『わが名はオズヌ』という小説が2000年10月に小学館から刊行された。これを2015年に読んだ。当時は2014年12月に徳間文庫として出版されていた。調べてみると 2021年9月に小学館文庫として新たに発行されている。
本書『ボーダーライト』は、この『わが名はオズヌ』に連なる作品となる。奥書を見ると、月刊小説誌『STORY BOX』(2020年6月号~2021年5月号)に連載された後、加筆・修正されて、2021年10月に単行本として刊行された。
いわば20年ぶりにかつての登場人物が復活してきた! そんな思いで読んだ。伝奇的警察小説という異色作を久しぶりに楽しめた。
主な登場人物は誰か。
警察小説という点では、神奈川県警生活安全部少年一課第三係の高尾勇巡査部長と丸木正太巡査がペアとして事件に関わっていく。高尾は岩城課長に呼ばれ、組対本部長が会いたいと言うことなので、行ってこいと指示される。それが契機となる。みなとみらい署のマル暴が赤岩猛雄の身柄を取ったという。赤岩が高尾の名前を出したで、組対本部長から高尾は呼び出され、みなとみらい署に出向くよう指示を受けた。
みなとみらい署の暴力犯対策係の諸橋係長と城島係長補佐が登場する。「ハマの用心棒」が冒頭から絡んでくることに。それはなぜか? 暴力団が関与した薬物の取引現場に居たことから赤岩が検挙されたのだ。赤岩は取り引きを止めさせたかったために現場に居たと主張していると城島が高尾にいう。城島は赤岩が南浜高校の生徒と知っていた。さらに赤岩には逮捕状を執行していず任意で身柄を取っている状態だと。この事件は、薬物事犯としていずれ県警本部の薬物銃器対策課の扱いになると言う。そうなる前に赤岩が何を知っているのかを明らかにする必要があるということなのだ。
高尾・丸木のペアにとって「ハマの用心棒」で知られる諸橋・城島と連帯する状況が生まれる。この事案を担当する県警本部薬物銃器対策課の課長以下の刑事たちとは全く異なる立場で事件の究明に関わって行く。いわば、同じ警察組織内にあって薬物銃器対策課の鼻を明かす結果になることへの興味とおもしろさがここにある。
高尾は赤岩の行動を解明していく立場に投げ込まれる。そこに伝奇的アクションの側面が関わってくる。高尾の携帯電話に南浜高校の水越陽子先生から会いたいと連絡が入ったのだ。そこには賀茂晶が関わっていた。賀茂には役小角が憑依する。「わが名はオズヌ」だと・・・・・。オズヌが降りた賀茂晃は、水越先生を前鬼、赤岩を後鬼として扱う。
そこに、横須賀のローカルバンド、スカイラインGTが絡んでくる。丸木はこのローカルバンド、スカGのファンだった。ローカルアイドルかもしれない。ボーカルのミサキは今やカリスマ的人気があると丸木は高尾に説明した。神奈川県下の若者たちの間で、ミサキのカリスマ性によりスカGへの人気が高まっているのは事実だった。
高尾は堀内係長から最近神奈川県で少年の街頭犯罪が増えていることが気になるので、情報を集めるように指示されていた。その矢先に赤岩の問題が出て来た。赤岩は元暴走族ルィードの二代目総長だった。元メンバーがドラッグを仕入れる現場に乗り込みそれを阻止しようと赤岩が話していたと賀茂は言う。高尾は陽子(水野先生)の協力を得て、この元メンバーを調べることから始めようとする。その時、オズヌが憑依している賀茂は「悪しきことを成さんと企てる者がおる」と高尾に言った。
高尾は賀茂という少年に役小角が憑依する話と賀茂が言った一言について城島に話す。城島はこのことに興味を示す。諸橋係長は、憑依の話を信じないし考えたくないと言うが、赤岩を取り調べ中に、赤岩は学校が変だ、何が起きているのか、俺にもわからないと言っていたと高尾に話す。高尾はこの点を調べてみると諸橋に告げた。これが始まりとなる。
このオズヌが賀茂に憑依し、要所要所で重要な暗示的発言をする。それを高尾は真摯に受けとめて、捜査活動に生かしていこうとする。伝奇的要素の促す方向性と事実究明の捜査との融合がこのストーリーのおもしろさの推進力になる。みなとみらい署の城島と諸橋係長が高尾の捜査を支援する形で関わる関係になる。みなとみらい署シリーズの愛読者には、そこに一味加わるおもしろみを楽しめるという次第。
このストーリーには、いくつかの山場が作られていく。それが読ませどころあるいはストーリーのエンターテインメント性につながっていく。
ひとつは、本部の薬物銃器課の刑事が、みなとみらい署に赤岩に対して逮捕状を執行にやってくるという場面。この場面がどのように進展するか。これがストーリーを方向付け、かつタイムリミットとを意識させる。
