「おまんま」
町医者の幸庵が、岡っ引政五郎の倅同然の手下(てか)、「おでこ」こと三太郎が飯も食わずに寝ついていると、ぼんくら同心井筒平四郎の家に知らせに訪れた。
幸庵はおでこは病ではなく、何か悩み事があるのだといい、平四郎に探索するよう要請する。
平四郎が政五郎のかみさんに様子を訊いているとき、中間の小平次が、今評判の似顔絵扇子の絵師秀明(しゅうめい)が、殺されたと知らせに走ってきた・・・。
「嫌いの虫」
佐吉は鉄瓶長屋の差配の役目を終え、元の植木職人に戻り、お恵と所帯を持った。
しかし仲のよい夫婦のはずのふたりの間に、何故か隙間風が吹いている。
佐吉は何やら屈託を抱えているようなのだ。
そんな中、佐吉が相棒のように大切にしていた烏の官九郎が死ぬ・・。
「子盗り鬼」
訳あって佐吉の母親の葵は、湊屋総右衛門の庇護の下、芋洗坂を登ったところの屋敷でひっそりと暮らしていた。
葵の世話をするお六は、幼い娘ふたりを連れてここに住み込みで働いている。
世間ではこの屋敷には、子盗り鬼がいると噂され、二年で三人も女中が代わっていた。
だがお六は実体のない子盗り鬼より余程に怖い、孫八という質の悪い男から逃れてきていた。
その孫八がこの屋敷を探しあてた・・・。
「なけなし三昧」
鉄瓶長屋から家移りして、幸兵衛長屋の表長屋でまた煮売屋をやっていたお徳だが、商売敵ができ商売あがったりと平四郎に嘆く。
同じ表長屋でおみねという女が商うお菜屋で、お菜は豪勢にして旨く、その上お徳の煮物より安いときた。
平四郎は探りを入れてみたが、赤字承知でやっているおみねには、どうも事情がありそうだ・・。
「日暮らし」
芋洗坂の屋敷で暮らす葵が殺された。
下手人として自身番に身柄を囚われているのは、こともあろうに佐吉だった。
知らせを聞き大混乱の平四郎は、芋洗坂の自身番へと駆けつけるが、ここいらは平四郎にとって差配違いであり、出張ったことはできない。
佐吉は自分が殺されたって、人を殺めるような男ではない。
しかし佐吉は母親葵に捨てられたと恨んでいる・・・。
いったい佐吉は母親の居場所をどうして知ったのか、絞め殺された葵のすぐそばで腰を抜かしていたのだそうだ。
そして湊屋総右衛門は、佐吉が下手人として、事を葬ろうとしていた。
佐吉が下手人とは思えない平四郎には、総右衛門の仕打ちに納得がいかない。 先の鉄瓶長屋の一件でも、総右衛門のやり口に嫌悪感を抱いていた。
平四郎は、此方の役目を担当する同心佐伯錠之介の了承を漸うに得て、甥の超美形少年弓之助とともに、政五郎やおでこの力を借り真相に迫っていく。
封印された真実が、ついに解きほぐされる・・・。