遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『スカーフェイス 警視庁特別捜査第三係・淵神律子』 富樫倫太郎 幻冬舎

2015-03-29 10:41:17 | レビュー
 29歳独身の淵神律子巡査部長が主人公。律子は警視庁捜査一課強行犯捜査四係に所属していた時、元岡繁之巡査長とともに、ベガと呼ばれる連続殺人犯をビルに追い詰めた。だが、二人ともベガの持つ刃により負傷する。追い詰めたはずのビルが、実はベガが周到に計画していた逃走経路でもあったのだ。律子は拳銃を撃つが手の震えで弾丸はベガから大きく逸れてしまうという失態となる。手の震えはなぜか? それは律子がアルコール依存症になっているからだった。勿論、そのことを誰にも知られないようにしているのだが。
 この時の負傷が原因で、相棒の元岡は警察官として再起不能となり退職する。律子は刺された上に、顔を切られ、左頬に7cmほどの大きな傷痕が残った。現代の美容整形技術を以てすれば、傷痕を目立たなくすることも可能と知りながら、その傷痕を残したままにしている。スカーフェイスであることは、律子がベガを自分の手で捉えるための己に課したしるしなのだ。
 この作品は、律子が第三係に異動となった後も、ベガによる連続殺人事件を追跡し、律子がこの事件の解決に至るまでを描いていく。4件の殺人事件が周期的に発生した。被害者の体には、それぞれにV,E,G,Aという一文字が刻まれていたのだ。そこから連続殺人事件と判断され、犯人はベガと仮に称されたのだ。
 ストーリーの構成と展開がなかなか巧妙である。主人公・律子のキャラクター設定も、標準的な刑事でなくちょっと一癖あって惹きつけられる。女の刑事というところが面白みを加えている。

 律子は、負傷して警察病院入院中に世話になった看護師の町田景子31歳と、女性二人で世田谷区にある七階建ての瀟洒なマンションに暮らすという生活をしている。景子は極力律子のアルコール依存症から立ち直らせようと努力するが、律子はストレスからか、景子に隠れて酒を飲むという悪癖を繰り返している。この二人は互いにそれぞれの過去の人生には触れないという暗黙の合意で共同生活をする。この暗黙の了解部分に秘められていたことが表に出て来たとき、景子自身もベガの連続殺人事件関わる遠因の中に居たという接点が現れる。どこでどう繋がって行くかが一つの読ませどころともいえる。読後印象として、まず燈台下暗しという言葉を思い浮かべた・・・・。

 さて、律子のキャラクター設定が興味深い。父は警察官だったが、家庭では酒乱の気があり、妻や子に暴力を振るう。律子の母や弟は父の暴力の餌食になるが、律子はその父に反抗し、父の暴力の対象の外に立つ。だが、弟が自殺したのだ。律子は父を憎みながらも、警察官となり、いつしか己もアルコール依存症となっている。警察仲間からは「スカーフェイス」とあだ名されている。律子は強行犯捜査三係の巡査部長・芹沢義次からは、「疫病神」と罵られる。「犯人を逮捕するためなら、仲間を犠牲にしてもいいのかってことだ。今度は鳥谷を犠牲にしたそうじゃねえか。ベガに刺された元岡は退職した。鳥谷も退職させる気かよ?」とねちねちと嫌味をいわれるのだ。律子は芹沢を無視するが、一方でその芹沢に共通する部分が律子にもある。さらに、律子はその気があればSPにもなれる射撃術を持ているのだ。
 
 本書は三部構成である。
 第一部「スカーフェイス」: 律子と景子の過去の一端を点描しながら、律子がスカーフェイスとあだ名されるに至る経緯および強行犯捜査三係での律子を描いて行く。女刑事として、ベガの逮捕を念願しつつ、日常の事件に追われる姿を描く。その中で、律子が事件の犯人逮捕でやりすぎて、合法的ではあるが犯人に怪我を負わせるという行為を積み重ねていく。元岡刑事が負傷で退職。相棒の鳥谷刑事が犯人逮捕の際に負傷。そこで、律子はキャリア組で長官官房から季節外れの異動でやってきた藤平保を相棒として組むことになる。射撃は下手くそだが、頭脳はきれるという存在。律子が犯人逮捕のプロセスでやり過ぎてしまう。

 第二部「特別捜査第三係」: 強行犯捜査係からみれば、事件書類整理の窓際部署である。その第三係に律子が異動させられる。捜査畑から外されるなら無用の長物、窓際になる位ならいっそ退職をと律子は考え始める。だが・・・である。第三係の広辞苑とあだ名をつけられている円浩爾(まどかこうじ)との会話がきっかけで、別の光が見えてくるのだ。
 円は律子に言う。「率直に言うが、ずっと前から、わたしは君に会いたいと思っていた」「君がスカーフェイスだからだよ」「君の顔に、その傷痕を残したのはベガだ。つまり、君はベガに最も接近した人間ということになる。・・・・」「ベガを捕まえたいからだよ。他に何の理由がある?・・・・・」
 円は、ベガの連続殺人事件の捜査資料を徹底的に読み込み、生き字引の如くにその経緯を熟知していたのだ。第三係にはこの係なりの捜査ができると言う。それこそ自らその気になれば、専念できるに等しいと。
 面白いのは、相棒の藤平刑事が、律子への一種左遷的異動発令に対して、自ら希望して律子についてこの第三係に異動するという点。ベガについての広辞苑となっている円、ベガに一番接近した律子、頭脳明晰な藤平のチームプレイが始まっていく。
 それは、ベガ連続殺人事件の過去の一連の捜査資料の再吟味から始まり、再び現場に足を運ぶというプロセスの開始だった。
 この災い転じて福と成すための基礎作業がつぶさにストーリー展開する。
 一方で、看護師として勤務する景子の病院での仕事と人間関係が点描される。それは伏線でもある。

 第三部「ベガ」: ベガを逮捕するまでは退職した元岡には会わないつもりだった律子が、捜査資料の再吟味の一環として、元岡に会いに出かける。そして、捜査記録にも記載されなかった事実の一端を発見する。それが、藤平のシャープな分析により、ひとつの仮説設定に結びついて行く。元岡との再会が事件解決への重要な糸口を加えることになるのだ。
 この第三部の展開は、それまでに各所で分かってきた断片的事実や書き込まれた伏線が、ジグソーパズルのように、必要な箇所にはまっていき、全体像が見えていくプロセスである。犯人像は意外な姿を見せていく。そして、最後は危機一髪という大団円となる。

 この小説を読み、「スティレット」とう武器があったことを初めて知った。別名「ミセリコルデ」(慈悲の剣)と呼ばれるそうだ。

 この小説、エピローグで「オペレイター」なるものが浮上してくる。事件解決のために再び負傷した律子に「オペレイター」が携帯電話を介して語りかけるのだ。
 「入院中の君を殺すことは簡単だが、それは心配しなくていい。ゲームはフェアでなければならない。君の傷が回復したらゲームを始めよう」と。

 まるでアメリカ映画の終わり方のようだ。なんだかワクワクさせるエンディングである。次作が構想されているのだろう。期待しよう。

 ご一読ありがとうございます。

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本書に出てくる用語で補足説明のないもので知らないものをネット検索してみた。一覧にしておきたい。

グリセオール ← グリセオール注  :「ナースではたらこ」
静脈留置針  :「安全器材と個人用防護具」
バイタル ← バイタルサイン :ウィキペディア

警察大学校 トップページ
SP → セキュリティポリス :ウィキペディア
警察庁の精鋭「SP」の正体 彼らに必要な資格は?  :「livedoor’NEWS」

タンデマー ← タンデム  :「バイク用語辞典」
バタフライナイフ  :ウィキペディア
スティレット :ウィキペディア
Stiletto  From Wikipedia, the free encyclopedia
Misericorde (weapon)  From Wikipedia, the free encyclopedia
V-42 stiletto  From Wikipedia, the free encyclopedia


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『早雲の軍配者』 中央公論新社
『信玄の軍配者』 中央公論新社
『謙信の軍配者』 中央公論新社



『親鸞「四つの謎」を解く』  梅原 猛  新潮社

2015-03-25 09:19:46 | レビュー
 著者は2014年に数えで90歳になったと書く。親鸞は90歳まで生きた。そこで「親鸞とほぼ同年になった私には、年老いた晩年の親鸞の喜びや悲しみを多少なりとも理解できるかもしれない」(p18)という思いを著者は抱く。一方、旧制中学(東海中学)4年の時に、『歎異抄』を読んで以来、70年以上もの間、親鸞の著書を愛読し、親鸞について書き続けてきていながら、「いまだに親鸞がよくわからいのである」(p18)とも著者は記す。
 こんな動機が親鸞についての「四つの謎」の解明に繋がるようだ。

 著者が本書で解明しようとした「四つの謎」とは、次のものである。
 1.出家の謎
  なぜ親鸞は出家しなければならなかったのか。
  なぜ日野有範の長男・親鸞以下兄弟までもがみな出家したのか。
 2.親鸞が法然門下に入門した謎
  なぜ親鸞は比叡山での修行を止めて、法然に入門したのか。
 3.親鸞の結婚の謎
  なぜ、親鸞は公然と結婚を表明したのか。
  研究者が正式な妻と認める恵信尼の前に、九条兼実の娘・玉日と結婚していたか。
 4.親鸞の悪の自覚の謎
  なぜ親鸞は自らを大悪人と同一視するほどの罪悪感を自覚するのか。

 この「四つの謎」の解明のための推論・論証プロセスが実に興味深くておもしろい。何を根拠に、どういう証拠を累積して推論を重ね、己の結論を導き出していくか。先人の論究の成果の何を批判し、何に賛同し、著者が論理・推論をどのようにより強固にしていくか、その結論を導くプロセスの追体験ができる。
 読後印象の強さは、親鸞研究の主流派が信憑性を否定している文献『親鸞聖人正明伝しょうみょうでん』を改めて見直すことから謎が解けたとし、主流派の研究に対するアンチテーゼを提起したという反骨精神のおもしろさにある。著者が独自の仮説を導き出したのではなく、主流派とは無縁の処で、先駆的な提唱がなされている論究視点を上手く援用して、著者独自の探究・推論の展開を図っているな・・・ということに基づく。

 第1章で、著者は先人の親鸞研究を簡略に述べた上で、「厳密なる実証史学の立場に立つ近代真宗史学の開拓者ともいうべき山田文昭ぶんしょう(1877~1933)」(p44)とその系統につらなる歴史学者、赤松俊秀あかまつとしひで(1907~1979)らの研究を批判する。この実証主義的文献研究の学派が、『高田開山親鸞聖人正統伝』並びに『親鸞聖人正明伝』の信憑性を否定して無視している点を取り上げている。彼らが文献至上主義であり、親鸞の遺跡を訪れることもない研究姿勢を批判する。著者は文献研究の大切さと両輪のものとしてフィールド調査の重要性を強調する。そして、本書では著者が親鸞の遺跡を訪ね歩き、各地で見聞した事実を分析・判別し、己の論理を固め、推論を展開していく。
 つまり、『親鸞聖人正明伝』に記載された内容の信憑性についての検証を基盤にしながら、その内容を祖述し、その記述の論拠を推論し、親鸞の遺跡を訪れているのである。

