石川千波と水沢牧子と日高美々の三人は、互いに気の置けない実に仲のよい女友達同士である。
千波と牧子は小学校の頃からの幼馴染で、大学生になってそこに美々が加わった。
千波はトムさんで、牧子はまんまの牧子で、美々は美々ちゃんと互いに呼び合っている。
社会人となり各々が離れていき、、そのまま個々の世界の住民となり、次第に疎遠になっていくはずだった。
それが偶然か必然か、三人ともトライアングルの格好で近くに住むようになり、四十を越えた今も尚、青春の時より一層仲がよい。
年を重ね個々の人生経験から、互いをよりよく理解し合え、友情を熟成させていったのかもしれない。
いいたいことをはっきりいう美々、感情を殺し耐える牧子、それぞれの身にそれぞれのかたちの離婚があった。
そして牧子には大学進学を控える娘さきがおり、美々には既に女子大生になっている娘玲がいる。
牧子は再婚せず、職業作家として、女手ひとつでさきを育てている。
美々は娘玲がごく幼いうちに、写真家の日高類と再婚し、以前は婦人雑誌の編集部にいたのだが、今では夫のマネージャー役に徹している。
千波だけが未婚のままで、自ら選んだアナウンサーという職業と結婚したようなものだった。
千波は母一人子一人の家で育った。
もともと他人の、男と女が、ひとつ家に暮すのは恐ろしいものだという幼い頃からの観念を、美々の離婚騒動がより強固なものにさせた。
当然子供もいないが、ギンジローというオジサン猫と二人?暮らしをしている。
アメリカン・ショートヘアのブラウンタビーで、シルバーでもない上に初めて飼う子猫にギン・ジローと名付けたのは、当時小学校六年生だったさきである。
背の高い千波は髪も短くし男勝りの性格で、他人に弱みを見せず、いつも気を張って生きているようなところがあった。
角度を変えると、幼い頃から孤高な彼女の姿が、見え隠れするようでもある。
女性アナウンサーとして確固たる地位を築かんとするそんな千波に、思いもよらぬ不吉な病魔の影が迫る。
千波と牧子と美々の三人は、永久に続くかとも思えていた、かけがえのない友との時を慈しむ。
孤高を貫かんとする千波の前に、嘗て彼女が指導したことのある研修生だった鴨足屋(イチョーヤ)良秋が、ディレクターとして一人前の現場人に成長した姿で現れる・・・。
この著者としては珍しく、非ミステリー小説で、純文学として十分通用する珠玉の一作である。
章ごとに語り部が変わり、その視線で物語は進行していく。