偉大なカエル
深い井戸の中に変えるが1匹暮らしていました。そのカエルは雲と日差しと星が光るのを見ていつも井戸の外を恋しいと思っていた。
「俺はいつか井戸の外に出て行くんだ。その夢をいつかかなえるんだ。」
こうやって井戸の外の世界に出て行くことが願いのカエルは毎日井戸に映る雲と星を見ながら日々を送った。友が泳いで鏡のような水面を揺らすと波が静まるまで待って水面に映る空を覗き見た。
そんなある日のことだった。井戸の中に一風のさわやかな風が吹いてきた。カエルは風に聞いた。
「風君、風君。君は井戸の外の世界がどうなのか知っているか。」
「もちろん、知っているとも。」
風がカエルの顔をくすぐりながら言った。
「私はこの世界のどこでもいけないところはない。」
「ならば、ちょっと教えてくれ。井戸の外がどんなところか、俺は本当に気になって仕方がない。」
カエルは少しも待てないと言うようにまじまじと風の顔を見た。
「うーん。井戸の外はね。日差しがまぶしいひろい世界だ。ここのように暗くて狭いところではない。」
「本当に。」
「もちろん、海もある。」
「海。」
「この井戸よりも数千倍、数万倍広いところだ。遠く水平線があって、水平線の上に白い帆掛け舟が浮かんでいて、たくさんの魚が暮らし、家ぐらい大きい鯨もいる。」
風はにこりと笑いながらカエルの顔をくすぐり続けた。
「風君、俺を海に連れて行ってくれ。俺はこの井戸の中が狭くて苦しい。」
カエルは井戸の外に海があると言う話を聞くと胸がどきどきした。
「さあ、そうしてあげたいけど、、どうしよう。私には君を助ける方法が何もない。それは君自身がしなければならないことだ。」
風はその言葉を最後に体を翻して急に井戸を抜けて行った。
「風君、行かないで。俺ともっと話をしよう。」
カエルは急いで風を引きとめた。しかし、風はいつまた来るという言葉もなく急いで井戸を抜けて行ってしまった。
カエルは残念だった。井戸の外に海があって、海に鯨がいると言う事実を知ると、より井戸の外の世界にあこがれた。どうすれば井戸の外に出て、もっと広い世界で暮らすことができるかと考えることだけで1日が足りなかった。
しかし、どんなに考えてもいい方法はなかった。隣人の目を避けて真夜中に何回か井戸の外に出て行こうと試してみたがいつも「ドン。」と言う音を立てて落ちるだけだった。
それで仕方なく母カエルに助けを求めた。
「母さん、井戸の外の世界に出て行きたい。どうすればここを抜けて行くことができるか、母さんその方法を教えてください。」
「何ですって。お前それを本気で言っているの。」
母カエルはすごく驚いたようにぴょんと飛ぶまねをした。
「まったく、お前は、そんな考えははじめから持ってはいけない。井戸の外には悪いやつらがどんなに多いか。蛇と言うやつらは私たちを一口に飲み込んでしまう。」
「母さん、だからと一生ここで暮らせない。ここはあまりにも狭くて暗い。」
「いや、違う。蛇がどれだけ怖いかお前が知らないからそうだ。私たちはここで暮らさなければならない。先祖代々生きてきたここが私たちのふるさとで、最も安全なところだ。」
母カエルははじめから井戸の外に出る考えすらするなと言う言葉だけ繰り返した。しかし、子カエルは井戸の外に出て暮らしたいと言う夢を決して捨てなかった。
ある年の夏だった。何ヶ月か雨が降らず干ばつがひどかった。人々は飲み水を汲もうと帰るが暮らす井戸に来はじめた。
「他の井戸はみんな枯れてしまったけど、この井戸だけは枯れない。これは本当にありがたいことだ。」井戸は一日中水を汲みに来た人々で混雑した。人々は互いに争ってつるべを落とした。
カエルは人々がつるべを落とすのを見てひざをポンと叩いた。井戸の外に出て行くことのできる絶好のチャンスだった。
