遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『古代エジプト3000年史』 吉成 薫   新人物往来社

2013-02-09 14:16:02 | レビュー
 本書は同社刊行のビジュアル選書の一冊である。表紙がツタンカーメンの黄金のマスクであり、3000年史というタイトルにも惹かれて、ペラペラとまずながめたら、写真が多いので、古代エジプトへの入門書として読んで見た。ピラミッドはできれば一度は現地観光してみたい土地でもある。本書は観光前の予備知識を学ぶのに最適な一冊とも言える。

 目次のページを除いて実質140ページ。本書で、写真やイラスト図が一切掲載されていない見開きは6、つまり12ページだけ。見開きの片面ページでみると他に22ページあるので、合計34ページだけが字面だけのページということになる。つまり「ビジュアル」という点を名の通り実現させている。写真も全体外観写真と個別写真まで結構バランスよく載せられている。これらの写真を眺めて、写真添付のキャプションを追いかけていくだけでも、概略のイメージがつかめて、結構たのしい本だ。今回は巻頭から巻末までページ順に読むのでなく、まず写真・キャプションを通読し、それから本文を読んでみた。
 こういう読み方も、けっこうおもしろいものだ。

 本書は第一部「古代エジプトの死生観」、第二部「王朝を築いたファラオたち」という二部構成になっている。
 そして、第一部では、現存する遺跡・遺構・遺物・発掘品などを写真でビジュアルに見せながら、それが、なぜ、何のために、どのようにしてという観点で語られていく。
 ここでは4つのテーマについて語られている。本書に章番号はないが、わかりやすくするために番号をつけて記し、ポイントと感想をメモしてみたい。
 1)偉大なる建造物
  ギザの三大ピラミッド、カルナック神殿、アブ・シンベル神殿、王家の谷と、著名な名所がカバーされている。ピラミッドというとあの巨大な四角錐の建造物だけを想い浮かべてしまうが、著者は葬祭神殿、参道、河岸神殿などの諸施設を伴うピラミッド複合体というあり方でとらえるべきだと指摘する。なるほど、それによりピラミッドという巨大な点が、面に広がるのだ。本書を読み、ピラミッドの外側を頂上まで登ることが禁止されたことを知った。どの外観写真をみていても空の色がすばらしい。建造物と空とのコントラストが実にいい。テレビのエジプト番組で見たことのないアングルからの写真や場所も数多く載せられている。3つの神殿写真ではそのバランスがよいように感じる。
  パリのコンコルド広場で見たオベリスクが、ルクソール神殿の正面右側のオベリスクだったことをこの本で再認識した。
  もう一つ、ピラミッドの底面の四辺が正しく東西南北の方角を示すということは理解していたが、当時の北極星は、現在のこぐま座のα星ではなく、りゅう座のα星だったとされるという説があることも知った。
 2)古代エジプト人のくらし
  エジプトの墓の壁画から古代エジプト人のくらしの様子がが読み取れる。「そこに描かれているのはある意味エジプト人の理想の生活」であり、「来世での理想のくらし」でもあったという指摘は、参考になる(p52)。また、「基本的にエジプト社会は、王を頂点に頂く安定した状況が理想とされ続けたようである」(p53)という指摘もおもしろい。
 3)エジプトの神々
  ここでは、八百万の神々の存在したエジプトの中から、有名どころ(?)がとりあげられ、簡潔な説明がなされている。写真をみながら読むとわかりやすい。採りあげられているのは、オシリス、イシス、アヌビス、トト、ホルス、セト、ラー、アテン、ケプリ、ハトホル、バステト、ベスである。ハトホル女神、ベス神の写真を見るのは初めてだ。エジプトの神々を知ることは、エジプト人のこころを知ることにつながるようだ。
 4)「死者の書」
 「死者の書」と呼ばれるものの一部をエジプト展で見たことがある。しかし、その時は「死者の書」というのはこういうものか、というくらいにしか受けとめていなかった。本書では、この死者の書をかなり具体的に解説してくれている。この部分は読み応えがある。著者によると、「死者の書」は「実際は死者の安全をはかるための呪文を記した実用のための手引書の類と言える」(p70)ものだとか。死者の安全という言い方は奇妙に聞こえるが、そこには古代エジプト人の死生観が表れている。「エジプト人は死後も生前と同様の生活を続けたいと望んだ。」という、そのための危険回避の呪文がこの書に書かれているそうだ。いわゆるマニュアル集なんだとか。採りあげられている呪文の例も興味深い。
 5)文字の誕生
  当然のことながら、ロゼッタ・ストーンについての説明がある。ヒエログリフ、デモティック以外にその中間書体として、ヒエラティックというのが存在することを本書で知った。そして、ヒエログリフとヒエラティックが、縦書き、横書き以外に、文字自体を鏡文字のように左右逆に書くこともできたというのは、これまた知らなかった。古代、文字が読み書きできるということは、どこでもエリートだったのだ。エジプトも書記はエリートとして社会的地位が約束されていたそうだ。

