神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] SFマガジン2012年10月号

2012-09-11 11:36:36 | SF

『S-Fマガジン 2012年10月号』 (早川書房)

 

今月号は「レイ・ブラッドベリ追悼特集」。

ブラッドベリは、実はあんまり読んでいない。中学生の頃、かの名作『火星年代記』を退屈だと思ってしまったのが運の尽き。それ以来、あんまり好きじゃない作家の方に入れていた。

叙情的すぎるというか、確かに面白いのだけれど、それってSFの面白さじゃないよね的な。なので、俺にとってブラッドベリはSF作家ではないのだ。

今回、代表作2編を読み直してみたのだけれど、やっぱり、そんなに熱狂できるものではなかった。みんなが好きだから、好きにならなきゃいけないというわけでもないけれど、なんだか自分の感性に自信がなくなってくる。

オマージュ・ショートショートとしてブラッドベリにささげる作品も2編収録。これもオマージュすぎて、単品として評価できるものではない。

最近の特集の組み方としては、非常に充実した号だったと思うけれど、なんとも、もやっとする感じだった。

 


△「生まれ変わり」 レイ・ブラッドベリ
 死んだ男の混乱と、残された女の葛藤。そして、タイトル通り。

△「ペーター・カニヌス」 レイ・ブラッドベリ
 だいたい、告解という制度自体を深く理解できていないので、なんとも。

△「祝杯を前にして」 井上雅彦
 ブラッドベリに捧ぐ。

○「Hey! Ever Read a Bradbury?」 新城カズマ
 ネットにあふれた言葉が実体化して、最初の言葉を探し始める。
 ブラッドベリ、バロウズ、そして、キュリオシティという流れがなんとも印象的。

△「霧笛」 レイ・ブラッドベリ
 ブラッドベリの短編では一番有名なんじゃないかという作品。恐竜好きなんだけど、なんかひとネタ足りない感じがする。

○「歌おう、感電するほどの喜びを!」 レイ・ブラッドベリ
 類人猿的にも、“おばあさん”の存在意義の研究はおもしろいわけだけれど、そっちを主題とみるべきか、愛されるロボットという方を主題とみるべきか。そういうことをグダグダ考えるから悪いのか。

○「輝きの七日間」 山本弘
 連載終了。
 いろいろ教訓的なエピソードが並んだ結果、優等生的に終わってしまった。最後に皮肉なオチでもあれば面白かったのにと思うのは、俺がひねくれているせいか。

-「スワロウテイル人工少女販売処」
 すぐに書籍化されるらしいので、スキップ。ハヤカワ文庫買って読む。

 

 


[SF] THE FUTURE IS JAPANESE

2012-09-11 10:46:06 | SF

『THE FUTURE IS JAPANESE』 伊藤計劃+円城塔+小川一水・他 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 

アメリカで出版された日本テーマのアンソロージーを逆輸入。しかも、それを日本SFのレーベルであるJコレクションで出版してしまうという暴挙(笑)

著者クレジットは日本SFを代表する3人の表記だが、これに加え、飛浩隆と菊地秀行。さらに、ブルース・スターリングをはじめとする英語圏作家の邦訳を含む短編集。

ロボットアニメ風なものから、日本というよりは中国風なものまであり、アメリカ人の日本に対するイメージが読めてなかなか興味深い。しかし、好みの問題もあるのだろうが、SFとして面白かったのは、やはり日本作家陣の作品。

これらの日本人作家の作品がどのようにアメリカで評価されるのかが気になるところ。伊藤計劃がフィリップ・K・ディック賞の特別賞を受賞したのは記憶に新しいが、個別の作品に対する評価も聞いてみたい。

特に、小川一水の「ゴールデンブレッド」のような、あまりにストレートすぎる文化の交換に対して拒否感や反発は無いのか、とか。

英語圏作家では「別れの音」と「樹海」が、日本人が読んでもまったく違和感の無い感じで良かった。その他の作品も、こういう企画なので日本的にどうこうという感想になってしまいがちなので、別なアンソロジーで読んだら、また別な感想になるかも。


日本は英語圏以外で世界中のSFが読める稀有な土地だそうだ。それもこれも、翻訳者の方々のおかげなのだが、日本SFの輸出もどんどん広がって欲しいと思う。


「もののあはれ」 ケン・リュウ
 滅亡に瀕した地球での、日本人の静かさが印象的。やっぱりこういうイメージ。
 自己犠牲も日本的なものなんだろうか。少なくとも日本人は大好きみたいだけどね。カミカゼ特攻的な皮肉というわけでなく。
 それにしても、著者名がストⅡみたいだ。

「別れの音」 フェリシティ・サヴェージ
 まるで日本人が書いたような日本的SF小説。最近話題の生活保護問題とかもちょろっと出てくるし。と思ったら、東京在住なのか。

「地帯兵器コロンビーン」 デイヴィッド・モールズ
 今度はアニメのノベライズ風。『ダイナミック・フィギュア』かと思った。

「内在天文学」 円城塔
 「Self-Reference Engine」系。人類ではなく、ほかの何かの存在によって観察され、量子の雲から生み出される世界。
 それでもやっぱり、少年は少女を追って冒険に出かける。このテーマは円城的ライフワークなのかも。

「樹海」 レイチェル・スワースキー
 ファンタジックホラーな舞台としての青木ヶ原の紹介小説のようだ。日本的ユウレイも西洋の人には新鮮なのかも。
 それにしても、ここまでちゃんと理解しているのはJホラーのおかげですかね。

「素直に言えば」 パット・キャディガン
 素直に言えば、わかりません。

「ゴールデンブレッド」 小川一水
 文化交換による露骨なIF小説。どんどん欧米化してきた日本人にとっては違和感はないが、アメリカ人から見るとどうなんだろう。
 日本文化の紹介としては面白いかも。

「ひとつ息をして、ひと筆書く」 キャサリン・M・ヴァレンテ
 まったくわからない。詩?
 しかも、微妙に日本理解を間違ってる系。どちらかというと中華ファンタジー。

「クジラの肉」 エカテリーナ・セディア
 捕鯨関係でいろいろ間違った理解をしている。こんな誤解を広めないでほしい。
 しかし、ある意味これもアメリカ人の日本像なのだよね。

「山海民」 菊地秀行
 あまり日本を意識してない。そして、菊地秀行っぽくもない。まぁ、普通。

「慈悲観音」 ブルース・スターリング
 対馬を舞台とした一種の歴史改変小説なのだが、どうなんだろうこれ。スターリングがどのあたりを日本的と考えたのかがよくわからない。佐藤さんと海賊女王の対比なのか?

「自生の夢」 飛浩隆
 日本的な、というよりは、最良の日本SF短編の紹介。このネタは世界に通じると思う。
 間宮の存在が日本的な側面、大仕掛けのネタはGoogleからのインスパイアとして世界的な側面。ふたつの面白さを両立させているあたりが、輸出すべき日本SFとして最適。

「The Indifference Engine」 Project Itoh
 伊藤計劃は英文のまま収録。読めねぇ……。