「そうだ。このつるべに載って井戸の外に出て行くんだ。」
カエルはこぶしをぎゅっと握って決心した。両親兄弟と別れると思うと涙で前が見えなくなるが、この程度の苦痛は我慢して勝たなければならないという思いがした。
「母さん、俺はつるべに乗って井戸野外に出て行く。母さんのそばを離れたくはないけどこの機会を決して逃すことはできない。」
カエルはもう一度固く決心して母カエルに言った。
母カエルは大きな目をしょぼしょぼしながら言葉もなく息子の顔だけを見つめた。そうしていたら、目に涙を浮かべて少しして口を開いた。
「そうか、わかった。息子よ。私はいつかこんな日が来ると思っていた。本当に切ないね、だけど、私は自分の息子をいつまでもこんな狭いところにおいておきたくはない。お前がそう思うなら行きなさい。たとえ井戸の外に多くの危険があったとしても行きなさい。お前が切実に行きたいと思うときに行きなさい。前にもつるべに乗って外に出て行った祖先たちは多かった。だけど、これひとつだけは覚えておきなさい。二度と帰ってくると思ってはいけない。私たちの国には井戸の外に出て行くことができないと法律で決まっている。帰ってきた日には死刑になる。わかったかい。」
「はい、おかあさん。」
カエルは母の言葉に涙を浮かべた。だが、決して母には涙を見せなかった。
カエルは両親、兄弟以外には誰にも別れの挨拶をしないで、夜が明けるのを待った。夜が明けて一番早く水を汲みに来る人のつるべに乗って外に出て行くつもりだった。
夜が明けると一人の女性が水瓶を頭に載せて井戸にやってきた。カエルははらはら胸を気をもみながらつるべが井戸の中に降りてくるのを待った。つるべが井戸の中にゆっくりと下りて来た。
カエルはつるべの水がいっぱいになるのを見てさっとつるべに飛び上がった。つるべは徐々に井戸の外に上がっていった。
あ、井戸の外は風が言っていたとおりだった。まぶしい日差の下限りなく広い野原が広がり、その野原の終わりに青い海が波打っていた。
それは本当に驚きの光景だった。カエルは驚いて口を塞ぐことができなかった。空は井戸の中で見ていた穴のようなものではなかった。夜空に星がこんなにたくさんだとは夢にも思わなかった。
カエルは海辺に近い川岸に家を建てて毎日海を眺めて暮らした。遠くにカモメが飛ぶ水平線を越えて鯨が水を噴出している姿を見るたびに限りなく幸福だった。海に虹がかかると躍る胸を押さえがたかった。
瞬きする間に何年かが過ぎた。カエルは井戸の外で暮らすカエルに出会って結婚もして子供も生んでこれ以上の幸せはなかった。カエルは本当に幸福だった。自分こそがこの世の中で一番幸福なカエルだという思いがした。しかし、本当におかしなことだった。いつの頃からか夜に眠ろうとするとふと井戸の中に暮らす母の顔が浮かんだ。一度母の顔が浮かぶとその夜には母の思いに一睡もできなかった。目をつぶっても母の顔が浮かんだ。目を開けても母の顔がちらついた。
カエルは世の中が広いことも知らずに井戸の中のカエルとして暮らす両親兄弟たちがかわいそうだった。井戸よりももっと広い世の中があると言う事実を両親兄弟に伝えてあげなければならないという思いに駆られた。
「両親兄弟のために私がしなければならないことがあるはずだ。井戸の中のカエルたちに井戸の外の世の中を知らせてやる義務があるのだ。このように広く、いい世の中に自分ひとりだけが幸福に暮らすということはいけないことだ。それは本当の幸福ではない。他のカエルにも私のように暮らす権利がある。私は私の義務を放っておいてはならない。」
カエルは何日か考えた挙句妻に言った。