 実証主義的文献研究の主流派が否定する『親鸞聖人正明伝』は、覚如の長子・存覚ぞんかく(1290~1373)が書いたと称される親鸞伝である。著者によれば、覚如と存覚とは真宗の布教のしかたについての考え方に大きな違いがあり、対立関係にあったという。
 一方、真宗高田派僧侶の五天良空ごてんりょうくう(1669~1733)著『高田開山親鸞聖人正統伝』は高田派専修寺に伝わる親鸞伝である。この書の「題名が本願寺派で唯一正統の親鸞伝とされる覚如の『本願寺聖人親鸞伝絵』に対抗しようとしたものであるという理由により、山田文昭らの逆鱗に触れたのである。その『正統伝』に対する怒りの矛先は、文和元年(1352)、存覚作と伝えられる『親鸞聖人正明伝』にまで及ぶ」(p45)と著者は記す。

 著者が自説の推論を展開していく基盤は存覚作と伝わる『正明伝』に置かれている。その裏付けを様々な文献や遺跡・史料で行っていく。
 一方、4つの謎解きに重要な役割を担っている先駆的な本がある。一つは、佐々木正著『親鸞始記 隠された真実を読み解く』(筑摩書房)である。平成9年(1997)に市井の研究者である著者が偽作説を覆し、存覚の著書と断定する提唱をなした書だという。もう一つは、第3章で紹介される。同じく市井の研究者・西山深草にしやましんそう著『親鸞は源頼朝の甥-親鸞先妻・玉日実在説』(白馬社)。こちらは平成23年(2011)の出版。「西山深草という人物は現実には存在しない。その名は浄土仏教について共同研究を行う数十人からなるグループのペンネームである。そしてこのグループの代表が、・・・・吉良潤氏なのである。」(p94)という。
 本書の著者が四つの謎を解明できたと論証する上で、この2つの先行書がかなりその推論を展開する上で強力な材料になっているようだ。ポイントとなるところでうまく援用している印象を受ける。極論すると、この2つの先行書なしに、本書が著者数え90歳で出版されていただろうか・・・・という気もする。

 「四つ謎」について上記でかなり推測できるかもしれないが、本書の構成と結論に触れておこう。

序章: 著書の積年の「四つの謎」の問題提起。上記のとおり。

第1章・第2章: 『親鸞聖人正明伝』を謎解きの鍵だとし、その重要性を論証する。
 上記で触れているように、主流派の見解に対するアンチテーゼとして見解が展開されていく。

第3章: 『親鸞は源頼朝の甥』を援用し、第1の謎解きの論証。
 日野有範の迎えた嫁が、源氏の総帥、義朝の娘であった可能性が十分あり得る。親鸞の出家は以仁王の乱の時期。この乱の計画が露見して失敗する。平氏政権に対し、源氏の縁者であることから、親鸞らは身の危険を感じる立場だった。そこに出家の謎がある。慈円は頼れる存在だった。

第4章: 第2の謎解きの論証。
 師の慈円が政治僧であり、身近にその姿と有り様を親鸞は見聞した。師慈円に従い叡山にとどまれば「名利の衣」を得る実力が親鸞にはあった。しかし、師慈円の代理として朝廷と関わることへの危険性を自覚する。政治に関わる慈円の傍で無く、信仰そのものへの希求と「第二の夢告」が法然へと向かわせた。

第5章・第6章: 第3の謎解きの論証。 
 阿弥陀の教えを理念だけでなく、それを真実として具現化するものを九条兼実が要求した。僧が公然と結婚を実行する実例である。それが兼実の娘玉日と清僧との結婚である。親鸞は法然の指名を受けたのだ。それを最終的に受け入れた。それが親鸞にとっての「第三の夢告」に直結する。

第7章: 『正明伝』に描かれた親鸞の東国時代を描き出す。
 著者は覚如が本願寺にすべての浄土真宗門徒を統合し、親鸞教団の統合という強い意志を持った人ととらえる。一方、存覚を親鸞の教えを継ぐ教団それぞれが発展すればよいと考えた認識の人ととらえる。この父子の性格の違いが激しい相克を生んだとみる。それ故、存覚が親鸞の東国時代を事実に沿って記述しているものと解して、それを論証できるか『正明伝』を祖述し、フィールド調査の成果を加えながら親鸞像を描き出していく。
 「親鸞は現世利益を重んじ、念仏の教えは、あの世での往生を保障するばかりか、現世に安穏をもたらすものであることを強調している。念仏の教えは極楽往生の教えであると同時に、現世利益の教えでもある」(p254)と著者は記す。さらに、「東国での親鸞の布教にはこのように怨霊の鎮魂という仕事があり、その成果が東国に住む人間に高く評価され、念仏の信者が増えたのであると思われる」(p255)とすら解釈を展開している。興味深い。

第8章: 第4の謎解きの論証。
 親鸞は加害者である極悪人を如何に往生させられるかを己の課題とした。それは親鸞が己の血の中に、父を殺した祖父、義朝の血が流れているという自覚にあったのではないか。悪人への共感が親鸞の根底にある。

 最後の第8章では、親鸞が説いた「二種廻向」の説を近代の真宗学がほとんど語らなくなっていることに論及している。そして、著者は親鸞の説く「二種廻向」が日本人の死生観に根強く存在する「生まれ変わり」の思想に影響を受けたのではないかと論じ、遺伝子の継承の神話的解釈へと論を展開していくのは壮大であり、おもしろい。

 最初に述べたが、この結論の至る著者の論理の展開、推論プロセスが読ませどころである。今までその存在を無視されてきたという『正明伝』の内容に触れる機会となるとともに、新たな視界の広がりを得られる書である。親鸞に関心を寄せる人が、主流派の定番的親鸞像を受容することにとどまらず、親鸞を多面的に理解し、それぞれに親鸞像を形成することが必要だろう。親鸞に肉迫するうえで重要な一書がここに加わわったことは間違いないと思う。
 本書から著者の取り上げた先行書2冊にも関心を喚起されている次第である。

 ご一読ありがとうございます。

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本書に出てくる語句関連でネット検索してみた。一覧にしておきたい。
山田文昭遺稿、第5巻(恵信尼公文書) :「国立国会図書館デジタルコレクション」
赤松俊秀  :ウィキペディア
赤松俊秀  :「東京文化財研究所」
九条兼実  :「浄土宗」
九条兼実  :ウィキペディア
慈円  :ウィキペディア
慈円ーーまめやかの歌よみ  :「院政期社会の言語構造を探る」
日野有範(1) デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説 :「コトバンク」
日野有範 :「textream」
九条兼実と親鸞上人 :「平安時代の陰陽(平安時代中心の歴史紹介とポートレイト)」
玉日姫夜話。-親鸞妻帯異聞-
     :”京都生まれの気ままな遁世僧、「今様つれづれ草」”
【10】六角堂参籠と「女犯の夢告」 :「真宗史学研究所」
   「その3」までのシリーズ記事の1回目です。リンクで続きが読めます。
  上掲抽出の元は「親鸞上人伝~そこに見える信仰」 こちらから。

真宗高田派本山 専修寺 ホームページ
真宗高田派  :ウィキペディア
真宗文献のページ 書架  :「光輪」
 「書架」の「真宗伝記類叢」に、「解題 親鸞聖人正明伝」ほか、及び 
  正明伝・正統伝その他のファイルのダウンロードが提供されています。
恵信尼  :ウィキペディア
恵信尼文書 :「ゑしんの里記念館」
  「原文と現代語訳のデータ」や「恵信尼伝絵」などが「恵信尼資料室」に。
末木文美士氏インタビュー  :「親鸞仏教センター」
親鸞の妻玉日姫再考  松尾剛次氏  『宗教研究』84巻4輯(2011年)


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『自覚 隠蔽捜査 5.5』 今野 敏  新潮社

2015-03-21 09:29:56 | レビュー
 今野敏の作品群の中で、隠蔽捜査シリーズは特に好きなシリーズの一つである。『初陣 隠蔽捜査 3.5』と同様、「5.5」の本書は2011年7月号から2014年6月号に不定期に掲載された作品の短編集である。全部で7編の短編が収録されている。

 収録された作品はそれぞれ独立した内容で、どれから読んでも支障が無い。相互に関連するというものではなかった。各作品では、主な主人公となる刑事は変化する。捜査本部の在り方も様々である。大森署の竜崎署長が直接主人公となって活躍することはない。だが、どの作品でも最後の決断あるいは方針を決めるに当たって要となるのは竜崎署長なのだ。でんと署長室に構え、黙々と管理監督下にある書類の決裁処理を行いつつ、必要な判断を的確に与える。原理原則を踏まえ、即座に指示や助言、方向付けをする。なんとも小気味が良い。さすが竜崎!と喝采したくなるストーリー展開となるのが、実に楽しい。あっという間に7編を通読してしまう。かなりバラエティに富んだ事件が扱われていておもしろい。以下、各作品ごとに内容と印象を簡単に御紹介しよう。

< 漏洩 >
 登庁した大森署の貝沼副署長は、まず新聞各紙に眼を通す。東日新聞朝刊に連続婦女暴行未遂事件の容疑者逮捕の記事が載っているのを発見して、愕然とする。マスコミ対策は副署長の貝沼の役目なのだ。貝沼にとり、東日新聞の報道は寝耳に水。貝沼の知らない事実が報道されているのだ。貝沼は署内からの情報漏洩を真っ先に疑った・・・・。
 関本刑事課長を呼び出し、事情聴取すると、誤認逮捕かもしれないという言葉が出てくる。現行犯逮捕は昨夜の23時頃だという。送検まで、あと38時間。東日新聞が竜崎署長の眼に触れないようにしておき、貝沼副署長は何とか自分の段階で対応処理しようと行動するのだが・・・・やはり、竜崎署長に報告して指示を仰ごうという結論になる。
 竜崎の判断は至極原則論である。一切の迷いがなく、論理明快。気持ちが良い。
 終わり方がまた実によい。
 貝沼「臨時の記者発表をしようと思いますが・・・・」
 竜崎「君に任せるよ」

< 訓練 >
 警備企画係所属の畠山美奈子は、菅原警備第一課長に呼ばれて、大阪府警本部に出張して、スカイマーシャルの訓練を受けるようにと指示を受ける。課長は警視庁警備部長藤本警視監の指示だという。畠山はキャリア組である。菅原課長は、警備の現場に立つためとは思えないので、訓練参加の指示を出すのは部長に別の考えがあるためだろうと受け止めている。
 スカイマーシャルとは、航空機に搭乗して、ハイジャックなどの犯罪に対処する武装警官のことなのだ。東京から参加するのは、総勢6名。畠山を除き、あとの5名はノンキャリアでSATからの参加者が多いようなのだ。大阪では、訓練期間中、男性5人は機動隊の隊舎内に寝泊まりするという。畠山はそこそこのホテルへの宿泊を指定されたのだ。
 厳しい訓練への対応力、待遇の違いへの負い目、大坂府警の警備部長が一席を設けたことへの臨席・・・・重たい気分に沈んでいく畠山の頭をよぎったのが竜崎のことである。
 午後十時、畠山は思いあまって竜崎の電話をかける。竜崎との会話は畠山にとって眼からウロコ・・・・となる。認識が変わる。こんなことがスラリと言える竜崎はさすがである。 訓練が終わり、東京駅で他の訓練メンバーと分かれることになる。この最後のシーンは実に絵になっている。
 
