ケベックリタイヤ日記

ケベックでリタイア暮らし。ながらえば憂しとみた世も今は忘れた。毎日悦びの種をみつけてぽりぽりかじりたい。

薄霞(うすがすみ)我もいつかは昔人

2021-02-08 00:53:43 | 聴く
溢れんばかりの情報社会、音楽でも次から次とCDが発売され次から次と新人さんが登場する。ふと、手軽にどんな音楽でも聴ける時代にあって昔ほどに聴きこんでるのだろうかという思いがあり せめて月に1回は一枚のCDにフォーカスし若い頃のように毎日聴こうと思いBARRICADEを聴いてます。聴きながら色々浮かんでくる事もあり そこからまた視界が開ける面白みを知りました。

BARRICADEはルイ14世下の宮廷音楽で このCDに登場する作曲家は8人 クープラン、マレ、ラモー、シャルパンチエ以外は初めて知る名ばかりです。ただいまテレビでルイ14世の生涯をシリーズで紹介しており またルイ14世が創立したロイヤルアオペラダンススクールの記念番組もありいろんな事がリンクしこのリンクが楽しい。



CDを聴きながら テレビもラジオも車も電気もなかった世紀の自然光に浮かび上がった人間の心情の世界 そうだこれらの曲はフェルメールの絵画だと思いました。パラパラと手元にある画集をめくりながらフェルメールの絵には人間の隠れた情念 とりわけ一見目には清楚で貞淑な女性達の昼顔を思わせる隠喩が 見つけてごらんとばかりに配置されている。ルイ14世と同時代の画家です。この絵の壁にかかってるトランプをかざすキューピッドは女性がすでに処女でないことを暗示し当時の風習である結婚は処女でなければならないというドグマを嘲笑してるとのこと。



さらにルイ14治世下の画家を調べるとニコラプッサンに出会い彼の作品で一番有名な「アルカデイアの牧人達」がルイ14世お気に入りの作品だったと知りました。王は幼少の頃から数多の死を目撃し 自分にも死が確実に訪れることを実感すればするほどに最大限に権力を行使し思いのままに国を統治しようと思ったのかしら。ダンスが好き 戦争が好き 女が好き 。無理矢理に引き離された初恋 純真な女性に心奪われもすれば 魅力たっぷりセクシー美女にも溺れ 最後は敬虔な年増女と再婚。数年前に義妹とタイトルは忘れたけどルイ14世の主治医の記録を忠実に再現した王の死とかいう映画を見ました。延々と続くベッドでの病床映像に飽きたのと王の腐った足のみが記憶に残るのみ。



ルイ14世といえばラ・フォンテーヌも宮廷人の観察から時代国籍を問わぬ人間の普遍的な心のカラクリを寓話にしました。

バラバラになんの脈絡もなく好き勝手に読んだり観たりし聴いたりしてたものが実はリンクしていたという発見にささやかな喜びと楽しみを見つけました。

アルカデイアの牧人達がアルカデイアというユートピアの国に暮らしてさえ死は免れない 私もかつてアルカデイア人だったという墓碑を読んだように 私は好きな俳句や和歌を書き写している手帳をめくりながら探していた歌を見つけました それは万葉集の1814番。

 いにしえの人の植えけん杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし

私もいつか いにしえ人というか昔人になる あんな人がいたという痕跡さえ残らないだろう。