七瀬久里子は服飾関係の専門学校を卒業してデザイナーを目指したが、希望の職にはつけず、脈絡も無くファミレス『ロンド』でウエイトレスのバイトする毎日。
その『ロンド』が暇な時間帯に、いつも同じ席でコーヒー1杯で長時間ねばる老人がいる。
老人は国枝といい不思議な人物だった。
呆けているというが、久里子にはそう思えなかった。
確かに『ロンド』で見る国枝老人は、呆けいるとも見える。
だが久里子の家の近所の公園で、ベンチに泰然と座っている国枝老人は、何故か別人のようだった。
さて久里子の家でひょんなことから、アンと名づけた雑種犬を飼うことになった。
実は久里子の弟の信は二浪中だった。
予備校にも通わず、殆ど自室から出ずパソコンゲームに耽っている。
食事も自室でとり、引きこもりと表現したほうがよい状況だった。
両親は信に対して、腫れ物にでも触るように接していた。
久里子も口を利くことがなかった。
久里子は信を恐れていたのだ。
犬でも飼えば信の心境に変化がでるかもとの、両親の切ない思いだったのだが・・。
ある日久里子はアンを散歩させていると、最近外で飼っている犬が毒入りの食べ物を食べさせられる、そんな被害にあっていることを聞かされる。
そして翌早朝、信が外出するのに気付く。またその翌朝も・・・。
アンの散歩がてら信の後を追った久里子は、近所の公園でブロックで頭を割られた犬の死体を見つけてしまう・・・。
偶然国枝老人も公園に来ていて、久里子に的確な支持をした。
交番に届け出た久里子。
それから数日後アンを散歩させていた久里子は、公園のベンチに座る国枝老人を見つける。
国枝老人と久里子が話し込んでいた隙に、アンがなにかを口にしてしまう。
突然嘔吐し倒れ震えるアン。
久里子は国枝老人の指示で、タクシーに乗って動物病院にアンを運ぶ。
医師は同じようなことが二度あったという。
どうやらナメクジを殺す殺虫剤を埋め込まれた、パンやチーズを公園で食べたようだ。
幸い胃洗浄し一命を取り留めたアンは、しかし入院することとなった。
アンの嘔吐したものからも、やはりナメクジ駆除剤が検出された。
交番に届け出た久里子は、この一月半で同様の届け出が八件もあったことを知る・・・。
国枝老人と久里子とワンコロが遭遇する、中短編三連作のミステリ。
肩が凝らないミステリで、それでいて切れもいい。
近藤史恵ホームページhttp://fumie-k.txt-nifty.com/
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