本書の副題は「地図上の発想トレーニング19題」である。
その題の通り、著者が地図・地理と向き合って、じ~っとにらめっこして、そこから地図が語りかけてきたもの、つまり発想の切り口に気づき、そこから様々な話題を引き出し、手繰り寄せて、各章を展開していった本だ。発想トレ-ニングと銘うつだけあって、なかなかユニークな、ある意味でへんな本である。どの章から読んでもOKの本。それぞれの章がまあ独立したひとまとまりになっているから。
つまり、地図からある発想の切り口を発見し、それを雑多な情報、知識で展開したもの。雑学の書とも言える。地図からこれだけの発想の観点を引き出せたのが興味深い。
その雑学の幅も半端じゃないと感じる。発想の観点から様々な情報や知識を探して結合し、あるいは人脈からの情報を集積していった成果物のようにも思える。ちょっとした話のネタをこの本からひろってみると、話題の幅が広がるのではないだろうか。そんな本である。
体系的でも理論的でもないから、いたって気楽に楽しみながら読める本。地図からこれだけ展開できるなんて、やはりコピーライターを本職とする人ならではという気もする。
それでは、どんな発想トレーニングの観点が引き出されたのか?
列挙してみよう。それぞれが一章になっている。
1 凝視 2 立場 3 方角 4 争点 5 宗教 6 ルーツ 7 ストーリー
8 2位 9 スケール 10 距離 11 経路 12 目印 13 交差点 14 探索
15 整列 16 類似 17 差異 18 志向 19 限定
これは、著者が地図・地理を見つづけることから導き出した思考実験である。著者は「まえがき」にこう記している。
”地図・地理たちから得られた「思考法」を、地図・地理以外に当てはめて、様々な思考実験を仕掛け、それを飽きずに繰り返すと、「思考法」「新しいものの見方」が斬新な武器とでも言いますか、活発に活動し始めたのです。それがめきめき身についていく。教訓ともまた違った、まさに武器・道具と呼びたくなるような印象です。”
著者の思考実験の進め方がおもしろい。地図・地理をじっと見つめて語りかけてきた観点・切り口をどんどんしりとりゲームのように、他の分野や局面に転換していき、観点の適用対象をシフトしていく点である。地図・地理はある種の起爆剤、トリガーに使われている。
地図・地理をじっと見る。著者の最初の気づきは「凝視」という観点で見えてきたものの思考実験だ。たとえば、この最初に章はこんな感じで思考実験が展開される。
大阪城近くの市内部分地図をじっと見る → 「橋」の付く地名が多い! → 何となく見ているのと「凝視」の違いを発見 → 2つの地震動予測地図を凝視し対比する →秀吉の肖像画、ドガの絵「エトワール」の凝視実験 → 「凝視」の落とし穴(「アラ」や「欠点」探しに陥りがち) → ポジティブな部分の意識化 → 「凝視」の先にあるものを考える → 対象の「正体」をつかむことができるか
こんな展開になっている。この展開自体も読者としては楽しめるし、思考展開のフレキシブルさを学ぶことにもなる。柔軟にひょいひょいと対象を切り換えながら、「凝視」という切り口を追究していくという姿勢。こういうスタンスが他の観点にも一貫している。話がどんな話題、話材に転がって行くか、わからないという楽しさがある。頭を軟らかくするのに丁度よいと言えるかもしれない。
市内部分地図を見る。カナダを中心に世界地図を見る。USAの州地図にナポレオンが1803年に売却したフランス領ルイジアナを重ねてみる。南北反転の地図を眺める。メルカトル図法と正距方位図法で見たら見えるもの。世界の争点地域地図:位置関係、スケール、争点要素・要因などを考える。宗教分布地図を見る。地名の類似性に潜むルーツのつながりを発見。・・・・
こんな感じで、扱う地図もどんどん切り替わっていく。それが発想の観点の発見にもなっている。
私が特に面白いと思った地図が2つある。一つは、p145にある地図。”図B 沖縄の「距離」”だ。東京から広島の地図の下に、沖縄本島から石垣島の地図を並べている。こんな「距離」感で地図をみたことがない。実に示唆に富む。
もう一つは、おもしろい思考実験地図。p216-217に、”図C:各国の人口順と国土面積順を同じにした世界地図”。国の人口の順番を国土面積の順番に「整列」させて、世界地図に各国を当てはめなおしてみた試み。こんなことを考える人はまずいないだろう。思考実験と著者がいう由縁の一つと言えそうだ。
さらにもう一つ、白紙の世界地図に、共産主義国だけ切り出し「限定」してみるという発想から、「1つに絞って考える、楽しむ」つまり「限定」という発想が19項目の観点として掲げられている。これを「日本一『限定』の日本」に展開した情報が興味深かった。p258~p261に述べられている。けっこう、意外なものが多くあった。
つまり、過去に学びあるいは知った情報のリセット、リニューアルの必要性を感じた次第。これ自体、話のネタになる雑学でもある。実に楽しい。たとえば、次の質問に該当する都道府県名はどこでしょう。人口あたりの美容院数が日本一はどこ? 寺数が一番多いのはどこ? 日本一短い国道はどこにある? 自然の山で日本一低い山はどこにある? 50万人以上の都市で水道水源を100%地下水でまかなっている都市はどこにある?