高尾は任意連行の扱いだった赤岩を密かに隠す策に出る。陽子が元ルイード時代にアジトにしていた場所を選んだ。そこはライブハウスになっていた。タイミングよくスカGがライブをしている時だった。ライブを見た賀茂、つまりオズヌはボーカルのミサキが恐ろしい、大きな力を持っていると評する。だがその背後に他の者がいるとも・・・・・。これがどう繋がっていくことになるのか。
さらに、特殊詐欺犯罪に関わった少年の逮捕や女子高生による組織だった売春事件が発生してくる。それらの事件当事者に高尾は聞き取り捜査をする。そこから1つの共通項が見えて来る。それがスカGにつながっていく。
バラバラに発生しているような事案に1つの繋がりが見え始める。少年犯罪の背景が浮かび上がっていく。その状況にスカGがどう関わっているというのか。オズヌの予言がどのように現実化するのか。
最終ステージでは、オズヌが憑依した賀茂が活躍することになるのだから、これもまたおもしろい。
このストーリーの最後は、ライブハウスの楽屋でのミサキと賀茂の会話場面で終わる。
そのとき、ミサキの声がした。
「ちょっと、なんでオズヌじゃないの?」
賀茂の声がこたえる。
「そんなこと言われても、知りませんよ」
もうじき、ステージのボーダーライトが灯る。
なぜ、このエンディングになるのか? それは本書を読んでお楽しみいただきたい。
本書のタイトルは、この最後の短文に由来する。
伝奇的要素が加わることで気楽に楽しんで読める一風変わった警察小説である。
お読みいただきありがとうございます。
このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『大義 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『帝都争乱 サーベル警視庁2』 角川春樹事務所
『清明 隠蔽捜査8』 新潮社
『オフマイク』 集英社
『黙示 Apocalypse』 双葉社
『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『機捜235』 光文社
『エムエス 継続捜査ゼミ2』 講談社
『プロフェッション』 講談社
『道標 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新6版 (83冊) 2019.10.18
本書『ボーダーライト』は、この『わが名はオズヌ』に連なる作品となる。奥書を見ると、月刊小説誌『STORY BOX』(2020年6月号~2021年5月号)に連載された後、加筆・修正されて、2021年10月に単行本として刊行された。
いわば20年ぶりにかつての登場人物が復活してきた! そんな思いで読んだ。伝奇的警察小説という異色作を久しぶりに楽しめた。
主な登場人物は誰か。
警察小説という点では、神奈川県警生活安全部少年一課第三係の高尾勇巡査部長と丸木正太巡査がペアとして事件に関わっていく。高尾は岩城課長に呼ばれ、組対本部長が会いたいと言うことなので、行ってこいと指示される。それが契機となる。みなとみらい署のマル暴が赤岩猛雄の身柄を取ったという。赤岩が高尾の名前を出したで、組対本部長から高尾は呼び出され、みなとみらい署に出向くよう指示を受けた。
みなとみらい署の暴力犯対策係の諸橋係長と城島係長補佐が登場する。「ハマの用心棒」が冒頭から絡んでくることに。それはなぜか? 暴力団が関与した薬物の取引現場に居たことから赤岩が検挙されたのだ。赤岩は取り引きを止めさせたかったために現場に居たと主張していると城島が高尾にいう。城島は赤岩が南浜高校の生徒と知っていた。さらに赤岩には逮捕状を執行していず任意で身柄を取っている状態だと。この事件は、薬物事犯としていずれ県警本部の薬物銃器対策課の扱いになると言う。そうなる前に赤岩が何を知っているのかを明らかにする必要があるということなのだ。
高尾・丸木のペアにとって「ハマの用心棒」で知られる諸橋・城島と連帯する状況が生まれる。この事案を担当する県警本部薬物銃器対策課の課長以下の刑事たちとは全く異なる立場で事件の究明に関わって行く。いわば、同じ警察組織内にあって薬物銃器対策課の鼻を明かす結果になることへの興味とおもしろさがここにある。
高尾は赤岩の行動を解明していく立場に投げ込まれる。そこに伝奇的アクションの側面が関わってくる。高尾の携帯電話に南浜高校の水越陽子先生から会いたいと連絡が入ったのだ。そこには賀茂晶が関わっていた。賀茂には役小角が憑依する。「わが名はオズヌ」だと・・・・・。オズヌが降りた賀茂晃は、水越先生を前鬼、赤岩を後鬼として扱う。