< 人事 >
 二月末、警視庁幹部の人事異動があった。第二方面本部の野間崎政嗣管理官は異動を免れた。しかし、方面部長が入れ替わり、ノンキャリアの警視正・弓削篤郎が方面部長として着任した。この作品は、野間口管理官と弓削方面部長の関係づくりを軸にしながら、こんなやりとりがストーリーのはじまりとなる。
 「君から見て、特に問題だと思う警察署はどこだね?」
 「大森署ですね」
 「どういう点が問題なんだね?」
 「署長が、少々変わった経歴の持ち主で・・・・」
野間崎は、問題人物として指摘したつもりが、会話が進む中で、竜崎署長を弁護するような発言をしている気にもなるのだ。署長会議を招集する前に、弓削は竜崎署長に会って話をしてみたいいい、野間崎に呼んでくれと指示するのだが・・・・大森署に弓削部長が足を運ぶことになるのだった。
 このおもしろい展開のしかたが読ませどころだ。
 竜崎の原理原則がいずこにあるか。竜崎の真骨頂が現れていて、愉快である。

< 自覚 >
 関本良次刑事課長は、小松茂強行犯係長から自宅で電話を受ける。大田区中央四丁目・・・での強殺事件の発生である。捜査一課長も臨場するという。関本が現場に着くと、ぼんやりとたたずんでいる捜査員が居た。それは戸高刑事だった。関本が「お前は聞き込みをしなくてもいいのか?」と言うと、戸高は「あまり意味がないですからね・・・・・」と答える。そして、そのうち戸高が現場から居なくなる。
 遺体が現場から運び出され、捜査員たちが大森署に引きあげようとしたとき、銃声の音がした。銃声のした方向に、捜査員が向かう。発砲したのは戸高だったのだ。
 拳銃を撃ったという行為自体が俎上にのっていく。
 戸高は、自覚を持って拳銃を使用したという。
 日本における警察官の拳銃使用問題がテーマとなっていて、興味深い。
 竜崎署長が事情聴取した後の判断は、論理明快そのものである。
 この作品の末尾の一行は関本刑事課長の思いが表出されて終わる。
 「竜崎には、できればいつまでも大森署の署長でいてほしい、と」

< 実地 >
 秋になると、警察学校で初任教養を終えた警察官の卵たちが、職場実習として各警察署に分散して卒業配置される。大森署の久米正男地域課長は、その卒配で最初に受け容れる地域課を担当している。卒配の新米警察官の面倒をみて、現場のいろはを教え、育ててやるのである。
 卒配のことを久米が考えているところに、関本刑事課長が怒鳴り込んできたのだ。「地域課のばかが、犯人に職質をかけて、そのまま取り逃がしたんだ。知らないとは言わせない」。久米は事情が分からなかった。関本の暴言に腹を立てる。盗犯係によると、その犯人は、かなり名の通った常習犯であり、逮捕する千載一遇のチャンスだったようなのだ。 調べてみると、その被疑者に職質をかけたのは卒配の新米警察官だった。
 警視庁の捜査三課が絡み、野間崎管理官までが現れてくる。
 責任の追求問題と事件捜査の遂行。次元の違うフェーズが曖昧に交錯していく・・・・。
 「私が話を聞こう」竜崎が発言する。そして、事態が再び事件解決に向かい回転し出す。

< 検挙 >
 検挙数と検挙率のアップ。会議の席上でそれが問題となる。警察の上層部は統計的な数値でしかモノを見ていない。数字で考えるということだけの落とし穴をテーマにした短編だ。強行犯係やマル暴にとって、検挙数や検挙率の数値だけの成果アップにどれだけの意味があるのか・・・・。検挙数と検挙率の数値のカラクリがアイロニカルに描き出されていく。
 関本課長の指示で、小松係長はやれと言われれば動かねばならない。
 戸高は言う。「現場を知らないばかな官僚に音頭を取らせると悲惨なことになりますよ」「やれと言われればやりますが、どんなことになっても知りませんよ」と。
 そして法律に則っているが、現実には奇妙な事態が署内に起こっていく。
 竜崎が、関本、小松、戸高を前にして言う。「・・・・ばかばかしいのは、検挙数・検挙率をアップしろという警察庁からの通達だ」と。
 竜崎の原理原則、マイペースが発揮される。拍手喝采そたくなるのは小松係長だけじゃない。読者もその気分になることだろう。

< 送検 >
 大森署管内のマンションで強姦扼殺事件が発生する。被害者は芦川春香、28歳。金融会社に勤める一人暮らしの女性。大森署に捜査本部が設置される。警視庁の伊丹刑事部長は最初の捜査会議に臨席するという。竜崎は最初から課長や管理官に任せておけばいいと、いつもの持論で反対する。しかし、伊丹刑事部長は臨席する。防犯カメラの映像、指紋と伝票などから、重要参考人の身柄が確保されていた。状況を聞き、伊丹は送検の指示を出す。伊丹は、帰り道の公用車の中から竜崎に連絡して、逮捕状請求・執行の指示を出したと連絡する。竜崎は、「待て。・・・それでいいのか?」と問いかけたのだ。
 送検後、事態は思わぬ展開を見せ始める。一方、送検を受けた担当検事は、何が何でも落とせと指示しているという。
 冤罪を引き起こしかねない状況の中で、竜崎が伊丹に言うのは、やはり原則論の助言だった。あたりまえのことをあたりまえにやればいいということなのだ。

 「今回も、竜崎はいつもと変わらない態度だった。彼は、淡々と自分のやるべきことをやっているだけだ。それが頼もしかった」
 この文が、7つの短編作品の背景に共通するものとして、盤石の重みを加えているのだ。いまや大森署に竜崎はなくてはならない存在なのだ。

 次はどんな作品が生み出されるか。心待ちしている。

 ご一読ありがとうございます。

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本書との関連で少し知りたいと思った項目を調べて見た。一覧にしておきたい。
スカイマーシャル  :ウィキペディア
航空機警乗スカイマーシャル  :「警察おもしろ雑学辞典」
武装警官搭乗(スカイマーシャル)に関する機長組合見解 
      2004年12月10日 日本航空機長組合

警視庁の組織図・体制 :「警視庁」
警視庁の組織図  pdfファイル
  方面本部の体制が警察署一覧として出ています。

警察官職務執行法(昭和二十三年七月十二日法律第百三十六号)  :「eGOV」
【警察官職務執行法】の人気Q&Aランキング  :「教えてgoo!」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範(昭和三十七年五月十日国家公安委員会規則第七号)             :「eGOV」
警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(例規) pdfファイル
警視庁警察官けん銃使用及び取扱規定 pdfファイル
警察官等特殊銃使用及び取扱い規範の制定について 青森県警察本部長 pdfファイル

警察官のけん銃使用に問題はないか  警察ネット 原田宏二氏  pdfファイル
警察官による発砲事例とその基準 :「NAVERまとめ」

第3節 銃器・薬物問題の現状と対策  平成9年警察白書
平成26年警察白書 統計資料
  図表4-10 銃器発砲事件の発生状況と死傷者数の推移(平成16~25年)
警察白書 一覧目次 :「警視庁」  ←各年度の白書にリンクしています。

警察学校  :ウィキペディア
警察学校の一日  :「警視庁」
警察学校  :「大阪府警察」
6.研修  ←「1.警察学校入校」~「12.刑事研修3」までのページあり
密着! 大阪府警察学校  :YouTube
警察官のお仕事とウラ話  トップページ


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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』  角川春樹事務所
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』  幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』  徳間文庫

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新4版 (45冊)

『知識ゼロからの源氏物語』 鈴木日出男(著) 大和和紀(協力)  幻冬舎

2015-03-18 09:35:18 | レビュー
 著者は日本古代文学を専攻され、源氏物語に造詣の深い研究者・学者である。様々な専門書を執筆されている。この本をたまたま見つけた。2008年10月に第1刷で出版されていた。
 学者が源氏物語をちょっと覗いてみたいと思った人向けに執筆されたことが良くわかる。

 手許に、『源氏物語ハンドブック』(三省堂)がある。そのサブタイトルが「『源氏物語』のすべてがわかる小事典」であり、本書の著者が編集者となっている。後でみると、本書の末尾にこの本も参考文献の1冊に掲載されていた。
 この『源氏物語ハンドブック』の第1部「物語の鑑賞」を本著者が執筆されている。内容を三部に分け、各帖単位で「ものがたり」梗概と「鑑賞のために」としてのポイント説明が簡潔に51ページでまとめられている。

 このハンドブックと対比して、本書を見直すと、源氏物語を三部構成の作品として区分するのは同じなのだが、その概要の説明がかなり噛み砕かれて初心者にも一層読みやすく、わかりやすくリライトされているという感じであり、読みやすい。そして、大和和紀(協力)という表記の理由は、各ページに挿入された漫画のコマが、大和和紀『あさきゆめみし完全版』(講談社)から、該当ページの本文説明とマッチングし、説明をイメージしやすい漫画のコマが抽出されてそのまま掲載されているようなのだ。(『あさきゆめみし完全版』そのものを未読なので、対比的検討はしていない。)優しく解説された本文と漫画のコラボレーションがうまく出来ている。漫画のコマ自体が結構ページの中で大きなスペースを使っているので、硬い感じが一層少なくなるという効果もありそうだ。

 ハンドブックとの違いは、例えば第1部を各帖毎に解説するという手法ではなく、その中を源氏物語の内容の流れに沿って、帖をグルーピングして解説されている点である。ちょっと巨視的に源氏物語の流れをつかんでもらおうという試みなのだろう。こんな具合にグルーピングされている。
 桐壺 世にたぐいなき光源氏の登場
 帚木・空蝉・夕顔 理想の女はいずこに 雨夜の品定め
 若紫 源氏の運命の女君 藤壺と紫の上
 末摘花 廃れた館に住まう 風変わりな姫君
 紅葉賀・花宴 春と秋 宴で映える源氏の舞姿
後は省略するが、こんな感じでの解説となる。そして、「原文を味わおう」と原文の一節を掲げて文意を説明する囲みや、そのグルーピングした帖に関わる基礎的知識を「知識」として取り上げて解説していくというページ構成となっている。真っ先の知識として、「物語の舞台となる内裏」のレイアウト図が1ページで描かれている。それに「入内には政治的な思惑がからむ」「登場人物は実名でよばれない」という知識の囲み記事が続く。「入内」については本文に「じゅだい」とルビがふられている。まさに知識ゼロからでも、読み進めることができるだろう。

