『約束の箱舟(上下)』 瀬尾つかさ (ハヤカワ文庫 JA)


遥かな惑星を第二のふるさとにすべく、世代宇宙船は行く。人類と、異星人を乗せて。
宇宙船を突如襲ってきた異星人ベガーと、人類は壮絶な死闘の末に和解し、今では共生とも言える生活を続けている。しかし、それも対ベガー戦争を知らない子どもたちの世代だけ。ベガーと死闘を繰り広げた大人たちの世代には、ベガーに対する恐怖心と敵対心が根強く残っていた。
目的地の惑星を目の前に、燻っていた火種は遂に炎を吹き上げる。
世代宇宙船はSFでは目新しいものではないが、そこにベガーという謎の要素を導入したところがポイント。彼らはどこから来たのか。そして、なぜ子どもたちと共生できるのか。スライム状のベガーを宇宙服のように身にまとう子どもたちが宇宙船の未来を握るという設定が、戦前戦後に世代を分けた複雑な社会情勢が形成された背景としてしっかりと描かれている。
ベガーの正体は物語を引っ張る牽引力である謎のひとつなのだが、SFネタとしてみれば陳腐な部類になるかもしれない。しかし、この小説の魅力はそんなところにあるわけではない。
この物語の最大の魅力はテルというキャラクターだ。天真爛漫でまっすぐで、狂っているくらいにベガーに信頼を寄せている。ベガーとシンクする天才児で、新しい時代の象徴。テルが上巻で、ああいうことになってしまったシーンはリアルに正視でき(というか読め)なかった。それだけ、読者である自分も、テルの魅力に惹き込まれていた。
テルだけではない。テルの友人であるスイレン。テルに変わる新たな象徴となったキリナ。この3人の少女たちの生き様がこの小説の魅力。テルがテルとして生きた証。スイレンがスイレンに変わった理由。キリナがキリナとして生きた物語。それらがエピソードとしてしっかり描かれているために、彼女たちの存在が、よりリアルに迫ってくる。
また、教師として、そして、母として、彼女たちを導く女性型アンドロイドも、それぞれに魅力的で、人間以上に魅力的な人間性を見せる。ついでに言えば、ベガーのボスキャラも“マザー”ベガーだ。
一方で少年たちといえば、語り手である主人公のシンゴはまだしも、ケンやジュンペイの物語は取って付けたようで、あまり共感を呼ばない。それがゆえに、彼らがなぜあれだけのことをやってのけたのかということが理解できず、納得がいかない。
寄り合いの老人たちも、男たちは頼りなさそうで子どもっぽい。副艦長も残念な結果に終わる。著者が意識してせずか、この差はなんだ。
それはさておき、少女たちの物語に酔う。テルは願った。キリナは誓った。まさしく、その通りの物語。


遥かな惑星を第二のふるさとにすべく、世代宇宙船は行く。人類と、異星人を乗せて。
宇宙船を突如襲ってきた異星人ベガーと、人類は壮絶な死闘の末に和解し、今では共生とも言える生活を続けている。しかし、それも対ベガー戦争を知らない子どもたちの世代だけ。ベガーと死闘を繰り広げた大人たちの世代には、ベガーに対する恐怖心と敵対心が根強く残っていた。
目的地の惑星を目の前に、燻っていた火種は遂に炎を吹き上げる。
世代宇宙船はSFでは目新しいものではないが、そこにベガーという謎の要素を導入したところがポイント。彼らはどこから来たのか。そして、なぜ子どもたちと共生できるのか。スライム状のベガーを宇宙服のように身にまとう子どもたちが宇宙船の未来を握るという設定が、戦前戦後に世代を分けた複雑な社会情勢が形成された背景としてしっかりと描かれている。
ベガーの正体は物語を引っ張る牽引力である謎のひとつなのだが、SFネタとしてみれば陳腐な部類になるかもしれない。しかし、この小説の魅力はそんなところにあるわけではない。
この物語の最大の魅力はテルというキャラクターだ。天真爛漫でまっすぐで、狂っているくらいにベガーに信頼を寄せている。ベガーとシンクする天才児で、新しい時代の象徴。テルが上巻で、ああいうことになってしまったシーンはリアルに正視でき(というか読め)なかった。それだけ、読者である自分も、テルの魅力に惹き込まれていた。
テルだけではない。テルの友人であるスイレン。テルに変わる新たな象徴となったキリナ。この3人の少女たちの生き様がこの小説の魅力。テルがテルとして生きた証。スイレンがスイレンに変わった理由。キリナがキリナとして生きた物語。それらがエピソードとしてしっかり描かれているために、彼女たちの存在が、よりリアルに迫ってくる。
また、教師として、そして、母として、彼女たちを導く女性型アンドロイドも、それぞれに魅力的で、人間以上に魅力的な人間性を見せる。ついでに言えば、ベガーのボスキャラも“マザー”ベガーだ。
一方で少年たちといえば、語り手である主人公のシンゴはまだしも、ケンやジュンペイの物語は取って付けたようで、あまり共感を呼ばない。それがゆえに、彼らがなぜあれだけのことをやってのけたのかということが理解できず、納得がいかない。
寄り合いの老人たちも、男たちは頼りなさそうで子どもっぽい。副艦長も残念な結果に終わる。著者が意識してせずか、この差はなんだ。
それはさておき、少女たちの物語に酔う。テルは願った。キリナは誓った。まさしく、その通りの物語。