「限定」という観点からこんな展開まで推し進めた発想と展開ができるなんて、じつにおもしろい。
この本から発想の仕方、思考実験の面白さを感じた。これも読書の楽しみといえよう。
ご一読ありがとうございます。
本書で採りあげている関連項目をネット検索でいくつか見つけた。その一覧をリストにしておこう。
時空を越えて~歴代肖像画一千年 :「肖像ドットコム」
参考図:豊臣秀吉像(高台寺蔵) これと同じ絵がp11に載っています。
著者はこの絵を「凝視」して語っています。
ドガ 光と影のエトワール :「日曜美術館」
地球の夜景のタイムラプス動画 :YouTube
天才バガボンド :「内田樹の研究室」
南北逆さまの世界地図 :「Solla そら」に掲載の地図
メルカトル図法 :ウィキペディア
正距離方位図法 :ウィキペディア
世界の紛争マップ :グーグル地図
宗教の世界地図 :「日本地図・世界地図」
古代の植民都市 :ウィキペディア
ロシアの国章 :ウィキペディア
エルサレム :ウィキペディア
聖地エルサレム 長谷川大氏 :「AllAbout 世界遺産」
日本の排他的経済水域 :ウィキペディア
世界の排他的経済水域面積ランキング
世界のミニ国家 :ウィキペディア
世界のミニ国家の地図
言語の世界地図 :「海外移住の地図帳」
東京都の路線図 :東京都交通局
国の面積順リスト :ウィキペディア
国の人口順リスト :ウィキペディア
世界の国旗一覧
デザイン世界地図のフリー画像
地図のフリー画像 ホームページ
その題の通り、著者が地図・地理と向き合って、じ~っとにらめっこして、そこから地図が語りかけてきたもの、つまり発想の切り口に気づき、そこから様々な話題を引き出し、手繰り寄せて、各章を展開していった本だ。発想トレ-ニングと銘うつだけあって、なかなかユニークな、ある意味でへんな本である。どの章から読んでもOKの本。それぞれの章がまあ独立したひとまとまりになっているから。
つまり、地図からある発想の切り口を発見し、それを雑多な情報、知識で展開したもの。雑学の書とも言える。地図からこれだけの発想の観点を引き出せたのが興味深い。
その雑学の幅も半端じゃないと感じる。発想の観点から様々な情報や知識を探して結合し、あるいは人脈からの情報を集積していった成果物のようにも思える。ちょっとした話のネタをこの本からひろってみると、話題の幅が広がるのではないだろうか。そんな本である。
体系的でも理論的でもないから、いたって気楽に楽しみながら読める本。地図からこれだけ展開できるなんて、やはりコピーライターを本職とする人ならではという気もする。
それでは、どんな発想トレーニングの観点が引き出されたのか?