 本書の全体は四部構成になっている。源氏物語の3部構成による説明と、各部で触れた知識の補足としての「基礎知識」である。
第1部 輝く光源氏の若き日々 ←桐壺(ふじつぼ)の帖~藤裏葉(ふじのうらは)の帖
第2部 宿世(すくせ)の翳(かげ)りをみる光源氏の円熟期
      ←若菜上(わかなじょう)の帖~幻(まぼろし)の帖
第3部 光源氏の次世代の物語 ←匂宮(におうのみや)の帖~夢浮橋(ゆめのうきはし)の帖
基礎知識 源氏物語を味わうための「い・ろ・は」
 
 「基礎知識」では、次の項目で説明されている。
・知識ゼロから読み始めるために :古典の代表としての源氏物語の位置づけと読み方
・作者・紫式部の人生を知ろう  :簡略に紫式部の人生プロフィールの紹介
・なぜ「作り話」がおもしろいか :虚構の理想像の創作の中に人生の真実のきらめき
・京の都に『源氏物語』をたずねて:源氏物語と関連づけた京都スポット案内
・平安時代・貴族の暮らし    :住まい(寝殿)と衣裳、美人の条件
・平安時代・貴族の一生     :誕生から死までの節目の行事や様相を概説
・平安時代・貴族の一年     :平安貴族の主な年中行事と生活儀礼
・物語中での年表(年立)    :光源氏と薫に関わる年齢毎の主要事項
・主な作中人物系図       :源氏物語三部の各部における作中人物の人間関係

 本書は知識ゼロからちょっと『源氏物語』の世界に足を踏み入れ、その全体像を概略知るというのには、漫画のサポートもあって、親しみやすくて読みやすい。『あさきゆめみし完全版』(大和和紀著)への誘いにもなっている。『源氏物語』が漫画としてどのように構成され描かれているのか、知りたくもなる。


 こちらは、『源氏物語』について、「奥行の深い世界に、いささかなりとも入り込むための道案内に、との願いから企図されたものである」と「はじめに」に記されている。そのため、「物語の登場人物」の個別説明や「読むための重要語句(キーワード)」の一覧リストと語句説明などを含む。紫式部の生涯と源氏物語との関係も詳しくなる。また『源氏物語』年立(年表)も、上記「物語中での年表(年立)」と比較すれば、格段に詳細さを増している。まさに「小事典」としての編集である。
 『知識ゼロからの源氏物語』を中学・高校生に例えるなら、『源氏物語ハンドブック』は大学生・文学部の基本テキストといえるかもしれない。

 いずれにしても、華麗な筆致の漫画を楽しみながら、わかりやすい源氏物語解説を読み、知識ゼロから基礎知識を満たす手始めとしては、楽しく読める、読み通せる本である。

 ご一読ありがとうございます。

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『源氏物語』については、『源氏物語』に関する資料や情報も多く入手できる。また『源氏物語』に魅了されその世界に深く踏み込んでおられる人々のウエブサイトやブログが数多くある。私が時折参照するサイト及び検索していて出会ったサイトなどの一端をリストにまとめ、ご紹介しておこう。

源氏物語 :ウィキペディア
宇治市源氏物語ミュージアム  ホームページ
風俗博物館 ホームページ
紫式部顕彰会 ホームページ
  紫式部の邸宅、紫式部の墓所という項目があります。
源氏物語の世界 ホームページ
  渋谷栄一氏が本文と現代語訳、各種資料などを掲載されています。

王朝の華 源氏物語絵巻  :「徳川美術館」
国宝源氏物語絵巻  :「五島美術館」
源氏絵  植村佳菜子氏による源氏物語絵へのチャレンジ :「源氏物語電子資料館」

装束の知識と着方  :「綺陽装束研究所」
素材を使って平安装束イラストを描かれる方へ  :「綺陽装束研究所」
服飾史 平安時代男子  着物の知識・服飾史  :「着付名人」
服飾史 平安時代女子  着物の知識・服飾史  :「着付名人」
「平安時代について」 トップページ
  用語辞書と用語詳細が作成されています。
源氏物語電子資料館 伊藤鉄也氏 ホームページ
岡野弘彦 源氏物語全講会   :「森永エンゼルカレッジ」
  第188回 特別講義 「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」
  トップページはこちらから。

パトグラフィー紫式部 ~解読「源氏物語」~  :「古典総合研究所」
京ことば源氏物語
第一教室 源氏物語探索教室  :「古典文学探索教室」

源氏物語についてのサイトやブログから
 源氏物語 『源氏物語』原文とその背景を読む
 花橘亭~源氏物語を楽しむ~
 源氏物語と古典こてん 
 源氏の部屋
 紫式部の部屋 :「青山ろまん派ダジャレワールド」

YouTube から
源氏物語絵巻
源氏物語 桐壷 The tale of Genji,Kiritsubo , with Music for Boxes, Chris Bell(music), 朗読 千代     ← 現代語訳
源氏物語(桐壺) 朗読 ← 原文


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『アクアマリンの神殿』  海堂 尊  角川書店

2015-03-15 10:08:29 | レビュー
 この作品は、2011年5月から2012年6月にかけて4つの新聞に連載されたものに大幅な改稿を加えて、書籍化したものだという。初出の新聞とは縁がないので、連載されていたことは知らなかった。

 桜宮市を中心とする桜宮ワールドは、空間軸での関係性の広がりの一方で、時間軸での歴史的厚みがどんどん伸びていく。この小説の主人公「ぼく」が誰なのかがわかって、海堂ワールドの作品間の関係性に時の厚みができていくと感じたのが、最もプリミティブで強い印象である。

 桜宮湾の桜宮岬の突端に屹立する建物、未来医学探究センターで、たったひとりの専属職員として勤務し始めて2年が経った「ぼく」がこの小説の主人公である。
 ここはかつて碧翠院という寺院と古色蒼然とした由緒正しい桜宮病院があったところである。”桜宮の呪われし地”と呼ばれている場所。そこに第3セクターの施設が建っている。外から見れば5階建てに見える塔(光塔)であるが、中に入ると地下1階、地上3階である。
 「ぼく」は、この塔で医療メンテナンスとその記録をするという仕事に従事している。時々その仕事ぶりのチェックに来るのが非常勤の上司で、ヒプノス社の西野昌孝だ。「ぼく」と西野さんとの出会いは3年前が初めてなのだ。つまり、知り合って1年後に、西野さんが「ぼく」の上司となる。西野さんは「ぼい」の後見人の一人でもある。
 「ぼく」の職場はこの塔の地下1階。「ぼく」はこの塔をアクアマリンの神殿と名付け、地下1階に眠るオンディーヌの医療メンテナンスを業務用のマザーコンピューターを使って行っている。
 ここに勤務しながら、彼は学生でもある。なぜか? 「ぼく」には特殊な事情があって、桜宮学園中等部2年に秋から編入した。そして、2018年4月8日時点からストーリーが始まり、明日から中等部3年に進級するという。
 つまり、近未来小説となっている。

 この物語には2つのストーリーが同時並行で進行し、それが1つに収斂していく。その収斂が、「ぼく」の新たな旅立ちとなるのだ。

 昼間の「ぼく」は中等部3年から高等部1年の冬、2019年12月までの時期が学園ものとして、ちょっとユーモラスに、軽快に、目立たない存在になりきろうとする「ぼく」が目立つ存在になっててしまうという局面を交えながら展開する。クラスの委員長選挙のおかしげな展開、ドロロン同盟の締結に巻き込まれる話、桜宮学園高等部と東雲(しののめ)高校とのボクシング部対抗戦に「ぼく」が引っ張り出され、リングに立つ顛末、ドロン同盟が文化祭で独自企画を実行するためのプランづくり合宿の経緯と文化祭当日の顛末など、盛りだくさんで、おもしろおかしく、哀しみも交えて青春時代が描かれる。

 アクアマリンの神殿に立ち戻った「ぼく」は専属職員。マザーコンピューターを使い、オンディーヌに向かい合う生活である。時折やってくる上司の西野さん以外に、マザーコンピーターを介して、関係するのは西野さんの好敵手の筆頭でもある、マサチューセッツのステルス・シンイチロウ。つまり、マサチューセッツ工科大学の曾根伸一郎教授とのメール交信である。そこにはこの2人のハイブロウなやりとりが繰り返される。
 この小説では、「ぼく」が二重人格のようにギャップがある2つの次元で生活していく姿を描きながら、そのギャップが解消されていくというプロセスになる。

 「ぼく」には、もう一人の後見人が居る。ショコちゃんこと如月翔子(きさらぎしょうこ)。この小説の現時点では、東城大学医学部付属病院・オレンジ新棟2階の小児科病棟の看護師長になっているのだ。
 そして、「ぼく」の名前は、佐々木アツシ。この名前でピンと来たら、あなたはかなり深く桜宮ワールドに浸っていることを自覚すべきだろう。
 そう、「ハイパーマン・バッカス」とともに登場した5歳の坊や。レティノで入院し、小児愚痴外来を担当した田口先生を面食らわせたアツシくんである。「アツシは勇者になりたいのであります」と決意宣言した子である。
 桜宮ワールド、つまり海堂ワールドでは、『モルフェウスの領域』で、眠れる少年として登場してくる。その続きが、ここにある。

 片方の眼球摘出手術を受けた後、「凍眠八則」の下で凍眠生活状態に第一号として入り、その間に特殊な学習プログラムを受け、このストーリーの始まる3年前に目覚めた。半年ほどは如月翔子の賃貸マンションに同居し、田口先生の世話にもなり、その後、このアクアマリンの神殿に引っ越して、西野さんの業務を引き継いだのだ。
 つきつめていくと、この小説は佐々木アツシが眠れるオンディーヌに対して、一方的な対話を続ける。オンディーヌに向き合うアツシの思考と、学園生活次元での己の人生復帰への微調整期間を描き出していくストーリーである。両者は不可分のものとして収斂していく。

 眠れるオンディーヌとは誰なのか? それは本書を開けて味わっていただきたい。

 4部構成になっているが、前半はかなりおもしろおかしい学園生活物語の中にステルス・シンイチロウとのメール交信が渋みをつける。第3部はアツシの学園生活最後のエピソードになる一方で、第4部への準備段階となる。そして、第4部は「凍眠八則」で始まると共に、ストーリー展開がシリアスな色調を帯びていく。ストーリーのトーン変化が興味深いものとなる。
 田口先生が、この第4部で登場してくるが、なんと医療安全推進本部のセンター長兼医療情報危機理ユニットの特任教授になっているのだ。そして大学病院の院長だった高階院長は、東城大学の高階学長になっていた!

