
井戸水との対話
水瓶がひとつ井戸に来て一杯に満たした後に井戸と話をした。一日も欠けることなく水を汲みに来るのがすまなくて静かに水瓶のほうから先に話しかけた。
「私は今まであなたを持って行くだけだった。私があなたにしてあげたことは何もない。明日からは毎日来ないで一日おきに来るようにしよう。」
「い、いいえ。そんな必要はありません。私が必要な時はいつでもためらわないで来てください。私はあなたが来るだけでも大きな喜びです。」
「そういう訳にはいきません私はいつもあなたを持っていくだけです。次からは半分ぐらいにします。」
「いいえ。本当にそんな必要はありません。毎日来てくれることが私にしてくれることです。」
「ですが心の中では私が水を汲みにしょっちゅう来ないほうがいいと思っているでしょう。」
「はは、本当にそうではありません。あなたは私のところに来る多くの水瓶のひとつに過ぎません。」
「あなたは本当に心根がよくて寛大ですね。あなたは訪ねてくるすべての水瓶にもこのように対しているのでしょ。」
「そうです。私は誰にでも同じく対します。差別もしないし、拒絶もしません。」
「あなたが乾く時もそうしますか。」
「私は決して乾きません。いつもいっぱいにあふれていて私のところに来るすべての水瓶をいつもなみなみと満たしてあげます。」
「そうでしょう。今まであなたが乾いたのを見たことがありません。」
「私は、私を訪ねてくる水瓶を本当に愛しています。私が万一水瓶を愛していなかったら誰も私のところに訪ねて来ません。私が乾かないのはまさに水瓶のおかげです。」
その時、頭に瓶用のクッションを載せたおばさんが一人頭の上に水瓶を載せた。水瓶はあわてて井戸水に挨拶して井戸を去った。
井戸は遠く曲がったあぜ道を行く水瓶を長らく見ていた。口元に穏やかな微笑みを浮かべたまま、井戸の中に月明かりが穏やかに映るまで。