列挙してみよう。それぞれが一章になっている。
1 凝視 2 立場 3 方角 4 争点 5 宗教 6 ルーツ 7 ストーリー
8 2位 9 スケール 10 距離 11 経路 12 目印 13 交差点 14 探索
15 整列 16 類似 17 差異 18 志向 19 限定
これは、著者が地図・地理を見つづけることから導き出した思考実験である。著者は「まえがき」にこう記している。
”地図・地理たちから得られた「思考法」を、地図・地理以外に当てはめて、様々な思考実験を仕掛け、それを飽きずに繰り返すと、「思考法」「新しいものの見方」が斬新な武器とでも言いますか、活発に活動し始めたのです。それがめきめき身についていく。教訓ともまた違った、まさに武器・道具と呼びたくなるような印象です。”
著者の思考実験の進め方がおもしろい。地図・地理をじっと見つめて語りかけてきた観点・切り口をどんどんしりとりゲームのように、他の分野や局面に転換していき、観点の適用対象をシフトしていく点である。地図・地理はある種の起爆剤、トリガーに使われている。
地図・地理をじっと見る。著者の最初の気づきは「凝視」という観点で見えてきたものの思考実験だ。たとえば、この最初に章はこんな感じで思考実験が展開される。
大阪城近くの市内部分地図をじっと見る → 「橋」の付く地名が多い! → 何となく見ているのと「凝視」の違いを発見 → 2つの地震動予測地図を凝視し対比する →秀吉の肖像画、ドガの絵「エトワール」の凝視実験 → 「凝視」の落とし穴(「アラ」や「欠点」探しに陥りがち) → ポジティブな部分の意識化 → 「凝視」の先にあるものを考える → 対象の「正体」をつかむことができるか
こんな展開になっている。この展開自体も読者としては楽しめるし、思考展開のフレキシブルさを学ぶことにもなる。柔軟にひょいひょいと対象を切り換えながら、「凝視」という切り口を追究していくという姿勢。こういうスタンスが他の観点にも一貫している。話がどんな話題、話材に転がって行くか、わからないという楽しさがある。頭を軟らかくするのに丁度よいと言えるかもしれない。
市内部分地図を見る。カナダを中心に世界地図を見る。USAの州地図にナポレオンが1803年に売却したフランス領ルイジアナを重ねてみる。南北反転の地図を眺める。メルカトル図法と正距方位図法で見たら見えるもの。世界の争点地域地図:位置関係、スケール、争点要素・要因などを考える。宗教分布地図を見る。地名の類似性に潜むルーツのつながりを発見。・・・・
こんな感じで、扱う地図もどんどん切り替わっていく。それが発想の観点の発見にもなっている。
私が特に面白いと思った地図が2つある。一つは、p145にある地図。”図B 沖縄の「距離」”だ。東京から広島の地図の下に、沖縄本島から石垣島の地図を並べている。こんな「距離」感で地図をみたことがない。実に示唆に富む。
もう一つは、おもしろい思考実験地図。p216-217に、”図C:各国の人口順と国土面積順を同じにした世界地図”。国の人口の順番を国土面積の順番に「整列」させて、世界地図に各国を当てはめなおしてみた試み。こんなことを考える人はまずいないだろう。思考実験と著者がいう由縁の一つと言えそうだ。
さらにもう一つ、白紙の世界地図に、共産主義国だけ切り出し「限定」してみるという発想から、「1つに絞って考える、楽しむ」つまり「限定」という発想が19項目の観点として掲げられている。これを「日本一『限定』の日本」に展開した情報が興味深かった。p258~p261に述べられている。けっこう、意外なものが多くあった。
つまり、過去に学びあるいは知った情報のリセット、リニューアルの必要性を感じた次第。これ自体、話のネタになる雑学でもある。実に楽しい。たとえば、次の質問に該当する都道府県名はどこでしょう。人口あたりの美容院数が日本一はどこ? 寺数が一番多いのはどこ? 日本一短い国道はどこにある? 自然の山で日本一低い山はどこにある? 50万人以上の都市で水道水源を100%地下水でまかなっている都市はどこにある?
「限定」という観点からこんな展開まで推し進めた発想と展開ができるなんて、じつにおもしろい。
この本から発想の仕方、思考実験の面白さを感じた。これも読書の楽しみといえよう。
ご一読ありがとうございます。
本書で採りあげている関連項目をネット検索でいくつか見つけた。その一覧をリストにしておこう。
時空を越えて~歴代肖像画一千年 :「肖像ドットコム」
参考図:豊臣秀吉像(高台寺蔵) これと同じ絵がp11に載っています。
著者はこの絵を「凝視」して語っています。
ドガ 光と影のエトワール :「日曜美術館」
地球の夜景のタイムラプス動画 :YouTube
天才バガボンド :「内田樹の研究室」
南北逆さまの世界地図 :「Solla そら」に掲載の地図
メルカトル図法 :ウィキペディア
正距離方位図法 :ウィキペディア
世界の紛争マップ :グーグル地図
宗教の世界地図 :「日本地図・世界地図」
古代の植民都市 :ウィキペディア
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聖地エルサレム 長谷川大氏 :「AllAbout 世界遺産」
日本の排他的経済水域 :ウィキペディア
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