 この作品の巻末はこうである。
 「こうしてひとつの季節が終わりを告げ、新しい物語が唐突に始まる。」

 この先、桜宮ワールド(海堂ワールド)はこの先どう展開するのだろうか。この物語も桜宮ワールドの関係性の一コマに納まっていくようである。

 ご一読ありがとうございます。

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この作品に出てくる用語で関心を引いたものをネット検索してみた。一覧にしておきたい。
メディウム → ミディアム :ウィキペディア
カテコールアミン :「京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器外科学教室」
昇圧剤  :ウィキペディア
ウェルナー症候群  :ウィキペディア
ウェルナー症候群  :「千葉大学大学院医学研究院・医学部」
レティノブラストーマ(網膜芽腫)→ 網膜芽細胞腫 :ウィキペディア
薬事・食品衛生審議会 (薬事分科会)  :「厚生労働省」
オンディーヌ ← ウンディーネ :ウィキペディア
オンディーヌ ストーリー辞典 :「名作ドラマへの招待」
メビウスの円環 → メビウスの帯  :ウィキペディア
不思議な帯、メビウスの輪 :YouTube
マリンスノー  :ウィキペディア
海に降る雪 マリンスノー 本田牧生氏
深海に降る雪「マリンスノー」が神秘的すぎる :「NAVER まとめ」
マノン・レスコー  :ウィキペディア
ドレッドヘア →ドレッドヘアとはどんな髪型?:「自分に合った『男の髪型』選び」
マタドール → 闘牛士 :ウィキペディア


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海堂ワールドに惹かれ、作品を読み継いでいます。
「遊心逍遙記」として読後印象を掲載し始めた以降に読んだ印象記のリストです。
出版年次の新旧は前後しています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。

『ガンコロリン』  新潮社
『カレイドスコープの箱庭』  宝島社
『スリジェセンター 1991』  講談社
『輝天炎上』 角川書店
『螺鈿迷宮』 角川書店
『ケルベロスの肖像』   宝島社
『玉村警部補の災難』   宝島社
『ナニワ・モンスター』 新潮社  
『モルフェウスの領域』 角川書店
『極北ラプソディ』  朝日新聞出版




『原発と隠謀 自分の頭で考えることこそ最高の危機管理』 池田整治  講談社

2015-03-12 12:21:18 | レビュー
 タイトルにある隠謀というキーワードと副題にまず関心を引かれ、次に著者の肩書きに興味を抱いた。著者は陸上自衛隊陸将補の地位にあって定年前に退官したという。本書での記述と奥書を重ねると、1970年に15歳で自衛官になり、防衛大学校国際関係論を卒業した自衛隊人生を過ごしてきた人。「わたしがオール自衛隊で10名の陸幕運用班1班勤務、すなわち、作戦幕僚だった」(p19)また「陸上自衛隊時代に原発の危機対応について調査・研究していたわたし」(p48)だという。「阪神・淡路大震災と有珠山噴火災害の発生時に、自衛隊の運用責任者として現地で活動」(p83)し、後者においては、「有珠山の麓の伊達市役所内に初めてこの(=災害対策基本法改正による規定の:付記)『非常災害現地対策本部(有珠山噴火非常災害現地対策本部)』を立ち上げて大成功を収めた」経験の持ち主。さらに奥書には、「オウム真理教が山梨県上九一色村につくったサティアンへの強制捜査に自衛官として唯一同行支援した体験」もあるという。

 自衛隊一筋の人生経験者が、サブタイトルにあるとおり、自分の頭で考えることを最高の危機管理と提唱し、その視点から本書を書いている。フクシマで起こった原発問題をベースとしながらも、いくつかの事象についても水平展開し、最後はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にも言及していて、興味深い。
 数多くの原発関連本が出版されている中で、事実を深く知るためにかなりの本を読み続けてきたが、本書が原発爆発事故の起こった半年後つまり、2011年9月15日に出版されていたのは知らなかった。出版時期を前後しながら読み進めてきたので、著者が述べている内容については、他書で知り機知の内容もあったが、こういう経歴の著者がズバリと発言している点で、非常に関心を持ちつつ読了した。間接的に人物を表現されている箇所について、その対象者の同定をするまでには至らないので著者の記述を信頼するしかない部分もある。
 著者の主張を一言で言うと、フクシマをはじめ原発問題では、国民に対してマインドコントロールがなされてきたのに、それに気づいていない、ということだ。本書で著者はこの点を様々な観点からズバリ発言している。切れ味が良い。知らなかったエピソード・愚行もいくつかあった。
 巻末で著者は「ぜひ自分で信頼すべき情報を入手し、自分の頭で考えましょう。」と、強く提唱している。マインドコントロールされないための危機管理対策は自分の頭で考えることだという。大いに胆に銘じることとあらためて思う次第。

 まず、本書の構成にふれておこう。
序 章 日本を動かすマインドコントロール
第1章 「史上最悪の原発事故」はどうして起きたか?
第2章 いま、わたしたちにできること、すべきこと
第3章 日本列島はどこもかしこも危険地帯
第4章 原発はすべて止められるこれだけの理由
第5章 放射能汚染疑惑の水と食料の問題をどう解決するか
第6章 日本を騙し続けるアメリカ、騙されたふりをし続ける日本

 序章と第1章から著者がズバリと述べていることのいくつかを引用させていただく。
*御上が公式に発表するまでは絶対に書かない(書けない)というのが、記者クラブ体質にどっぷり浸かったメディアの正体です。大本営発表を信じていちばん被害を受けるのは被災地の人々です。 p22
 1号機の燃料棒が崩壊していることは、3月下旬には判明していました。にもかかわらずメディアが報道しなかったのは、大本営発表=東京電力の公式発表を待っていたからにほかなりません。 p23
*大手メディアは膨大な広告宣伝費を握っている電気事業連合会(東京電力など電力会社の集まり)には頭が上がらないからです。この団体は、年間1000億円以上の宣伝費を湯水のように使う日本最大の広告主です。彼らに都合の悪いことを書いたり、放送したりしたら、広告費をもらえなくなってしまいます。まして、記者や幹部が日常茶飯に饗応や接待を受けていれば、つい批判も甘くなるのもわかります。 p24
*日本政府にも電力会社にも、デモ程度のトラブル対処法は用意されていても、外敵による攻撃やテロに対しては無防備であったばかりか、そもそも、はなから想像もしていなかったことです。  p26
*東京電力首脳の頭の中にあったのは、とにかく廃炉にしたくないということでした。フクシマをこのまま使えるようにしたかった。これのみです。廃炉にしたら大損です。なにより自分たちの責任問題になってしまいますから、マニュアル通りに淡淡と対処できなかったのです。  p48
*そもそも、フクシマの現場では地震で計器が壊れていたのです。「計器破壊=電源喪失=冷却資すテク機能不全=メルトダウン」と考えるのが常識です。 p50
*GEという会社は、アメリカ国内でも評判が悪く、・・・・合法的脱税技術を駆使して、国家にも事業所のある地域社会にもなにひとつ貢献していない会社なのです。・・・日本にしても、GEとアメリカ政府相手に喧嘩できる政治家などいません。  p58
*原子炉内の核計算に使っているソフトウエアは原子力専用のものですが、日本のメーカーのソフトはひとつもありません。ソフトをつくるには膨大なデータを蓄積しなければなりませんが、日本のメーカーにはそのための十分なデータがないのです。また、アメリカは国家機密として日本に公開してくれません。・・・フクシマをコントロールする最重要部分がいまもなおブラックボックスのままなのです。  p60
  → これは現存する他の原子炉にも当てはまることと言えるのだろう。
*危機管理において、普通Aという原発で事故があったなら、ほかのBやCの原発でも同じようなトラブルが発生しないかどうかチェックするはずです。また、原子力安全・保安院がすべての原発に指導するはずです。ところが、こういう「水平の情報伝達」がありません。・・・そんなことをしたら、「この原発は危ないから避難訓練をしているんだ」と周囲に誤解されると真剣に思っているのです.  p62
*マグニチュード9.0の地震が起こったのは東北電力の女川原子力発電所(宮城県)のそばであって、フクシマではありません。津波の規模もそうです。
  → この文のある節の見出し:初めからウソだった「想定外」  p63
*安全、安心をうたいながら、すべては未来の人類の叡智に依存し、「あとは野となれ、山となれ」とばかりに見切り発車したのが原子力発電の正体だ・・・。 p72
*瓦礫をあちこちに移送すれば、それだけ放射性物質が拡散してしまいます。もはやチェルノブイリ同様、立ち入り禁止にして「第二の処分場」にするしかないのではないでしょか。 p73

 当時の状況の背景に関わるエピソード、愚行についてもいくつか触れておこう。

*内閣府の原子力安全委員会の斑目春樹委員長(東京大学教授)は、当初から1号機、2号機、3号機すべてがメルトダウンしている可能性を認識していたそうです。 p20
*この細野補佐官は・・・・4月27日に、外国特派員協会で講演した際、なぜ最初からフクシマの放射線測定値を公表しなかったのか問われました。これに対し、「検知車を派遣したが、途中のガソリンスタンドが閉じていて(ガス欠により)行けなかった」と堂々と答えたのです。  p43
*5月12日の東京電力の発表まで、一国の首相が「メルトダウンすら知らなかった」という事実は、信じられないことです。  p44
*「低濃度」という言葉自体が東京電力の造語で、その濃度は通常の環境基準の100倍以上。すなわち、普通に考えれば高濃度だと上杉(隆:フリージャーナリスト)さんは指摘しています。この点を東京電力に問うと、「それは相対的なもので、高濃度と比べて低濃度であるということです」と木で鼻をくくったような回答が返ってきたそうです。 p75

 こんな調子で、爆発事故後、半年時点という時点でのズバリとした発言が連ねられていく。著者は前面に見える行動や事象の背景に、何か意図・隠謀が隠されていないかを考える必要があることを、様々な事例を取り上げて分析する。表面的な説明や事象の動きでマインドコントロールされていることがないか、警告発言を繰り返す。信頼すべき情報を自分で入手し、自分の頭で考えるための事例を提示しているともいえる。
 「信頼すべき情報」がどこにあり、どこから入手できるか・・・それが問題となるのだが。そのノウハウについては言及されていない。たぶん、その多くは適切・的確な公開情報の見分け方、信頼性評価ということに繋がっていくことなのだろう。情報源、情報内容のクロスチェックも含めて。
 
 本書もそういう意味で、情報のクロスチェックのための1冊になる。第2章以下にも興味深いことがいくつも出てくる。著者は、「原子力発電所はやっぱりいらない」と断言し、数々の例証を上げていく。新たに知った事実もいくつかあった。参考になる。
 著者の視点からみた、アメリカの本質についての発言も、学べることがあり興味深い見解である。後は、本書を開いてみてほしい。

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インターネットで今も入手できる関連情報を検索してみた。これらも消去されるかも知れないが、一覧にしておきたい。

電気事業連合会 ホームページ
原子力ロビー「電気事業連合会」の力と実態  経済の死角  :「現代ビジネス」
電気事業連合会  :「chaku wiki」
   ← この見出しでさまざまな「噂」を集約列挙
電気事業連合会とは?  :「しんぶん赤旗」

