作に刺激を与え、一方、アーサー・C・クラーク『暗黒の壁』、アーミン・ドイッチェ『メビウスという名の地下鉄』などが創作されることにつながるというから、おもしろい。数学は芸術、美を喚起するというところか。
第3部の第14章、第15章はグラフの起源とその重要性を語っている。当たり前のことのように使っているグラフにも歴史がある。
データがグラフで表示されたのは10世紀から11世紀のことで、現存する最古のグラフは太陽系惑星の軌道傾斜角を時間に沿って示したものだという。我々がx軸、y軸と呼び慣れた二本の軸が直交する座標というあの概念が確立されたのは1637年。「デカルト座標」として馴染み深い(と著者は記すが、私は知らなかった)。フランスの数学者で哲学者のルネ・デカルトが確立したという。「ベッドに横になっていたデカルトが、天井を蠅が歩いているのを見て思いついたと伝えられている」(p138)のだから、おもしろい。また、ジェイムズ・ワットの下で蒸気機関の製図を担当していた機械技師のウィリアム・プレイフェアが「円グラフ」を考案した。1801年にロンドンで『統計的解明』を出版し、その中で、ヨーロッパ主要国の人口と税収を比較するために円グラフで表示したのが初めのようである。その図が本書に掲載されている(p133)。機械技師が税収比較図に使ったというのだからこれも併せておもしろい。
しかし、「グラフ」という言葉を考案したのはイギリスの数学者ジェイムス・ジョセフ・シルベスターで、1878年に分子の化学結合の図を指すのに使ったそうだ。
著者はいう。「情報を収集するだけでは科学ではない。それはたんに科学に必要な準備段階にすぎない。データとデータのつながりを探し、データの羅列から意味ある規則性を見出すことで、初めて科学が始まるのである」そこでグラフが重要な役割を果たし、規則性、法則性を見出そうという気にさせるのだと。つまり、I see が意味を持つ。
この第3部はいくつかの数学の分野が出てきて、時には数式も入っているが、数学知識に乏しくても楽しめるところがいい。数学と絵・図の関係がテーマであるからかもしれないが、数学の授業などでは教えられることのなかった周辺の話が次々に出てくる。ここで取りあげられているような話が数学の授業に入っていたら、もっと数学に興味が湧くのではないだろうか。そんな気がする。
確率論で一番なじみになる「正規分布」。この名称は、19世紀に、チャールズ・ダーウィンの従弟にあたるフランシス・ゴールトンがこう表現したという。そして、その特徴的な形から1872年にエスプリ・ジュフレが「ベルカーブ(鐘形曲線)」と名づけたとのこと。こういう豆知識まで載っている。
この本から、クイズを作ったら面白いのではないかとも思う。たとえば、
Q. すべての面が同一の正多角形という条件を満たす凸形多面体はいくつあるか?
Q. +と-の算術記号が同時に書物に現れ、現存する最古のものは何時頃のものか?
Q. 数学に等号(=)を導入したのは誰か、また何時頃か?
Q. 三角法で使うサイン、コサイン、タンジェントの名の由来はどこからか?
Q. 無限大の記号(∞)の由来は? だれが数学の世界でこの記号を採用したのか?
など・・・・本書を読まずに回答せよと言われたら私は0点だった!
