『クロノリス ―時の碑―』 ロバート・チャールズ・ウィルスン (創元SF文庫)
![](http://www.tsogen.co.jp/img/cover_image_l/70607.jpg)
ある日、空から巨大な何が落ちてきたら一番びっくりするだろう。ある日空から巨大な……、ある日空から巨大な……。そう考え続けるSF作家が登場したのは火浦功の短編だったか。
この小説では、ある日、空から、クロノリスが降ってくるのである。
クロノリス。クロノス+モノリスと紹介文には書かれているが、モノリスみたいに真っ黒でのっぺらぼうではない。芸術的な人物像なのである。レーニン像のような、あるいは、毛沢東像のような。本文中では、クロノス(時)+ソリス(石)とされているが、クロノソリスではなく、クロノリスとしたところはやはりモノリスが頭にあったにせよ、人物像というのがぶっ飛びである。
この人物像、誰のものかは台座にしっかりと書いてある。征服者、クイン。そして日付は20年後の未来。そう、この空から降ってきた巨大な人物像は未来からの勝利のメッセージだったのである。
そして、さらにぶっ飛んでいるのが、身の丈190センチを越える大女の物理学者、スラミス・チョプラ(スー)が唱える「タウ・タービュランス仮説」。相変わらず、カラビ・ヤウ空間だとか、膜だとか紐だとかの話は良く分からないが、このタウ・タービュランス仮説が正しければ、バタフライ効果のように偶然性が解析できてしまうのである。つまり、小説中で起こる偶然のできごと、ご都合主義はすべて物理学的に説明可能で、シミュレーション可能だというのだ。なんという無理矢理な力技。
そして、スーのクロノリス研究が世界を救う(?)ことになるのだった。
主人公は、このタービュランス(乱気流)に巻き込まれた中年男、スコット。彼と、彼の家族を巡る物語が抑制された語り口で紡がれていく。別れた妻も、聡明な娘も、妻の新しい配偶者も、悪友も、何もかもがクロノリスとスーのタウ・タービュランスに巻き込まれ、崩れていく。それでも、男は運命に立ち向かう。
静かで抑制の効いた、地味な家族の物語という側面が注目され気味だが、時間SF的なアイディアも実に良く練られらた論理的なものだ。すべて明らかになっているし、不足も無ければ過剰も無い。まったくすばらしい。これを、結局はすべてが謎で終わると解釈している人は、SF素人(笑)
ぶっ飛んだ設定と、人間関係を中心に描く地味な描写がアンバランスな魅力を引き出して、不思議な感覚にさせられる秀作。訳文のせいもあるのだろうが、完全に『時間封鎖』と同じ著者であることがはっきり分かる文章だ。あれも設定の派手さと、語り口の地味さが絶妙だった。
このアンバランスさがウィルスンの魅力であり、それを引き出しているのは訳文の妙とも言えるかもしれない。まさしく他には無い魅力だ。
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ある日、空から巨大な何が落ちてきたら一番びっくりするだろう。ある日空から巨大な……、ある日空から巨大な……。そう考え続けるSF作家が登場したのは火浦功の短編だったか。
この小説では、ある日、空から、クロノリスが降ってくるのである。
クロノリス。クロノス+モノリスと紹介文には書かれているが、モノリスみたいに真っ黒でのっぺらぼうではない。芸術的な人物像なのである。レーニン像のような、あるいは、毛沢東像のような。本文中では、クロノス(時)+ソリス(石)とされているが、クロノソリスではなく、クロノリスとしたところはやはりモノリスが頭にあったにせよ、人物像というのがぶっ飛びである。
この人物像、誰のものかは台座にしっかりと書いてある。征服者、クイン。そして日付は20年後の未来。そう、この空から降ってきた巨大な人物像は未来からの勝利のメッセージだったのである。
そして、さらにぶっ飛んでいるのが、身の丈190センチを越える大女の物理学者、スラミス・チョプラ(スー)が唱える「タウ・タービュランス仮説」。相変わらず、カラビ・ヤウ空間だとか、膜だとか紐だとかの話は良く分からないが、このタウ・タービュランス仮説が正しければ、バタフライ効果のように偶然性が解析できてしまうのである。つまり、小説中で起こる偶然のできごと、ご都合主義はすべて物理学的に説明可能で、シミュレーション可能だというのだ。なんという無理矢理な力技。
そして、スーのクロノリス研究が世界を救う(?)ことになるのだった。
主人公は、このタービュランス(乱気流)に巻き込まれた中年男、スコット。彼と、彼の家族を巡る物語が抑制された語り口で紡がれていく。別れた妻も、聡明な娘も、妻の新しい配偶者も、悪友も、何もかもがクロノリスとスーのタウ・タービュランスに巻き込まれ、崩れていく。それでも、男は運命に立ち向かう。
静かで抑制の効いた、地味な家族の物語という側面が注目され気味だが、時間SF的なアイディアも実に良く練られらた論理的なものだ。すべて明らかになっているし、不足も無ければ過剰も無い。まったくすばらしい。これを、結局はすべてが謎で終わると解釈している人は、SF素人(笑)
ぶっ飛んだ設定と、人間関係を中心に描く地味な描写がアンバランスな魅力を引き出して、不思議な感覚にさせられる秀作。訳文のせいもあるのだろうが、完全に『時間封鎖』と同じ著者であることがはっきり分かる文章だ。あれも設定の派手さと、語り口の地味さが絶妙だった。
このアンバランスさがウィルスンの魅力であり、それを引き出しているのは訳文の妙とも言えるかもしれない。まさしく他には無い魅力だ。