やむなく高志も鉄のスパイク付きのブーツを買った。
ところが、これはこれで、氷の上では強力なのだが、氷も雪も消えた石畳やコンクリートの道で
は、ガチンガチンと頭に響く。
地下街やデパートの中では、思わず摺足で歩きたくなる。
このように近付く春を感じるなど、夢にも思わなかったことだ。
繰り返す冬と春の攻ぎ合いの日々が、突然今までとはまるで違う、ふわふわと弾むような
光りに包まれる。
跡には雪の蒲団を剥がされた、埃っぽく汚れた街が姿を現し、暖かな光りがいたわるように、冬
に傷み疲れた街を包みこむ。
あと少こし、あと少こし待ってと言わんばかりに、アカシヤや白樺が新芽の蕾を膨らませる。
大通公園では土の香りも匂い立つ。
高志は春の訪れというものを、全身で感じとることができた。
これこそ春というものだろう。
腹の底から喜びが湧き上がってくる。
今では熟練の早技となった皿洗いにも、一層力がこもる。
時々美奈子が厨房にやって来て、そんな高志をちらりと見て行く。
何だかその視線が疑わし気だ。
高志は無視する。
去って行く彼女の後姿と高志を素早く見較べて、小畑さんが隣のシンクから体を寄せて言う。
「あの娘は止めときな。危ない女だよ」
高志はどきりとする。
ところが、これはこれで、氷の上では強力なのだが、氷も雪も消えた石畳やコンクリートの道で
は、ガチンガチンと頭に響く。
地下街やデパートの中では、思わず摺足で歩きたくなる。
このように近付く春を感じるなど、夢にも思わなかったことだ。
繰り返す冬と春の攻ぎ合いの日々が、突然今までとはまるで違う、ふわふわと弾むような
光りに包まれる。
跡には雪の蒲団を剥がされた、埃っぽく汚れた街が姿を現し、暖かな光りがいたわるように、冬
に傷み疲れた街を包みこむ。
あと少こし、あと少こし待ってと言わんばかりに、アカシヤや白樺が新芽の蕾を膨らませる。
大通公園では土の香りも匂い立つ。
高志は春の訪れというものを、全身で感じとることができた。
これこそ春というものだろう。
腹の底から喜びが湧き上がってくる。
今では熟練の早技となった皿洗いにも、一層力がこもる。
時々美奈子が厨房にやって来て、そんな高志をちらりと見て行く。
何だかその視線が疑わし気だ。
高志は無視する。
去って行く彼女の後姿と高志を素早く見較べて、小畑さんが隣のシンクから体を寄せて言う。
「あの娘は止めときな。危ない女だよ」
高志はどきりとする。