【死んだっていい 俺も行く】原発危機的状況に前首相 東電が発言詳細記録
2012/03/15 11:10 :「47 NEWS」
Japan Professor: Leaders of Fukushima City refused to evacuate population of 400,000 after being asked by gov’t ? Media didn’t report this thinking it would cause panic :「ENE NEWS」
【福島避難計画】福島原発事故直後、政府は福島県に40万人の避難を打診していたが、福島県側が拒絶していた!!福島県知事らは東電と同類だ! :「真実を探すブログ」
吉田所長、「全面撤退」明確に否定 福島第1原発事故 :「産経ニューズ」
     2014.8.18
「吉田調書」公開 菅直人元首相、福島第一原発の撤退問題について「吉田所長と東電の言っていることに食い違い」 2014.09.11 Chitose Wada氏 :「HUFF POST」
吉田調書・全文をテキスト化 2014.09.11 :「HUFF POST」
菅直人内閣総理大臣による脱原発依存発言に関する質問主意書  衆議院
答弁書  衆議院
斑目氏が認めた事故対応の失敗 2013.02.21(木) 鳥賀陽弘道氏 :「JBPRESS」
見苦しい東電・清水と原子力安全委員会の斑目春樹 2011.04.27 :「Kaleidoscope」
「あんな不気味なの」…斑目原子力安全委員長。 週刊文春4月7日号から。(文明のターンテーブル)  :「阿修羅」

原発ゼロシナリオの経済的インパクト
   2012.08.09   :「原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ」
悪質な世論誘導? NHKスペシャル「シリーズ原発危機 安全神話~当事者が語る事故の深層~」 
2011.11.28   :「原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ」
ウクライナの避難地域(チェルノブイリじこ)と福島事故(その3)
   2012.07.21   :「原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ」

原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係組織図 「昭和53年原子力白書」
原子力規制委員会 ホームページ
原子力規制委員会 :ウィキペディア

「原発関連死」の原因をつくった人々  :「池田信夫blog」
民主党が政権に残した「バカの壁」原子力規制委員会 池田信夫氏 :「Newsweek」
  VOICES  コラム&ブログ  2014.02.05(水)
「プロメテウスの火」で人類は安全になった  :「池田信夫blog」

正力松太郎はなぜ日本に原発を持ち込んだのか  :「VIDEO NEWS」
日本の原子力発電とCIAの関係 日本リアルタイム  :「THE WAKK STREET JOURNAL」

【事故検証は】東電資料より10年も早かった1983年の福島沖津波シミュレーション(前編)【やり直せ】 2015.3.3  :「岩見浩造 Pazz3kzZyMのブログ」
【文献は】東電資料より10年も早かった1983年の福島沖津波シミュレーション(後編)【公開せよ】 2015.3.3    :「岩見浩造 Pazz3kzZyMのブログ」


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今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。

『ビデオは語る 福島原発 緊迫の3日間』 東京新聞原発取材班編  東京新聞
『原発利権を追う』 朝日新聞特別報道部  朝日新聞出版
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新3版 : 48冊)


『深海の人魚』  森村誠一  幻冬舎

2015-03-09 10:58:59 | レビュー
 単行本の最後のページを見ると、著者は「作家生活49年、オリジナル作品390冊以上」という活動をされているようだ。私はこれまでに1,2冊読んだだけ。本書は新聞広告に掲載されたのを見て、タイトルに興味を抱き読んで見る気になった。

 本書については著者が「あとがき」でおもしろいことを書いているので、まず要点を引用し、ご紹介しよう。この小説の特徴がわかる。
*「80の大台に乗ってから、日刊紙(日刊ゲンダイ)より官能小説の依頼」を受けたことから執筆されたものの単行本化である。
*著者は「エネルギッシュな官能小説の多数派のマーケットリサーチをしている」と記したうえで、「男女二人がそこにいるだけで、官能小説は成り立つ」という判断をしたという。つまり、その立場からこの作品が構想されストーリー化されている。
*「官能小説には、わかりやすいセックス用語が直接的に多様に使用されていることに気づいた。セックス行為の描写が中心となって、擬声語(オノマトペア)が直接話法で使用されている。」のに対し、「多数派の官能小説は直接話法が多いが、私は間接話法で表現することにした。」とする。
*「自分のために生まれてきた、ただ一人の異性がいるという。・・・ただ一人の異性を求めて、時空を漂流して・・・出会うセックス」としてではなく、「出会うドラマを主体とした官能小説」「ただ一度限りの出会い」「果たせぬと知りつつ再会を約しての永遠の別離」「間接話法に凝縮した恋の狩人たちの織りなす官能的な出会い」を描きだした。
*「一期一会のカップル。会うは別れの始め。そんな出会いを私もしてみたいとおもうような官能小説」にするという構想。

 この「あとがき」の著者の構想は、ほぼこの小説で具現化されていると判断する。まちがいなく官能小説であるが、擬声語を直接話法で使う場面は全くないので、ぎらつくようなべっとりしたセックス描写を期待する人には不向きな作品だ。
 作品の構想が中々おもしろい。一期一会の出会いとセックスを結末とする「千夜一夜」話的な官能小話ストーリーと複数の犯罪事件の捜査が織りなされ、それがいつしか相互に絡み会い集束されていく。このプロセスがなかなか巧みに展開する。途中でどのように繋がって行くのか・・・あるいは、どの時点でそれぞれが解決するのか・・・・とついつい思わせるところは、さすがである。

 舞台はクラブ「ステンドグラス」であり、本名渋谷小弓(さゆみ)がオーナーママとして経営している。「渋谷の中でも最も奥まった谷底の一隅に、あたかもその存在を必死で隠すかのように占位している」という店。小弓が自らの方針・選別基準で集めた若い美形のホステスが粒ぞろいであり、一応会員制だが、来る客は拒まない。集まる客はハイブロウ(時流に乗っている人)ばかり。そして、「常連客には、決して店の宣伝をしないという暗黙の了解があるようである」というクラブ。小弓はホステスたちに言う。「このお店はお客様の心の隠れ家であるだけではなく、私たちみんなの心と身体(からだ)の拠りどころです」「東京という戦場の非軍事地帯であり、街角に隠れた別天地(別店地)です」と。つまり、客の主義・主張とは無関係。
 こんな場面設定が、冒頭の特徴を具現する官能小説を自然に成り立たせる基盤となっている。すんなりとこのフィクションを受け入れやすくしている。

 p7にこんな一文が出てくる。「陽の光の届かぬ深海にあって、電飾に彩られた深夜に本領を発揮する女性たちは、いずれも深海魚であり、深夜の人魚である。集まる客たちも、深海を好む遊漁である。」この作品のタイトルは、ここに由来するようだ。

 さて、ステンドグラスが男の隠れ家、東京という戦場の非軍事地帯という表の顔だけでは、官能小説としては発動しにくい。実はこのステンドグラスには、特別な顔があり、
常連客も店のホステスたちも、選ばれたもの以外はその別の顔の存在を知らないし、知らされていない。
 それは、常連客の中でも特に選ばれた者からの極秘の依頼を受け、オーナーママの小弓が請負う仕事。特別に選んだ一部ホステスの中からスペシャルフォース(SF・特殊接待員)として選んだ者を依頼の内容に適合するように派遣する采配を振るうのである。場合によれば、小弓自らがSFとなるという裏の稼業なのだ。時には、ステンドグラスが極秘のセックス外交要員の供給源となる。それは、「需要、供給、いずれも一回性の接遇であり、失敗は許されない」という状況となるものばかりである。つまり、二度と同じ繰り返しはない。
 極秘の依頼があり、設定された出会いの場があり、それに伴う、その場に相応しい官能シーンが演出され、一期一会の分かれがクライマックスに来るという次第。
 政・財・官界の大物がステンドグラスの表の顔を利用するだけでなく、別の顔を知らされた者は、時に様々な目的のもとに、小弓に依頼してSFを利用する。店の隠れた商圏は、秘かな口コミだけで広がり、国や大企業や組織につきものの機密の共有者としてステンドグラスが利用される。反面かけがえのないものとして、ステンドグラスを庇護していくという循環になる。
 依頼者の意図・目的の違いにより、様々なSF派遣が語られていく。意図された出会いから始まる千夜一夜的なストーリー構成となっていく。短編ストーリーの集積という局面があり、次はどんな始まりでどんな官能的高まりとエンディング・別離か・・・を楽しむことになる。

 それだけなら小品集だが、そうはならない。そこに犯罪事件の捜査ストーリーが絡んでいくからである。一方で、小弓の選別眼に適った美形ホステスも、それぞれの人生には陰の側面がある。ホステスの業務に直接の支障がないが、彼女たちの人生には大きなファクターとなっている側面。それらがストーリー展開の中で関わり、織りなされていく。
 小弓が一目見て、店の戦力になると直感した「さやか」という女性が遭遇する事件から様々な関わりが始まって行く。ステンドグラスに出勤途上のさやかがステンドグラスの場所を尋ねられたのがきっかけで、その男に拉致され・・・・、直前に拉致されていた直美とともにレイプされる。その結果二人は協力してその男を殺害し遺棄する事件に発展する。一方、これがトリガーとなり、直美はさやかの仲介で小弓のメガネに適い、ステンドグラスでのホステス稼業、さらにはSFの一員にも選ばれていくことになる。
 この殺害、死体遺棄事件がどのように捜査され、どういう経緯でステンドグラスに関わっていくのか。その捜査展開は別の事件とも関わりを持っていく。この構想がおもしろい。

 SF任務にどんな顔ぶれが登場するのか。名前だけ列挙しておこう。実はホステスだけでなく、ステンドグラスで黒服として雇われている男もSFの要員になるのだから、この小説をおもしろくしている。
 こんな顔ぶれが千夜一夜の、一期一会でのセックス・パートナーとなっていくのだ。
 市橋さやか、杉村直美、勝田道代、三枝雅子、池永春美、福永由美子、西尾敏、宮原真哉、沙織、ふたたび福永由美子、早苗である。遂に、小弓の出番はなかったが・・・・・。
 このSF話以外に、脇道話もあったりしておもしろい。
 
 さやかと直美が結果的に手を染めた殺人死体遺棄事件は、警視庁捜査一課の棟居(むねすえ)が、事件に手弁当で関わっていく。失踪届が出ている一方で、奇妙な拾得物-遺留品としてジョギング中の住人が届け出た”健全な”ベンツ-が届けられ、両者が結びついたことから、関心を抱いたのである。凶悪な事件のにおいを感じたから。そして、少しずつ事件の糸口が明らかになっていく。

 この小説の巻末は、小弓の思いを託した歌で終わる。
 
  客去りて夜長の店にただ独り
   思い出ばかりナイトコールよ

このエンディングがどういう意味か、後はこの小説の展開をお楽しみいただきたい。後味のいいストーリー展開と結末である。


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この作品自体で直接検索してみたい関心用語はなかった。
そこで、周辺情報に関心を移し、この作品の裾野を広げてみた。
一覧にしておきたい。
関心を持てば、いろんな発見がある。インターネットは・・・・やはり、おもしろい。