 第二部は、王朝を築いたファラオ達の中から、著名な人物を抽出して、その人物を軸にしながら王朝が語られ、3000年の歴史を通覧する形が取られている。
 どの時代の誰を軸にして本書で解説されているかリストにしておこう。
 初期王朝時代・第1王朝  ナルメル
 古王国時代・第3王朝   ジェセル
  このジェセルの寵臣にイムヘテプがいる。階段ピラミッドを設計、建設した人。
  書記の守護神として神格化された人物
 古王朝時代・第4王朝   クフ  ギザの三大ピラミッドの一つに名を残す
  復元された「クフの船」、現存する唯一のクフの像の写真も載っている。
 中王朝時代・第12王朝   アメンエムハト1世 
 中王朝時代・第12王朝   センウセレト1世 
 新王国時代・第18王朝   トトメス3世 エジプト史上最大の領土を築いた王
  男装の女王ハトシェプスト(トトメス3世の義母)が有名
 新王国時代・第18王朝   アメンヘテプ4世
  アテン信仰に夢中になり、アクエアテンに自ら改名し、首都をテーベからアケト・
  アテン(現在のアマルナ)に遷都した王。「異端王」として嫌われる。
  実は、家族思いの人間味あふれる人物だったとか。
  彼の妃は絶世の美女と言われるネフェルティティである。
 新王国時代・第18王朝   ツタンカーメン  王妃はアンケセナーメン
  1922年、イギリスの考古学者ハワード・カーターが墓を発見。無盗掘だったことで
  有名だ。ツタンカーメンの死因に暗殺説もあるが、まだ死因は謎のままだとか。
 新王国時代・第19王朝   ラムセス2世
  およそ67年間エジプトを統治した王。「カデシュの戦い」で有名。
  王妃ネフェルタリも絶世の美女だったとか。
 プトレマイオス朝時代   クレオパトラ7世
  クレオパトラを描いた絵が5点載っている。
 3000年史のポイントを知るのに、入門編として役立つ小論だと思う。

 最後に、付録として、「エジプトに魅了された人物群像」と題して、1ページに2名、計8名のプロフィールが記されている。ヘロドトス、アレクサンドロス3世、ガイウス・ユリウス・カエサル、ストラボン、ナポレオン・ボナパルト、ベルツオーニ、シャンポリオン、ハワード・カーターである。その後に掲載の「古代エジプト略年表」、6枚の地図や平面図もポイント把握には有益な資料となる。

 古代エジプトを理解する基本情報がコンパクトにまとめられているのがこの本の長所だろう。


ご一読ありがとうございます。

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 ネットでどんな情報や写真が得られるか、少し検索してみた。やはりエジプト関係の情報は多い。その一部にしかすぎないけれど・・・・結果をまとめておこう。

古代エジプト :ウィキペディア
エジプト神話 :ウィキペディア
古代エジプト年表 :「エジプト旅行」

カルナック神殿・ルクソール神殿 :「エジプトの旅」
エジプト ルクソール・カルナック神殿 :YouTube
アブシンベル神殿 :「エジプトの旅」
エジプト・アブシンベル神殿の偉業 :YouTube
王家の谷 :「エジプトの旅」

死者の書(古代エジプト):ウィキペディア
エジプトの死者の書

ロゼッタ・ストーン :ウィキペディア

ツタンカーメン   :ウィキペディア
King Tutankhamun died from broken leg made worse by malaria : "Mail online"

ネフェルタリ :ウィキペディア
ハトシェプスト :ウィキペディア
エジプト古代史を彩る5人の女性たち :「CHASUKEの部屋」

ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #1 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #2 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #3 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #4 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #5 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #6 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #7 :YouTube
ディスカバリーチャンネル 古代エジプト10の謎 #8 :YouTube

ピラミッドの謎(太陽分点と工作精度) :YouTube

『ピラミッド 5000年の嘘』ミニ特番(4分30秒) :YouTube

        ネットから得られる様々な情報の提供者に感謝します。

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