神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 星の涯の空

2014-03-24 23:17:09 | SF

『星の涯の空』 ヴァーナー・ヴィンジ (創元SF文庫)

 

『遠き神々の炎』の直接的な続編。なんと、約20年の時を経ての続編刊行となった。

期待とともに、前作の内容をすっかり忘れているという不安も大きかったが、犬っぽい生命体の群体知性である“鉄爪族”の強烈なキャラクターが記憶に残っていて、それをトリガーに記憶を呼び覚ますことができた。

しかし、この内容は、起承転結の承部分を延々続けたような感じで、長い割に読み終えた満足感が無い。クライマックスのアムディvsベンダシャス、ヨハンナvs大富豪が伝聞で終わってしまったのも尻つぼみ感を増大させている。さらに、ラヴナとネビルの対決も、グダグダで、すっきりとしないまま次巻へ持越しとなってしまった。

3部作の第2作って、だいたいこういう感じで、すべて完結してから再評価されるのが常なので、そういうことかと思うのだけれど、そもそもこのシリーズは三部作で終わるのかどうかすら定かではない。というか、このペースで次巻は20年後とか言ってたら、著者のヴィンジは90歳になってしまう。

いくら元妻のジョーン・D・ヴィンジがこのシリーズに参戦といっても、さすがに厳しいでしょ。

ということなので、いつ完結してもおかしくないぐらいでいて欲しいんだけど、さすがにこれは引っ張り過ぎ。なんとか、著者も読者ファンも生きてる間に完結させて欲しいものだ。


という事情はさておき、小説としての読みどころは、背後に超越界だの低速圏だのといったハードSF的なバックボーンがありつつも、人類との邂逅により、今まさに文明開化を迎えた鉄爪族社会の進展と、人類の世代交代による世論衝突のあたり。

文明開化といっても、鉄爪族そのものが群体知性というファンタジックな存在であり、人類が持ち込んだ科学技術も(物理界の制約により!)限られたものにすぎないので、どちらかというと、ファンタジー世界の物語に読める。

さらに、知性のあり方すら異なる熱帯地方は、暗黒大陸と呼ばれた頃のアフリカを思い起こさせる秘密と冒険の大地だ。

人類の視点や、改造群や欠損群からの新しい見地から鉄爪族を見直すことによって明らかになってくる、群体知性における自意識の在り方、自己同一性と寿命の問題というのも、SF的におもしろい。

とはいえ、やっぱりこの小説はファンタジー。鉄爪族も、新たな知性体として登場する“イカ”たち(これも解明される大きな秘密なのだが)も、騒々しくて、ある意味可愛らしいキャラクター造形になっている。ある意味、人間が一番頭が悪くて、悪意があってどうしようもなくて、イライラする。

このイライラするというのがポイントで、最終的に解消されることなく、To be continuedがどどーんと大映しになる感じ。なので、まったく達成感も爽快感も無く、次巻への餓えだけが残る。

シリーズとしては、細かい設定やエピソードをやっぱり忘れているので、ところどころで思い出せない単語や、見えていない繋がりがあるようなので、それもこの小説を楽しみきれない要素になっているんだろう。

この続きが出たときは、『遠き神々の炎』から、いや、『最果ての銀河船団』から読み直そう。といっても、どれも長いので、一か月くらいかかりそうだなぁ。

 


[SF] SFマガジン2014年4月号

2014-03-24 23:00:55 | SF

『SFマガジン2014年4月号』

 

今回はなかなか読みどころが多くて面白かった。

メインの特集記事は『「ベストSF2013」上位作家競作』。『SFが読みたい! 2014年版』の上位陣から選ばれた4人の作家の短編が掲載。さすがにどれも読みごたえがあるが、谷甲州の新・航空宇宙軍史第2回「イシカリ平原」を“読切短篇”とするのは、さすがに無理があるのではないか。まだ何も始まっていないし、何も終わっていない。

新連載として円城塔の「エピローグ〈プロローグ〉」が開始。タイトルから環をなす物語が想起されるが、思えば『Self-Reference Engine』もある意味、環状の構成だった。昨年の新連載開始(?)はなかったことにされたようだが、これは続くんだろうな。

実は一番楽しく読んだのは、こちらも新連載の評論「エンタメSF・ファンタジイの構造」(飯田一史)。SFファンが面白いと思う作品と、売れるSF作品は往々にして異なるものだが、これをマーケティング的に分析して、売れるSFを作ってしまおうという企画。まぁ、実際にこういうことを公言した作家もいるけどな。いまのところ、アンケート調査の結果を淡々と記述しているだけの体裁なのだが、これだけでも、いろいろな作品論に通じるところが実に面白い。


○「環刑錮」 酉島伝法
相変わらず読みづらい独特な、というか唯一無二の世界観。この一作だけだと、気持ち悪いだけで終わってしまいそうだが、ここから連作として『皆勤の徒』のように重層的に世界を描くことになるんだろうか。

○「否定」 クリストファー・プリースト/古沢嘉通訳
なんと、《夢幻諸島(ドリーム・アーキペラゴ)》シリーズ。『夢幻諸島から』の未収録作品。作家に心酔しているけれども、作家側から見たら作品を曲解している迷惑な読者という人間関係が、捻くれて入れ子状態になっているコメディ的なシチュエーションで語られる、冷戦的な戦争下の生活という実に捻くれた作品。たぶん、俺もそういう、読めてない迷惑な読者のひとり。

○「イシカリ平原」 谷甲州
ほんの冒頭だけじゃないか!

○「遊星からの物体Xの回想」 ピーター・ワッツ/嶋田洋一訳
かの有名な映画における裏設定を妄想したもの。コミュニケーション方法の擦れ違い(と言っていいものかどうか)は『ブラインドサイト』にも通じるテーマ。

○「エピローグ〈プロローグ〉」(第1回) 円城塔
タイトルはエピローグという名前のプロローグなのか、プロローグという名前のエピローグなのか。主人公の(と思われる)少女と、そのおばあさんが出てくるところが露骨に鍵なんじゃないかと思うけれど、とにかく先が続くことを祈る。

○「ウナティ、毛玉の怪物と闘う」 ローレン・ビュークス/鈴木潤訳
過激な日本趣味のJ-POP SF。なんというか、ニンジャとサムライとゲイシャじゃなくって、カワイイとエロとハイテクロボットが日本のアイデンティティになっちゃったんだなというのが感想。俺的にはそれでぜんぜん構わないけどね。それにしても、ハルキとタカシのダブル・ムラカミには大爆笑。やっぱり、海外でもそういう評価なんじゃないか(笑)

○「スピアボーイ」 草上仁
『スターウォーズ エピソード1』に出てきたポッド・レースを異星生物でやってしまうという疾走感あふれる快作。若者の突き上げに対する、パイロットの上を行くスピアの戦術。ベテランというのは、こうありたいものだ。

○「SF COMIC SHORT-SHORT」 第四回:岩岡ヒサエ
最近増えているGoogleNowとかのコンシェルジュ系アプリのことかと思った。