(参照: p17、p55、p58、p95&p97、p109&p111 )
「数で描かれた絵」という第3部に、なぜか「ドーナツ、レモン、みんな-楽譜」という第16章がある。中世の音階は6つの音しかなかったが、やがて1音つくられて7音になったということで数に関連するのか、最初4線譜だったのが5線譜になったという数の関連か・・・
いずれにしても、あの馴染みの線譜の由来をここで学べたのは興味深かった。
11世紀にベネディクト会の聖歌隊指揮者だったグイード・ダレッツオという人が譜表を考案し、記譜法の基礎を確立したようだ。そして、賛美歌『聖ヨハネ賛歌』の「各節の歌詞の最初の音節が譜表で表した音階のとおりに一音ずつ高くなっている」(p146)ことに気づき、上昇音階の覚え方を「Ut(ウト)、Re(レ)、Mi(ミ)、Fa(ファ)、Sol(ソル)、La(ラ)とした」という。そして、UtがDoに置き換えられ、同賛美歌の歌詞の最終行の頭の2字から「Si(シ)」が第7音としてつくられたとか。ドレミファはラテン語から来ているようだ。p141、p143に引用されている図も興味深い。
第3部を読んで、印象に残る章句を抜き出してみる。
*ロンドンの地下鉄地図は20世紀のデザインを象徴するロンドンのシンボルだが、同時に位相幾何学で表した初めての地図でもある p13
*星形多面体・・・・これらはルネサンス期に職人がプラトンの立体を装飾に利用しようとして手を加えるうちに個別に発見された。 p20
*素数が無限にあることを、エウクレイデスは2000年以上も前に見事に証明してみせた。・・・・1000万桁を超える素数の発見には、電子フロンティア財団より10万ドルもの賞金が掛けられている。 p33-34 (付記:エウクレイデス=ユークリッド)
*記号は論理を内包する言語なのだ。 p55
*西洋と東洋のサイコロは、鏡映しになっているのだ。 p72
(付記:サイコロの1の目を上にすると、2と3の目が左右逆であるとは!)
*サインとコサインは、いまや応用数学に欠かせないグラフ関数である。 p99
*物理学の世界では1975年以降、現在知られているすべての自然法則を「万物理論」として統一して数学的に記述しようとする試みがなされている。 p119
*数学の特異な点は、直観に反するような性質をもつ構造のつくり方を示すところにある。 p154
*「純粋」と「応用」の二つに分けられていた数学の分野は、「実験数学」が加わって3つになった。 p164
*マンデルブロー集合とジュリア集合はアート作品として美術展の壁を飾り、フラクタルの自然美を称賛される。一方で、数学的な構造が「具現化された」証として扱われもする。だが、マンデルブロー集合が私たちに何よりも教えてくれるのは、簡単な命令が予測不可能な底知れない結果をもたらすことだ。 p169
*不可能な三角形の不思議なところは、なぜ目は物理的にありえないと認識した形を立体として捉えようとするのかということである。・・・・ありえないものであるにもかかわらず、目はなんとしても三角形を三次元の物体として解釈しようとするのだ。 p174
*数学者が求めているのは、証明した事柄を別のところに適用すると未知の事柄に敷衍できるような新しい問題、新しい証明方法、新しい手法である。 p195
*統計的な動向の研究は、多くの数学者と経済学者がデータに見られる不規則な変動や誤差の発生率を公式として導きだそうとした18世紀後半に始まった。 p206-207
*おもに賭博の勝率計算という動機から、ピエール・ド・フェルマー、ブレーズ・パスカル、ヤーコプ・ベルヌーイといった名だたる数学者によって確率の研究が進められるようになった。 p207
*各過程が独立していて加法的であるかぎり、結果は実際の過程の特性によって決定される平均値と分散をもった正規分布にかならずなるのである。 p211
*人間の特性は正規分布するという考え方は、平均を求め、人口を平均以上と平均以下に機械的に分ける手段として利用された。・・・・・近年「ベルカーブ」は、社会や人種によって知性や経済的な豊かさに優劣をつけることが問題視されて批判の的になっている。 p214
*「物事はできるだけ簡潔にしなくてはならないが、それ以上簡潔にしてはならないのである」 アインシュタイン
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不可能図形 :ウィキペディア
ペンローズの三角形 :ウィキペディア
不可能図形
錯視 :ウィキペディア
北岡明佳 :「北岡明佳の錯視のページ」
現時点のアクセス画面にある「蛇の回転」の同系画が本書に掲載(p177)
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Non Periodic Tiling of the Plane Written by Paul Bourke
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The topkapi scroll: geometry and ornament in Islamic architecture.
ポートラックハウス :「mindscape」のtravelから
「スコットランド南部、ダンフリーズという街の郊外に、チャールズ・ジェンクスがデザインした、1年に一日だけ公開される、とても魅力的な庭園」
四色定理 :ウィキペディア
ケプラー予想 → 球充填 :ウィキペディア
面心立方格子構造 :ウィキペディア
六方最密充填構造 :ウィキペディア
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<番外:附録> おもしろいのに出会いました。ご紹介です。
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