神なる冬

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[SF] 〔少女庭国〕

2014-07-27 16:34:22 | SF

『〔少女庭国〕』 矢部嵩 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 

(バトルロワイヤル+CUBE)×∞。

“卒業式会場の講堂へと続く狭い通路を歩いていた中3の仁科羊歯子は、気づくと暗い部屋に寝ていた。”で物語は始まる。

部屋には“ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n‐m=1とせよ。”との「卒業試験」の張り紙。

部屋は石造りで四角く、取っ手の無いドアと、取っ手のあるドアが向かい合っている。取っ手のあるドアを開けると、そこも同じような部屋で、一人の少女が制服姿で寝ている。

ここから始まるバトルロワイヤル。というわけでもなく……。

少女たちは殺し合うわけでもなく、なんだかんだと少女期特有のゆるい会話を繰り広げながら、扉を開き、新たな少女を加えながら、状況の確認を続ける。

そして、遂に状況を認識した少女たちが至った結論とは。

驚くのはここから。

なんと、「少女庭国」という章はここで終わり、その後ろに「少女庭国補遺」という章が続いている。そして、この補遺の方がだんぜん長い。

補遺に描かれるのは、別な少女の物語。最初はパラレルワールドや、別パターンのプロットかと思ったが、実は“別な部屋”の話。

ネタバレをぶっちゃけてしまえば、この部屋は無限に続く。決して終わりはない。したがって、様々なバージョンの少女たちの物語が繰り広げられる。理系的に言えば、部屋が無限に続く以上、すべての可能性はどこかの部屋で再現されているのだ。

殺したり、殺されたり、自殺したり、みんなで餓死したり。

しかも、それだけでは終わらない。ついにはこの世界を研究し、開拓し、はるかな時を経て文明さえもが勃興する。資源は、壁の石と、無限に存在する少女たちそのものだ。扉を開き、少女を手に入れ、奴隷化し、食糧にし、わずかな所持品を資源とする。なにしろ、“卒業式でつかうために”ナイフやダイナマイトを持ち込んでいた少女もいるのだ。

このイマジネーションはものすごい。

設定は解明されず、世界の謎は深まるばかりだが、少女たちのバリエーションが世界を征服していく。まさに、数の勝利。

しかし、勝利とはなんなのか。この世界を開拓し、生き延びることに何の意味があるのか。どうあっても、n-m=1とするには、ほかのすべての少女が死なねばならないのだ。

開拓に成功し、数万人の規模の文明を作ったならば、そこから脱出するためには数万人を殺さねばならない。この理不尽さが、少女の胸に突き刺さる。生きるということはどういうことなのか、生きるということにどういう意味があるのかという根本的疑問が読者に突きつけられる。

そして、脱出路も無く、答えも無い。


ところで、n-m=1にする方法だが、最初はドアをすべてぶち抜いて、部屋を1だと言い張ればいいのではないかとおもったが、これはうまくいかなかったようだ。それならば、扉を開けさえしなければ、それでもn-m=1になるのではないかと思ったけれど、それだと試験が成り立たないか。

正解は、最初の扉を開けて、そこにいる女生徒を殺すこと。これで、二人に一人は試験に合格できる。しかし、そもそも、この“試験”がなんなのかが示されないままでは、試験に合格する意味もわからない。

ただひたすら、終わりのない思考実験によって、限られた条件のもとで想像力の翼を無限に広げるという、あまりにもSF的なチャレンジの結果が記された稀有な小説ということになる。

 



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