[男性向け]キャバクラ・ラウンジ・ガールズバー・高級クラブの違い 
       :「NAVERまとめ」
ナイトクラブ :ウィキペディア
風俗営業許可 バー・クラブなどの開業  :「お助け24.com」
風営法にまつわる基礎知識Q&A      :「SYNODOS」
   木曽崇 / 国際カジノ研究所 所長

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律  :「e-Gov」
(昭和二十三年七月十日法律第百二十二号)

風営法の定める「接待」とは何か  :「行政書士 泉谷法務事務所」
風営法の歴史と今  :「Let's DANCE」
風営法改正案 クラブは店内の明るさで3つに分類 2014/11/1 :「日本経済新聞社」

本作品のスタンスとは対極にあり、ネットでアクセスできる官能小説ジャンル(?)
小説(官能小説)ブログランキング  :「BLOG 人気ブログランキング」
官能小説ランキング :「FC2ブログ・ランキング」


Erotic literature From Wikipedia, the free encyclopedia
The 10 Best Erotic Novels to Read Now  :”ELLE”
10 Erotic master novels that you cannot miss :”VOXXI”
The A-Z Of SexEverything You Ever Wanted To Know - Explained!
  :”sofeminine"
First Time Sex What You Need To Know Before You Lose Your Virginity
:”sofeminine"


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『ガンコロリン』 海堂 尊  新潮社

2015-03-06 09:26:56 | レビュー
 タイトルが少しおふざけ調でなので、どんな作品なのかと興味本位で手にとってみた。内容は5つの短編小説集である。1作品が40ページ前後でまとめられた作品集。その内容はマクロで見ると、桜宮市を基軸とする海堂ワールドに片足だけでも踏み込んでいると思える小説の集合体であるが、それぞれの作品は独立していて直接に関連性を持たせてはいない。
 この作品集は、けっこう著者が軽いノリで楽しんで書いているような印象を受ける。気楽に楽しめる短編の寄せ集めというところ。

 簡単に各作品の印象をまとめてみたい。

<健康増進モデル事業>
 厚生労働省医療健康推進室・久光穣治の名前で、木佐誠一にダイレクトメールが届く。それは厚生労働省第三種特別企画・健康優良成人策定委員会が行うプロジェクトのモデルに選ばれたというもの。無作為に3名選んだ1人として、健康追求のモデルになって欲しいというものである。
 連日会社で奈良課長から重箱の隅を突っつくようなお小言の集中砲火を浴びる木佐は、医療健康推進室からのメールに応じてみる気になる。電話連絡して、霞が関に出かけるのだが、待ち合わせ場所はビル最上階のレストラン、『星・空・夜(スターリー・ナイト)』である。どこかで似たような設定が時折出て来たことをつい連想してしまう。
 狙いは、モデルに選ばれた木佐が応じれば、木佐を「健康優良成人」ボディの持ち主に変身させる試みの企画だという。そのために、有能なアシスタントを付けて企画を推進するという。木佐が契約書にサインしたところから、木佐にとっては会社人生活での前代未聞の行動が始まるというストーリー。
 実に滑稽で、おもしろい。奈良課長にアシスタントが国家権力なるものを強引に使っていくとこともユーモアたっぷり。結果的に、木佐の人生ががらりと変わる。

<緑?樹の下で>
 ベルデグリ:緑青(ろくしょう)という顔料は存在する。著者はエンパイア・ベルデグリという架空の樹木を南アフリカ・ノルガ王国の国樹として創作し、セイと呼ばれる医師と少年の物語を語る。今は医者というよりクラマルタを飲み過ぎた飲んだくれ。少年の求めに応じて、算数を教えているという存在。その少年がある日、シシィという子がベルデグリの木に呪われたという話を持ち込んで来る。俗信と医療のせめぎ合いとなる。
 セイと呼ばれていた男はトカイという名だった。彼はノルガの国王の7歳の息子を診察する。そして、その子を助けるには難度の高いバチスタ手術が必要なのだ告げる。トカイは言う。「病気というのは、医療があって初めて存在する。医療がないところには診断もなく、診断がなければ病気も存在しない。俺は病気と判断し、長老は祟りと言うだろう」と。寓話を秘めたストーリーである。俗信と知識の分離。政治と医療の分離。教育。

<ガンコロリン>
 天才的なひらめきを連発するスター研究者の倉田教授が癌の特効薬を開発する。倉田教授は人前では失語症的な譫妄状態い陥るという人物。助教の吉田がその倉田の発言を的確に理解し、医療専門用語などを使って、翻訳伝達する。二人は名コンビ。倉田は雪見市にある極北大学薬学部教授。サンザシ薬品の営業部で若き日にトップセールスを誇った木下が今は創薬開発部の部長となっている。二代目社長からは創薬開発部の再生を期待される。木下は新薬開発をしている大学の研究室とのタイアップを大義名分に掲げる。カニが大好物の木下は、部下の大浜がもたらした極北大倉田教授の新薬開発の話に乗り気になる。頭にあるのは出張先でのカニ料理。だが、瓢箪から駒の展開に。このストーリーに、時風新報の別宮葉子記者が絡んでくるからおもしろい。そして、病気と治療のイタチごっこのアナロジーと薬剤耐性という視点を投げかけていて、一種のシニカルさのオチがある。

<被災地の空へ>
 雪見市の極北救急センターのセンター長代理・速水晃一と師長・五條郁美が久々に登場する。東北地方に地震がありDMAT(救急災害派遣隊)が発動され、機動性を持った医療チームが派遣されるのだ。北海道からの派遣として、速水のチームがその一つになる。各地域で独立自尊の活動をするチームが、地震後の緊急救護の状況に集められたらどなるか。速水がどのような行動を取るかが読ませどころである。速水は今までの彼の思考枠を超えた次元での体験を学ぶ機会となる。
 この作品は「小説新潮」2011年11月号に発表されている。現実の東北地方の地震における緊急医療活動の実態を取材した上での創作なのだろう。最後のページにこんな詞章がある。「医療の新しい意味に気がついた人々もいたことは、未来への希望につながることだろう。」と。そして、「被災地から戻った速水は、・・・・ドクターヘリの搬送業務に文句は言わなくなったという」で短編の末尾を締めくくる。この短編集の中で、ストーリー展開において惹かれる一編である。
 
<ランクA病院の愉悦>
 売れない作家が川柳を趣味としていて、ツイッターでのペンネームを「終田千粒(ついたせんりゅう)=ツイッター川柳」とした。だが、漢字を読むツイッターは「おわりだ」としか読まない。その終田に『週刊来世』という雑誌から医療機関への受診体験による取材記事を依頼されるというストーリー。それも同行する依頼者Rが終田の受診体験を見聞して下書き原稿を作るというおいしい話である。狙いはランクCの病院での受診とランクAの病院での受診を対比してみるという企画記事なのだ。
 この短編小説は、医療についてかなりアイロニカルな観点で、病院での受診行為を漫画チックに極端化して描いている。見かけは大きく違うが、根底の部分はほとんど変わらないというオチが実に面白い。その違う点、共通点の描き方を楽しみながら読める作品。
 ここには、ヨイショ記事にだまされないようにという寓意が一つありそうだ。
 最後の最後になって、終田は、カネかプライドかで、プライドを選択する。ヨイショ記事は書かないと選択したのだ。ここまでの展開がおもしろいものになっている。
 そして、表面的な甘言に惑わされやすい弱さを指摘している。次の箇所はそれだろう。「TPPやら何やらで日本の医療という果実を米国保険業界という守銭奴共に売り渡してからも2年が経つ。その結果、哀しいまでの医療格差が出現してしまった。TPPに付随した自由診療推進は国民のためだという甘言に騙されて、自由には格差がついて回るという、当たり前の前提にも気づかずに、付和雷同してしまった連中=国民は哀れなものだ」(p154)
 

 バラエティに富む短編集である。ちょっとコショウが効いて味がある。


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本書を読んで、関心ポイントの関連でネット検索してみた。一覧にしておきたい。

DMAT ホームページ  
  DMATとは? 
被災地における医療・介護  
 国立国会図書館 ISSUE BRUIEF NUMBER 713(2011.6.2)
東日本大震災に対する日本医科大学医療支援報告 :「日本医科大学」
東日本大震災地における地域医療を守る会 ホームページ
被災者への医療体制  :「全国保険医団体連合会」
医療自由化  :ウィキペディア
TPPに参加したら私たちが受ける医療にどんな問題が起こるのか :「保険のまもり」


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「遊心逍遙記」として読後印象を掲載し始めた以降に、次の読後印象を掲載しています。お読みいただければ幸です。
『カレイドスコープの箱庭』  宝島社
『スリジェセンター 1991』  講談社
『輝天炎上』 角川書店
『螺鈿迷宮』 角川書店
『ケルベロスの肖像』   宝島社
『玉村警部補の災難』   宝島社
『ナニワ・モンスター』 新潮社  
『モルフェウスの領域』 角川書店
『極北ラプソディ』  朝日新聞出版

『捜査組曲 東京湾臨海署安曇班』  今野 敏   角川春樹事務所

2015-03-03 09:16:25 | レビュー
 久しぶりに安積班シリーズを読んだ。安積班シリーズを読む楽しみは、なんと言っても強行犯第一係の係長・安積剛志とその部下たちとの人間関係である。互いに仲間の長所を良く知っていて相乗効果を発揮していくチームワーク、互いへの信頼感と思いやりだ。特に私の好きなのは、安積と須田、安積と村雨の人間関係である。今回もその関わり合い方の違いが、ストーリーの展開の中で、しっくりといかされている。須田と黒木、村雨と桜井のペアの動きも、いつものように対照的でおもしろい。安積班に元鑑識員の水野が安積班に溶け込み始めた段階になり一員として積極的に持ち味を出し始めていて楽しい。
 もう一つ、強行犯第二係の相楽班の動き、また相楽の安積に対する対抗意識にも変化が出始めてきた局面が描き込まれるようになってきた。このシリースがさらに続くなら、安積班と相楽班がどんな相乗効果を発揮していくかの面白みがさらに加わりそうな気がしてきて、楽しみである。今回は交機隊の速水の出番はほとんど無いが、押さえどころにやはり顔を出してきて、興味深い役割りを担っていておもしろい。

 さて、本書のタイトルが暗示しているが、本書は安積班を中心にしながら、相楽班の捜査活動や相楽の意欲・意識なども局面局面で織り込んでいくという形になっている。そして、強行犯係の安積班が東京臨海署管内で様々な事件に関わっていく。それらの事件が短編小説として描き出される。つまり、短編小説集である。タイトルに「組曲」とあるように、各短編はそのタイトルが音楽の用語で統一されていて、事件内容を表すような事件関連の名称になっていないことである。強行犯係が扱う事件の幅広さを集約したような構成になっている。短編なので粗筋的なことを感想にかけば、手品の種を語ってしまう形になりかねないので、簡単な感想だけを列挙しておこう。
 ある意味で音楽用語のタイトルは取り扱われた事件の内容、事件捜査の展開あるいは事件の醸し出す雰囲気などにリンクしている局面がある。その辺りを、おのおのの事件の捜査を描いた短編を読みながら、楽しんでいただくとよい作品集である。ちょっとした時間の合間に、一編ずつ読み進めるのも、おもしろいかもしれない。すきま時間を充実して過ごすのに便利な作品集になる。私はほぼ一気に読み進めてしまったが・・・・。

