キンバト(Chalcophaps indica rogersi) Emerald Dove
オーストラリア7日目。
ここはまた樹高のある沿岸性の熱帯雨林帯の中。
朝、ミミグロネコドリの「にゃぁ~」という声に心地よく目を覚ました私は、誰も居ない林道を1人で歩いてみることしした。
途中、6mほど先の道を何かが横切ったけれど、とっさのことで何か分からなかった。そこで、その場に座り込んでしばし待つと、また出てきた。正体は、頭部から胸にかけてがオオクイナよりもずっと明るい茶色で美しいミナミオオクイナだ。
沢水が林道の下をくぐる辺りでは、突然小さなアカアシヤブワラビーが凄まじい跳躍力で跳んで出てきてはすぐに藪の中に姿を消した。
林道の行き止まりの辺りには鳥も多かったので、しばらくその辺りで座って鳥を見ることにした。
私の存在など一切気にしていないヤブツカツクリは、2羽でうろついている。また、地味な茶色をしたコゲチャミツスイとチャイロモズツグミが目の前に来たと思ったら、次はメガネコウライウグイスとオナガテリカラスモドキが集団でナツメヤシのような実に集まって来た。
すると今度は、マシンガンを発砲するような声というか、そんな感じのとんでもない大声がした。戦争でも始まったのかと思ったら、その声の主は繁殖期の特殊なディスプレイで一躍有名になったコウロコフウチョウだった。
そんな喧騒の森にも慣れっこだという風に、キンバトが少し離れた場所からじっとこちらを見ていた。
このキンバトC.i.rogersi は、日本の亜種 C.i.yamashinai と違って頭部に銀色の羽が無いけれど、それでも十分に美しい。
【2010/03/09/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
ミナミクロヒメウ(Phalacrocorax sulcirostris) Little Black Cormorant
ここはバリーン湖(Lake Barrine)。
駐車場から湖に下る道沿いの森には鳥が多くて、今までとはまた少し違う鳥相が垣間見えた。
キバシリみたいに木の幹をつたうノドジロキノボリや、森の赤マーカーことフヨウチョウ、ハシブトセンニョムシクイと違って目先が少し白いチャイロセンニョムシクイ、それから優しい顔をしているキノドヤブムシクイが混群で採餌していたのだ。
さらに、赤い花にはシラフミツスイやコキミミミツスイが来ている。
この、森を少し変えれば鳥も少し変わる、というオーストラリアならではの感覚が良い。
湖面を見渡すと、遠くの水面に夏羽のカンムリカイツブリが20羽以上浮かんでいる。
小さなミナミクロヒメウは、羽を乾かすために水面に張り出した枝にとまって、すぐ下を通り過ぎるマミジロカルガモ達を眺めていた。
ハイガシラヤブヒタキ(Poecilodryas albispecularis cinereifons) Grey-headed Robin
このハイガシラヤブヒタキは、オーストラリアの中ではほんのごく一部の地域にしか生息していない鳥。
タネコマドリみたいに暗い地面をチョンチョンと跳ねて移動する姿が印象的である。
ミドリメガネトリバネアゲハ(Ornithoptera priamus euphorion) Cairns Birdwing
湖の畔には花が沢山咲いていて、そこにはなんと6羽以上のミドリメガネトリバネアゲハや、眩しいほどブルーメタリックなオオルリアゲハが吸蜜に来ていた。1羽の雌のユーフォリオンの周りには雄が3羽ほどその美しさを競い合っており、巧みにホバリングしては吸密する雌の気を引こうとしていた。
夕方になり、私達はユンガブッラ(Yungaburra)のクリークに向かった。
目的はカモノハシである。
薄暗くて静かな川沿いの道を歩いていると、突然足元から大型のトカゲが走り出した。
Physignathus sp. ?
