副題は「民主主義にひそむ監視の脅威」となっている。原題は「SURVEILLANCE AFTER SNOWDEN」である。サーベイランスという単語は「監視、見張り、監督」とい意味を表す。2013年にエドワード・スノーデンがNSA(アメリカ国家安全保障局)のファイルを複写し、その後で彼が選んだジャーナリストたちを通してそれを公表した。「NSAが敵国政府の活動だけでなく、自国の市民や同盟国をもスパイしていると世界に暴露した」(ⅴ)のである。それは「多分に暴露的な秘密文書の公表」(ⅵ)だった。この事によって、段階を経ながらNSAの監視がどういうもので、どういう範囲に及んでいたかが明らかになってきた。序章の中に「スノーデン後の監視」という見出しがある。原題はそこからとられたのだろう。
著者はこのスノーデンがなぜ暴露したのかを分析し、そこから学べる教訓は何かを本書で語る。
著者は、スノーデンが暴露によって明らかにしたことは、従来の標的型監視という枠を越えて、技術の進歩が「ビッグデータ」からの情報創出の方法を可能にしたことであり、大量監視という方法が「監視」という問題の質と次元を大きく転換させてしまったことにあるという。それが「民主主義への脅威になる」ことをスノーデンが事実証拠をジャーナリストを介して公表することで可視化したことに、スノーデンの行為の意義を読み取っている。
そして、主たる教訓は「我々の企業と政府の両方が一緒になって、我々に関する詳細な情報を創出している」(ⅶ)という事実を一人ひとりが明確に認識する必要性を説く。我々が知らない間に、「我々が携帯電話やインターネットを利用することを通して、我々もまた連座している」(ⅶ)という事実を突きつけたという。我々自身の意志的欲求的な情報利用が様々なデータを無意識に提供する形となり、そのデータが監視され、政府の独自分析操作で監視データが一人歩きしていくという実態を事例を提示し、分析的に論じていく。
情報処理技術やその処理法に詳しくない一般読者の私にはその論述が難解に思われる箇所が散在している。しかし、著者が何を言おうとしているか。その論理の展開は大凡理解できる。まず我々は大量監視の事実と実態を知るところから始め、どこまでの大量監視は合法と言え、場合によっては必要悪であり、どこからがあっては成らない監視、本来の民主主義を脅かす脅威になりえるのかを論じている。「かつての監視は、特定の疑惑や標的に対するものだった。現在の大量監視の時代では、誰もが例外ではなく、誰も監視を回避することはできない。だからこそ、監視は今日の民主主義にとって重要な問題なのだ」(p138-139)と述べる。
そして、その大量監視は「先制的予言」に焦点をあてるようにシフトしている危険姓を論じている。それは従来の「推定無罪」という慣行に対する危険へと転化する局面に警鐘を発している。本人自身とは切り離された次元で、「データ分析が『容疑者』を生み出せば、その人々が有罪として扱われる差別的傾向がある。未来は前もって管理される。暗い未来だ」という危険性に言及する。大量監視が存在する現代の世界において、改めてプライバシー概念の再確立とプライバシー保護を試みることが枢要だと述べている。
プライバシーに関連し、第一章で著者はこんな問いを読者に投げかける。「新しい技術はしばしば新しい課題を作り出す。誰かが手当たり次第に載せたあなたの姿やあなたの車のナンバープレートを写したフェイスブックの写真は『個人データ』か。」(p24)、「一見するとありふれたあらゆるデータがある意味では『個人の』となり得るとき、情報と『個人』とは切り離されるように見える。そして多くの人々にとって、『プライバシー』は一義的に『個人』と関係するから、古い定義は徹底的に挑戦を受ける」(p25)と。
本書は次の構成になっている。
序 章 CITIZENFOURの警告
第一章 スノーデンの嵐
第二章 世界中の監視
第三章 脅威のメタデータ
第四章 ぐらつくプライバシー
第五章 将来の再構築
CITIZENFOURとは、エドワード・スノー^デンに対して使われた最初の暗号名である。著者は第二章で、スノーデンの暴露が何をもたらしたかを具体的に論述し、末尾に「大量監視は、いかに『オンライン』と『オフライン』の世界が深く結びついているかを示すのだから」と記す。インターネット社会の現代において、大量監視はグローバルな問題であることを記憶にとどめよというスノーデンの言葉に対し、著者が具体的にグロールな大量監視が世界中で行われている事実の実態を論じている。第五章で、こうも評価している。「スノーデンの暴露は、国家主義の監視がいかに拡大しているかを示すという正真正銘の偉業だった。彼の仕事は、今日の監視がどれほど他のものごとに依存しているかも示す。」」と。第三章では、大量監視がメタデータのレベルで行われていることの事実と伴に、それが持つ意味を分析していく。第四章では、「重大な問題は、情報プライバシーは概して、身体的るいは領域的なプライバシーよりも法律上軽視されていることである」と警鐘を発している。そして、第四章の冒頭で、スノーデンの暴露で明らかになった身近な事例として、イスラム教徒のファイサル・ジムの事例を挙げている。この事例が一般市民のプライバシーを考える有力な事例の一つになるからである。その上で、なぜプライバシーが重要なのかを論じている。
