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[SF] 泰平ヨンの未来学会議

2016-04-14 23:59:59 | SF

『泰平ヨンの未来学会議〔改訳版〕』 スタニスワフ・レム (ハヤカワ文庫 SF)

 

2015 BEST SFの海外部門第16位。

スタニスワフ・レムの名作(?)が、これを原作とした映画『コングレス未来学会議』の公開に合わせて〔改訳版〕として登場。

改訳版ということなので、多少読みやすくなっているかと思いきや、この小説の性格上仕方が無いのだけれど、段落区切りもなくダラダラと続く未来学会議前の様々な馬鹿馬鹿しいエピソードの羅列に辟易とする。

そうこうしているうちに、人口爆発と格差拡大への不満を原因とする暴動が発生し、幻覚剤が振りまかれ、主人公のヨンは現実とも妄想ともつかない世界へ巻き込まれていくという話。

ポーランド語版の発行は1971年で、当時の未来への展望を皮肉った、もしくは警告したブラックユーモアSFとのことだが、どうにも笑えなかった。そもそも、スラップスティック系の話はあまり乗れないものが多くて、この小説の前半もそんな感じ。真ん中辺りで主人公が爆発に巻き込まれて未来へタイムトリップするあたりからやっと面白くなってきた。

序盤では、いったどうしてこんな小説を映画化しようと思ったのかと不思議に思ったのだけれど、最後まで読んで納得。なるほど、これは映画化しやすいだろう。

ネタを割ってしまえば、これはいわゆるVRもの。コンピューターの中で計算する替わりに、投薬で集団幻覚を見せることによって新たな世界を作り上げてしまうというわけ。まさにマトリックスの世界。容易に視覚化できてしまうし、それなりにショッキングだ。

全体的にコメディタッチではあるけれど、一番笑えたのはドラえもんの秘密道具か、小林製薬の新薬かというレベルの薬品名。薬を飲めば気分も良くなるし、知識も増える。宗教に開眼もできれば、異性にもモテモテになる。キリストジンとか、アンタナンカキラインとか、何だそりゃ。

こういうのは、今となっては「インストールする」っていう表現になりそうだが、当時は(レムのような天才であっても)薬品による効能として考えられていたというのは非常に面白い。

あとは造語が先にあって概念が作り出される的な思考実験もあって、これはまるで牧野修か円状塔だなとか。そういった細かいネタが雑然と詰め込まれているのだけれど、個別には追いきれていない感じでもったいない。