 捜査組曲の構成と導入だけを感想としてご紹介しておこう。音楽用語にあまり強くないので、その意味の覚書を付記して・・・・。

<カデンツァ>  [独奏協奏曲で、独奏楽器の自由に即興的な演奏をする部分]
 比較的新しい建物のショッピングセンターで、不審火が発生。警備員が発見し、通報。いち早くその警備員が消化活動を始め、ボヤで済んだ。安積班はアカイヌ(放火)とみて捜査を始めるが不審な点を感じる。その2日後、同じショッピングセンターで男性客が襲われる。強盗未遂事件が発生。通報者は同じ警備員だった。須田が「代理ミュンヒハウゼン症候群」ということを引き合いに出してくる。須田の知識は底がしれない・・・・。

<ラプソディ>  [狂詩曲のこと。自由なファンタジー風の楽曲]
 東京湾臨海署には水上署が吸収合併されたことで、水上安全課が運用されている。水上安全課・水上安全第一係の吉田係長から安積に連絡が入る。船火事があり状況からみて火付けと思われ、かつオロク(遺体)が出たらしい。安積班出動である。安積は12メーター型警備艇に乗り込む羽目になる。安積が船酔い気味の状態を味わう羽目に。事件現場はカンボジア船籍の『ロータス号』船内。東南アジアなど複数国籍の外国人7人が船を放棄したという。巡視艇に保護されていた。彼らは船員だった。船内の遺体は他殺と断定される。捜査で目撃情報は得られない。1艘だけの救命ボートは、船員たちが船を放棄する際に使ったので、犯人は船から出られないはず。だが、ようとして手がかりがえられない。
 安積班の須田・村雨・水野が話し合いで事件解決への推理を重ねていくところが面白い。

<オブリガート> [伴奏楽器で奏される主旋律と相競うように奏される助奏]
 お台場の海浜公園で、怪我をして倒れている若い男が発見される。強行犯第二係、通称「相楽班」が出動する。警視庁本部の捜査一課から異動してきた相楽は安積に対抗意識を燃やしている。この被害者が安積班の捜査する事件と関係していたのだ。安積は相楽に情報を提供する。安積が相楽班の事件の被害者のことを知ったのは、相楽班の日野が安積班の水野に情報を提供したことがきっかけだった。相楽班と安積班が追う事件に接点が生まれた。「水野がな、日野のことを尋ねたとき、こんなことを言った。水野の理想の相手は、自分がオブリガートになれるかどうか、なんだそうだ」安積が相楽に語ったこの言葉からタイトルが由来する。それは、この事件の展開でもある。ダブルミーニングにしているところがおもしろい。

<セレナーデ>  [恋人や女性を称えるために演奏される楽曲。夜曲あるいは小曲]
 安積班の水野が二係の日野とつきあっているという噂が、安積班の中で話題になるという背景と重なりながら、挙偉大な複合商業施設内での傷害事件の発生に安積班が取り組む。被害者は25歳で、飲食店のアルバイト店員だという沢口麻衣。水野が沢口に質問すると、ストーカーされてたと言う。水野は、沢口の供述に対して、「彼女が言った一言に対しが、ひっかかっているのです」と安積に言う。それに対して、「刑事が違和感を抱いたときは、必ず何かある。俺はそう思っている」と安積は答えた。やはり、事件は思わぬ結末へ。
 この事件の過程で安積は水野に言う。「・・・・おまえは、もう異分子なんかじゃない。立派な安積班の一員だ。だから、好きなときに好きなことを言っていいんだ」と。
 最後に速水が水野の前に現れる。噂話のケリをつける役を引き受けてやると・・・・。

<コーダ> [楽曲において独立してつくられた終結部分。元来は「尾」の意味]
 安積班の黒木が夜当番のときに、青山1丁目、大観覧車のすぐ近くの公園で傷害事件が発生する。通りすがりのカップルが通報。被害者の国枝政彦は都内の有名私立大学に通う21歳の学生で、ナイフで刺されていた。須田が国枝に状況確認の質問をする。その中で、被害者は公園の隣のゲームセンターのオンラインダーツをするためによく一人でくると言う。須田は「オンラインダーツは、501ですか?」と尋ねる。相棒の黒木と同様に、国枝はきょとんとしていた。質問の意味がわからない。須田の質問はそこまで。
 事件の直後に、犯人の身柄が現場にほど近いところで確保される。単純な傷害事件に思えたが、須田は送検をぎりぎりまで待ってくれと言う。須田は調べ始める。「こんなはずはない。何か忘れているんじゃないかってね・・・・]と。
 それが意外な事実の判明に繋がる。そして、事件は落着。
 独立してつくられた終結部分は、安積の考えの表明だろう。「黒木。俺たちは、一人一人みな違うんだ。それぞれに持ち味がある。例えばみんなで登山をしているとする。たいていの者が頂上を見つめている。だが、そういうときでも、須田は足元をみているんだ。そういう男なんだよ」

<リタルランド> [音楽のテンポを次第に落としてゆく表現方法]
 須田が夜当番の日に事件が起きる。江東区有明1丁目の路上で刃物で刺されたが命に別状はなさそう。だが手術が必要という。人着不明のまま、手分けして目の前の高層マンションでの目撃情報の聞き込みを始める。その最中に、今度は強姦の訴えが発生する。被害者の話での犯人は、午後8次くらいに発生していた強盗事件の犯人の目撃情報と一致してくる。バラバラに思えた事件が繋がって行く。
 この一連の事件は、桜井刑事が貴重な体験をする事件となった。須田の褒め言葉に対し、桜井が答える。「村雨さんに、忙しいときこそ、ゆっくり考えろと言われたんです。」「ええ。最初は、ただ慌ただしさに流されているだけだったんです。とてもゆっくり考えることなんてできないと思っていました。でも、だんだんと気分がスローダウンしてきて・・・・。そうしたら、今までごちゃごちゃだったものが、すうっと整理されていったんです」タイトルのリアルダンドはこの桜井の体験に由来するようだ。

<ダ・カーポ>  [曲の冒頭に戻ること]
 お台場のファーストフードのチェーン店でアルバイトをする23歳の西原喜一が、アルバイトの帰り道、縦横に走る遊歩道のある公園で襲撃され、頭を殴られ、脳震盪を起こすという傷害事件が起こった。突然衝撃を受けて意識を失ったという。財布、現金は取られていない。物盗りの犯行ではない。被害者は犯人の心当たりはないという。安積班の現場付近の聞き込みで目撃情報が得られたが、相互に喰い違っている。目撃者はいずれも犯人は一人だったという。「二つの目撃情報が喰い違う理由は何だ?」そこから捜査が始まって行く。
 「なんか、行き詰まったみたいですね」
 「こういうときは、どうしたらいいと思う?」
 「ええとですね・・・・。振り出しに戻ることですかね・・・・」
 「そのとおりだ。村雨、振り出しに戻ってまずやるべきことは何だ」
この短編のタイトルは、この会話に関連しているようだ。鉄則はおろそかにできない。

<シンフォニー> [交響曲。異なった要素がまじり合って、ある効果を生み出す]
 この小説は、東京湾臨海署の鑑識班・石川進係長が主人公になる。強行犯係を陰で支えているのが鑑識班。安積班・相楽班の活動の陰には鑑識係が居る。鑑識係への依頼は強行犯係以外からも押し寄せる。強行犯係の出動する事件は次々に起こる。
 石川は鑑識係が人員増加の要望も叶えられず、過重な業務の負荷がそれぞれの係員にかかっていることを憂慮している。
 そんな折、相楽刑事が榊原課長に、鑑識の対応に不公平があると苦情を言ったことで、石川は課長室に呼び出される。石川は完全に切れてしまう。鑑識係が定時勤務時間内だけしか仕事を引き受けないという行動に出る。
 鑑識係の仕事が具体的にどういうものかに光を当てた作品。最後は安積が石川と話をすることになる。石川は安積に問う。「あんたは、何のためにそんなに働かなくちゃならなかったんだ?」安積の信条がストレートに語られる。
 安積の返答に石川の心がほぐれていく。警察の仕事は結局シンフォニーでないと成り立たないということを雄弁に描き出す。石川のストライキ!勃発。愉快な展開。

<ディスコード> [音楽で不協和音のこと]
 東京湾臨海署ができたとき、野村武彦署長の思惑が働き、強行犯係を2つに分けられたと考えている者が多いという。安積班と相楽班を競わせることで、係員の志気をを高めようということらしい。相楽はこの状況を気に入っているようだ。安積は気に掛けていない。野村署長は安積班を支持し、副署長は相楽班を支持することで互いに牽制し合っているというか、利用している局面があると速水は眺めている。
 高輪署管内で起きた強殺事件に捜査本部ができ、捜査本部が置かれたことから、東京湾臨海署から5名1班分の応援を出さねばならないという。野村署長は強行犯係を応援に送り込めという。安積班も相楽班も、目下事件を抱えて捜査に当たっている。
 指示を受けた、榊原課長は署長・副署長の思惑と各斑の事件捜査に取り組む現状との板挟みになって、苦慮する。応援に出た班の仕事は、東京湾臨海署の実績にはならないのだ。
 榊原がこの難題を抱える前に、榊原は速水と話す機会をつくった。そのとき、速水は榊原に言う。「不協和音は、音楽に味わいと深みを加えます。組織においても、そうじゃないんですか」と。
 苦慮した榊原は安積に連絡して、事情を話す。やっぱり安積!というところ。

<アンサンブル> [2人が同時に演奏すること]
 相楽班が事件の捜査過程で立て続けにヘマをする。今は相楽を傍で眺めているしか手はないと安積は判断する。
 安積班も事件を抱えている。その最中で安積の娘が、離婚した安積の元妻の誕生日に一緒に食事を機会を競っている連絡をしてくる。安積班の班員はこの誕生日のことを知って、安積の行動を気に掛けている。
 誕生日の食事をする予定のある週の月曜日の夜に、管内で変死体が発見された。知らせが入ったときに係に残っていたのは水野だけ。そこで安積と水野が現場に行く。安積班のメンバーが現着したすぐ後に、相楽班も現場にやってきた。安積の了解を得て、現場を確認する。署に引きあげた後、相楽が安積にこの事件を相楽班でやらせてくれと言い出す。 それはなぜか? 相楽に尋ねた安積に対し、速水が相楽に話した内容と相楽に欠けるものと言われたことを答える。
 相楽は事件解決の実績を積み、安積は元妻と娘との食事ができたのだ。
 この経緯が読ませどころの小品である。安積と相楽は、まさにアンサンブルができる関係を深めていく。楽しめる作品である。

ご一読ありがとうございます。

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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』  幻冬舎
『闇の争覇 歌舞伎町特別診療所』  徳間文庫

=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 ===   更新4版 (45冊)