著者は、スノーデンの暴露により可視化し引き起こされた嵐により、政府と企業が秘密裏の大量監視をする世界に我々が存在するという現実を厳しく見つめる。情報の取扱において、自分自身が無意識の内に情報を提供しているという実態を見つめ直す必要性を主張する。「我々がどういった世界に暮らしたいか、どのように扱われ、また他者を遇したいか」を思い起こし、それらは「デジタル化の進展と政治的生活の明らかに新しい現実の視点から再考されなければならない」と論じている。
第五章の最後に、結論として「変化をもたらすのは実践である」と述べ、デジタル化時代において、個人データが今後様々な形で取り扱われることになるので、次の事柄が起きると予測している。著者の挙げた事柄を列挙しておく。詳細は本書を開いてみてほしい。 *変化の気運に取り組む ⇒より批判的に考え始めなければならない
*新しい実践を共有する
*最も重要なことに集中する
*権力に対して真実をのべる
*脆弱性への認識を高める
*法律や政策に影響を与える
*忍耐強い持続力を持って変化を要求する
*なぜこれが重要かを思い出す
著者の分析と論理の展開、主張が完全に理解できたとは言いがたいが、スノーデン・ショック以後の世界がどのような監視社会の様相を表しているのかの大凡は感じ取れた。民主主義とプライバシー概念を考えるために、必要に応じ立ち戻り再読するべき足がかりの一書を見つけた気がする。
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映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」公式サイト - GAGA
citizenfour From Wikipedia, the free encyclopedia
Citizenfour :YouTube
CITIZENFOUR - Official Trailer :YouTube
Citizenfour Official Trailer 1 (2014) - Edward Snowden Documentary HD :YouTube
スノーデン :「映画.com」
アメリカ国家安全保障局 :ウィキペディア
米国家安全保障局(NSA)に関するトピックス :朝日新聞DIGITAL
NSA(とGCHQ)の暗号解読能力: 真実と嘘 :FORTINET
エドワード・スノーデン ある理想主義者の幻滅 :「WIRED」
スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」 小笠原みどり
:「現代ビジネス」
NSA監視プログラムを暴いたエドワード・スノーデン現在の姿と真相 :「infoMode」
米国に強制送還? スノーデン氏を待ち受ける運命とは? 2017.2.18 小山貢氏 :「文春オンライン」
Edward Snowden Full Interview on Trump, Petraeus, & Having 'No Regrets' :YouTube
Interview On NSA Whistleblowing (Full Transcript) Edward Snowden :GENIUS
EDWARD SNOWDEN INTERVIEW : NBCNEWS
Edward Snowden: ‘Governments can reduce our dignity to that of tagged animals’ 2016.5.3時点 :「thegurdian」
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『スノーデン 日本への警告』 エドワード・スノーデン 青木、井桁、金、ワイズナー、ヒロセ、宮下 集英社新書
著者はこのスノーデンがなぜ暴露したのかを分析し、そこから学べる教訓は何かを本書で語る。
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そして、主たる教訓は「我々の企業と政府の両方が一緒になって、我々に関する詳細な情報を創出している」(ⅶ)という事実を一人ひとりが明確に認識する必要性を説く。我々が知らない間に、「我々が携帯電話やインターネットを利用することを通して、我々もまた連座している」(ⅶ)という事実を突きつけたという。我々自身の意志的欲求的な情報利用が様々なデータを無意識に提供する形となり、そのデータが監視され、政府の独自分析操作で監視データが一人歩きしていくという実態を事例を提示し、分析的に論じていく。
