今日は、何があるんですか
なんでもない、一人のじいさまの話だ
その人は
孫たちに囲まれ
今は、しずかに横たわっていた
夜は 更けていき
噛みしめて味わう談義になった
その人にはもう、体力が残っていなかったので
その声は さゝやくようだった
人生は
噛みしめて 味わうものよ
その前に まず 飲み込むのじゃ
飲み込んで、噛みしめる
苦くありませんか
そこよ
良薬は、というじゃろ
そこを ぐっと
飲むのよ
まあ 気が晴れるだけじゃが
しないよりましよ
はるか遠くが 見える時が
死ぬ時じゃ
ゆるやかに
たえず滅び たえず生まれる
その中で
耳を澄まし
瞳を開き
その全てを 記憶する者に
なりたい、
と 呟き
その人は 瞳を閉じました
辺りは 明けがたで
その日 生まれたばかりの光が、
その人を、包んでいました
じいちゃん!
と
孫たちが 呼んでいました
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