「お前、俺は井戸にちょっと行って来る。最近母の顔が恋しい。母を今まで井戸の中に置いておいたのは、私の間違いだ。井戸に暮らす両親兄弟を皆井戸の外に連れてくる考えだ。」
「ええ、そうしなさい。もう、皆井戸の外に出て暮らす時になったのよ。あなたが行って皆連れて出てきなさい。」
カエルの妻は子供カエルの手を握って、遠く村の入り口の外まで夫ガエルを見送った。
カエルは決して帰って来てはならないと念を押した母の言葉が浮かんだが、また水を汲みに来た女性のつるべに乗って井戸に戻っていった。
「帰ってくるなとあんなに念を押したのに、帰ってくるなんて。これはどうしたらいいものかしら。」
母カエルは息子を見るなりため息をついた。
「息子よ。早く帰りなさい。私はこうやってお前に会えただけで十分だ。」
「いいえ、お母さん、今度はお母さんも井戸の外に出て暮らさなければなりません。井戸の外はどれだけ暖かくて広いところか。私一人で井戸の外で楽に暮らすことはできません。」
「いいや、私はお前だけよい暮らしをしていたらいい。早くここを抜け出しなさい。早く。つかまったら死ぬ。」
母カエルは早く逃げるようにと言う言葉だけ繰り返した。
「心配しないでください。お母さん。」
「これ、早く逃げなさい。今すぐに逃げなさい。」
「いいえ、私はお母さんを連れて行きます。」
カエルは逃げなかった。むしろ井戸の外に出て暮らそうと両親と兄弟に説得し続けた。
しかし、彼はその日の夜を越えることなくそのままつかまってしまった。
「お前は国法を犯した罪は大きい。井戸の中を抜け出してはならないという国法を犯したお前の罪は明らかだ。」
カエルはたくさんの兄弟たちが見ている真ん中で裁判を受けることになった。
「私たちはお前を許すことができない。平和に暮らす兄弟に浮いたうわさを流した罪。井戸の外に出て暮らそうと上手い言葉で誘惑した罪は死に値する。」
裁判長の声は厳しかった。
「裁判長、井戸の外にはここよりも広い世の中があります。」
「そんなものはない。」
「私は井戸の兄弟に井戸よりも広い世の中があると言う事実を知らせてあげたいと思いました。そして、兄弟にもそんな世の中で暮らす権利があると思いました。」
カエルは裁判長の前で少しも気後れしないで堂々と頭をあげて言った。
「お前は一体、どんな世の中を見てきたからとそのような馬鹿な話をするのだ。」
裁判長はそんなことを言うカエルが生意気だと言うように口元に冷たい笑みを浮かべた。
「言ってみろ。一体どんな世の中だ。」
「海がある世界です。」
「こいつ、海だと。一体海とは何だ。この世の中にそんなものはない。ここよりもいい世の中はない。」
「裁判長。井戸の外には明らかに海があります。井戸よりも広い世の中があります。もはや私たちも井戸に閉じこもって暮らすのではなく限りなく広くて大きい海がある世界に出て暮らさなければなりません。そうしないと私たちは皆井戸の仲のカエルになってしまいます。」
カエルは裁判長の威厳の前でも自分の主張を決して曲げなかった。
裁判長は言うことがないというようにしばらくの間言葉をなくしたが、何人かの他の裁判官と議論した後彼に死刑を宣告した。
「お前は死に値する。しかし、まだ機会がない訳ではない。一回機会をあげよう。今でも、井戸の外に海がないと言いなさい。お前が暮らした外の世界よりここがいい世界だと言いなさい。そうしたらお前を許してやろう。」
死刑執行台の上に立ったカエルはしばらくためらった。涙を抑えている母の姿が見えた。井戸の外に自分を待っている妻と子供たちの姿も浮かんだ。
「どうだ、今も井戸の外に海があるのか。」
厳しい裁判長の声がまた聞こえた。
カエルは少しも躊躇しないではっきりと力のある声で言った。
「はい。井戸の外には海があります。時々虹もかかります。」