鉄さんは言葉の途中で腰を上げ、台所から一升瓶と新しい湯呑を二つ持ってきた。
「今日は茶よりもこっちが合うだろう」
ドンと卓袱台の上に酎を置き、例の特長のある吸いこむような笑いで高志を見た・
すかさず高志は一升瓶を掴み、二つの茶碗に勢いよく傾け注いだ。
八
年が明けお屠蘇気分が街に溢れた。
赤間猛は二人の娘を馬橇に乗せ、買い初めに出た。
通りは晴れ着を着た若い娘や、お年玉でポケットを膨らませ、それ以上に気持ちの膨らんだ子供
達が連れ立って喚声を上げている。
商店街に入った猛は娘達を下ろし、自分は別行動で妻に頼まれた買い物に廻った。
娘達が街一番の呉服店に入ったら、一時間は出てこない。
待ち合わせの場所と時間を決めて、親子は互いに気がねのない買い物に専念する。
猛はゆっくりと時間をかけたつもりだが、それでも約束よりだいぶ早く、漁協の休憩所に着いた。
中に入ると鉄五郎と高志が、ストーブに当たっていた。
「鉄さんも買い物かい、まさか正月から漁ということもないね」
「わしらには正月も盆もないさ。凪の時が仕事日だ。特に冬は時化が続くから、凪は外せない。
暮れは荒れたから、二人でずっと穴ごもりの熊だった。
「そうかい、いやそうだったね、随分降ったし吹雪いたし、わしらだって似たようなあんばいだ
った。