情報処理技術やその処理法に詳しくない一般読者の私にはその論述が難解に思われる箇所が散在している。しかし、著者が何を言おうとしているか。その論理の展開は大凡理解できる。まず我々は大量監視の事実と実態を知るところから始め、どこまでの大量監視は合法と言え、場合によっては必要悪であり、どこからがあっては成らない監視、本来の民主主義を脅かす脅威になりえるのかを論じている。「かつての監視は、特定の疑惑や標的に対するものだった。現在の大量監視の時代では、誰もが例外ではなく、誰も監視を回避することはできない。だからこそ、監視は今日の民主主義にとって重要な問題なのだ」(p138-139)と述べる。
そして、その大量監視は「先制的予言」に焦点をあてるようにシフトしている危険姓を論じている。それは従来の「推定無罪」という慣行に対する危険へと転化する局面に警鐘を発している。本人自身とは切り離された次元で、「データ分析が『容疑者』を生み出せば、その人々が有罪として扱われる差別的傾向がある。未来は前もって管理される。暗い未来だ」という危険性に言及する。大量監視が存在する現代の世界において、改めてプライバシー概念の再確立とプライバシー保護を試みることが枢要だと述べている。
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本書は次の構成になっている。
序 章 CITIZENFOURの警告
第一章 スノーデンの嵐
第二章 世界中の監視
第三章 脅威のメタデータ
第四章 ぐらつくプライバシー
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CITIZENFOURとは、エドワード・スノー^デンに対して使われた最初の暗号名である。著者は第二章で、スノーデンの暴露が何をもたらしたかを具体的に論述し、末尾に「大量監視は、いかに『オンライン』と『オフライン』の世界が深く結びついているかを示すのだから」と記す。インターネット社会の現代において、大量監視はグローバルな問題であることを記憶にとどめよというスノーデンの言葉に対し、著者が具体的にグロールな大量監視が世界中で行われている事実の実態を論じている。第五章で、こうも評価している。「スノーデンの暴露は、国家主義の監視がいかに拡大しているかを示すという正真正銘の偉業だった。彼の仕事は、今日の監視がどれほど他のものごとに依存しているかも示す。」」と。第三章では、大量監視がメタデータのレベルで行われていることの事実と伴に、それが持つ意味を分析していく。第四章では、「重大な問題は、情報プライバシーは概して、身体的るいは領域的なプライバシーよりも法律上軽視されていることである」と警鐘を発している。そして、第四章の冒頭で、スノーデンの暴露で明らかになった身近な事例として、イスラム教徒のファイサル・ジムの事例を挙げている。この事例が一般市民のプライバシーを考える有力な事例の一つになるからである。その上で、なぜプライバシーが重要なのかを論じている。
著者は、スノーデンの暴露により可視化し引き起こされた嵐により、政府と企業が秘密裏の大量監視をする世界に我々が存在するという現実を厳しく見つめる。情報の取扱において、自分自身が無意識の内に情報を提供しているという実態を見つめ直す必要性を主張する。「我々がどういった世界に暮らしたいか、どのように扱われ、また他者を遇したいか」を思い起こし、それらは「デジタル化の進展と政治的生活の明らかに新しい現実の視点から再考されなければならない」と論じている。
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*新しい実践を共有する
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*なぜこれが重要かを思い出す
著者の分析と論理の展開、主張が完全に理解できたとは言いがたいが、スノーデン・ショック以後の世界がどのような監視社会の様相を表しているのかの大凡は感じ取れた。民主主義とプライバシー概念を考えるために、必要に応じ立ち戻り再読するべき足がかりの一書を見つけた気がする。
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citizenfour From Wikipedia, the free encyclopedia
Citizenfour :YouTube
CITIZENFOUR - Official Trailer :YouTube
Citizenfour Official Trailer 1 (2014) - Edward Snowden Documentary HD :YouTube
スノーデン :「映画.com」
アメリカ国家安全保障局 :ウィキペディア
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『スノーデン 日本への警告』 エドワード・スノーデン 青木、井桁、金、ワイズナー、ヒロセ、宮下 集英社新書