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[SF] 盤上の夜

2014-07-27 16:42:23 | SF

『盤上の夜』 宮内悠介 (創元SF文庫)

 

第1回創元SF新人賞の山田正紀賞受賞作にして、直木賞候補にもなった表題作を含む連作短編集。

最初に本屋で立ち読みした時に、あまりにえげつないので買うのを躊躇して、今に至る。文庫版が出たのを契機に、ついに購入。

なにしろ、中国旅行中に、都市伝説によくある四肢切断にあった少女が、囚われの境遇から賭け囲碁で脱出するという壮絶なエピソードから始まるのだ。

その後、話はなぜこの少女が囲碁に天才的な才能を示すのかという謎と四肢切断の関係、さらには少女を囲碁で結ぶ人間関係の紐解きへと移っていく。

SFとしても読めるが、普通の現代小説といって問題ない。というか、連作を重ねることによって、登場人物の心象を掘り下げるような、人間小説の趣が強くなる。

そして、その奥に世界認識を塗り替えるテーマが透けて見える。世界はゲームである。もしくは、世界をゲームとして認識する。さらには、そのゲームを体感し、解析し、壊し、作り変える。こういうふうに書いても、まったく伝わらないと思うのだが、この連作で著者が取り組んだことは、そういうことだと思う。

SFとしては世界をゲームで解明するとか、ゲームの完全解を導く量子コンピュータとか、そういったネタでの引っ張りはあるが、やはり主眼はその局面にいたった登場人物たちの想いを、語り手であるノンフィクションライターが解きほぐしていくところにある。

SFの手法に、擬似論文というものがあるが、これはさしずめ、擬似ノンフィクション。

論文を読むおもしろさ(?)をそのままに、擬似的な(嘘の)内容を書いた擬似論文のように、嘘、あるいはIFの事実をノンフィクションとしてつづった小説でああるため、その面白さは良質のノンフィクションを読む感覚に近い。

ただ、登場人物たちがすべてなみ外れた人々なので、スゲーと思うだけで、共感したり彼らの考え方を理解するまでには至らなかったのは残念。

 



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