そこに、横須賀のローカルバンド、スカイラインGTが絡んでくる。丸木はこのローカルバンド、スカGのファンだった。ローカルアイドルかもしれない。ボーカルのミサキは今やカリスマ的人気があると丸木は高尾に説明した。神奈川県下の若者たちの間で、ミサキのカリスマ性によりスカGへの人気が高まっているのは事実だった。
高尾は堀内係長から最近神奈川県で少年の街頭犯罪が増えていることが気になるので、情報を集めるように指示されていた。その矢先に赤岩の問題が出て来た。赤岩は元暴走族ルィードの二代目総長だった。元メンバーがドラッグを仕入れる現場に乗り込みそれを阻止しようと赤岩が話していたと賀茂は言う。高尾は陽子(水野先生)の協力を得て、この元メンバーを調べることから始めようとする。その時、オズヌが憑依している賀茂は「悪しきことを成さんと企てる者がおる」と高尾に言った。
高尾は賀茂という少年に役小角が憑依する話と賀茂が言った一言について城島に話す。城島はこのことに興味を示す。諸橋係長は、憑依の話を信じないし考えたくないと言うが、赤岩を取り調べ中に、赤岩は学校が変だ、何が起きているのか、俺にもわからないと言っていたと高尾に話す。高尾はこの点を調べてみると諸橋に告げた。これが始まりとなる。
このオズヌが賀茂に憑依し、要所要所で重要な暗示的発言をする。それを高尾は真摯に受けとめて、捜査活動に生かしていこうとする。伝奇的要素の促す方向性と事実究明の捜査との融合がこのストーリーのおもしろさの推進力になる。みなとみらい署の城島と諸橋係長が高尾の捜査を支援する形で関わる関係になる。みなとみらい署シリーズの愛読者には、そこに一味加わるおもしろみを楽しめるという次第。
このストーリーには、いくつかの山場が作られていく。それが読ませどころあるいはストーリーのエンターテインメント性につながっていく。
ひとつは、本部の薬物銃器課の刑事が、みなとみらい署に赤岩に対して逮捕状を執行にやってくるという場面。この場面がどのように進展するか。これがストーリーを方向付け、かつタイムリミットとを意識させる。
高尾は任意連行の扱いだった赤岩を密かに隠す策に出る。陽子が元ルイード時代にアジトにしていた場所を選んだ。そこはライブハウスになっていた。タイミングよくスカGがライブをしている時だった。ライブを見た賀茂、つまりオズヌはボーカルのミサキが恐ろしい、大きな力を持っていると評する。だがその背後に他の者がいるとも・・・・・。これがどう繋がっていくことになるのか。
さらに、特殊詐欺犯罪に関わった少年の逮捕や女子高生による組織だった売春事件が発生してくる。それらの事件当事者に高尾は聞き取り捜査をする。そこから1つの共通項が見えて来る。それがスカGにつながっていく。
バラバラに発生しているような事案に1つの繋がりが見え始める。少年犯罪の背景が浮かび上がっていく。その状況にスカGがどう関わっているというのか。オズヌの予言がどのように現実化するのか。
最終ステージでは、オズヌが憑依した賀茂が活躍することになるのだから、これもまたおもしろい。
このストーリーの最後は、ライブハウスの楽屋でのミサキと賀茂の会話場面で終わる。
そのとき、ミサキの声がした。
「ちょっと、なんでオズヌじゃないの?」
賀茂の声がこたえる。
「そんなこと言われても、知りませんよ」
もうじき、ステージのボーダーライトが灯る。
なぜ、このエンディングになるのか? それは本書を読んでお楽しみいただきたい。
本書のタイトルは、この最後の短文に由来する。
伝奇的要素が加わることで気楽に楽しんで読める一風変わった警察小説である。
お読みいただきありがとうございます。
このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『大義 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『帝都争乱 サーベル警視庁2』 角川春樹事務所
『清明 隠蔽捜査8』 新潮社
『オフマイク』 集英社
『黙示 Apocalypse』 双葉社
『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『機捜235』 光文社
『エムエス 継続捜査ゼミ2』 講談社
『プロフェッション』 講談社
『道標 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新6版 (83冊) 2019.10.18