Physignathus lesueurii lesueurii(ヒガシウォータードラゴン)あたりが近いと思うのだけれど、文献足らずでまだ同定できていない。
また、スッポンみたいにのっぺりとした甲羅をしたクレフトマゲクビガメ(Emydura macquarii krefftii)が水の緩やかな区画のクリークの中にポツリと浮かんでいるのを見た。
マミジロナキサンショウクイ(Lalage leucomela yorki) Varied Triller
鳥達は日暮れ近しとせわしなく動いていて、ハイムネメジロの亜種 Z.l.vegetus やカオグロカササギビタキ、ナマリイロヒラハシが混群で通り過ぎていった。
マミジロナキサンショウクイの雌は“ここを今日の塒に決めた”と言わんばかりで、私がじっとり見ていても飛びたく無さそうにしていた。
狭いクリークの上を、体格の良いソデグロバトが真っ直ぐに飛んでいった頃、太陽は西の空に沈んで行ってしまった。結局私は何故かカモノハシを波紋しか見ていない。同じ場所を巡った友人は2度も見ているし写真にも収めているというのにだ。
【2010/03/08/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
オーストラリアガマグチヨタカ(Podargus strigoides strigoides) Tawny Frogmouth
そういえば、フロッグマウスをまだ見つけられてない。
そこで、駄目でもともとのつもりでキャンプ場の受付のご婦人に、「ガマグチヨタカの塒、知らないですか?」と聞くと、「ええ、知ってるわよ。いつも居るとは限らないけど。案内してあげましょうか?」と答えが。これは嬉しい。お願いすると、わざわざ車を出してきたので私達も車でそれに付いて行った。そして数分後、広大なキャンプ場の一角でそのご婦人の車が停まった。
そしてご婦人が言う、「確かいつもこの辺りに・・・あ、いたいた。今、ここから見える場所にいるわよ」。
この、“見たいのだけれど、見つけて詳しく場所を教えて欲しいわけではなく、あくまで見つける瞬間は自分で味わいたいのだ”という欲張りなバーダー心を良く分かってらっしゃる。
程なく私も、木の幹に巧妙な擬態をしたオーストラリアガマグチヨタカを見つけた。
オーストラリアガマグチヨタカとパプアガマグチヨタカは体の大きさもさることながら、虹彩の色が違う点でも識別できる。前者は虹彩が黄色、後者は虹彩が橙色をしている。
Laughing Kookaburra
Nasutitermes sp.の蟻塚
例えば Nasutitermes triodiae のものかもしれない。
【2010/03/08/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
マリーバイワワラビー(Petrogala mareeba) Mareeba Rock Wallaby
オーストラリア6日目。
ここG.G.キャンプ場は、一昨日まで泊まっていたキャンプ場に比べて吸血昆虫がだいぶ少なくて過しやすい。ただし唯一、夜間にライトを点けて歩くとヌカカのような虫がチクチクと刺してくるのが気になるけれど、日本の、奄美や舳倉のヌカカに比べたらなんてことはない程度だった。
このキャンプ場のある渓谷には多数のマリーバイワワラビーが生息しているのだけれど、これがまた可愛いのなんのって。
上の奇妙な写真に説明を付け加えると、育児嚢に子どもの入った親ワラビーが背中の下方を掻くために後ろを向いているところである。決して、前脚より下がとてつもなく肥大している1頭が鎮座しているというわけではない。
この育児嚢に入った子ワラビーの幸せそうな顔ときたら。
オーストラリアチョウショウバト(Geopelia placida placida) Peaceful Dove
角の丸い大岩がごろごろ積み上がった渓谷沿いを歩いていたら、あっと言う間に友人とはぐれてしまった。
岩の間に点々とある乾燥した林には鳥が多くて、相変わらず黄金なキイロミツスイやトサカハゲミツスイよりもさらに頭部の羽が無いズグロハゲミツスイ、小さなサメイロミツスイ、それからパプアオオサンショウクイなどが見られた。
渓谷を通る渓流にはノドジロハチマキミツスイの幼鳥が水浴びに来ていて、3羽で順番に並んでいた。
アカオクロオウム(Calyptorhynchus banksii banksii) Red-tailed Black-Cockatoo
見晴らしの良い岩場に差し掛かった時。
アカオクロオウムが6羽、音も無く滑空してきて、1本孤立した木に次々にとまった。
この黒くて巨大な体に尾羽の一部が赤、という何だかどこかのステルス爆撃機みたいな無気味さを帯びたアカオクロオウムはしばらく休むと、また音も無く6羽で飛び立っていった。
またひとつ大岩を超えた場所に生えていた木には、キボシホウセキドリの腰が黄色い亜種 P.s.uropygialis が1羽いたり、黒地に白ドットの翼でお洒落なカノコスズメがいたりした。
Granite Gorge
【2010/03/08/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
Cryptoblepharus sp.?
私達がキャンプ場に到着する頃にはもう夜も更けた頃だだった。
静まり返ったキャンプ場の中、唯一電灯のある机に向った私達がフィールドノートを書いていると、大男が話しかけてきた。
「車のバッテリーが上がっちゃったんだ。君達、車持ってない?」
そこで私は、車はあるけれどバッテリーとバッテリーを繋ぐコードがない。申し訳ないという旨をつたない英語で説明すると、その大男は残念そうな顔をした。ここで友人が私の説明のつたなさを日本語でけちょんけちょんにディスリスペクトしていると、大男がまた口を開いた。
話によるとこの大男は自称アボリジニで、せっかくだから会った記念に自分と記念撮影してもいいよ、と向こうから申すのだ。
そして何故か深夜のより一層静まり返ったキャンプ場で、謎の記念撮影大会が行われた。
写真を撮り終わると、大男は私達と握手をして満足げに去っていった。
お役に立てずに申し訳ないけれど、満足してくれたなら良かった。
そしてまた私達は、机に向ってフィールドノートを書き始めた。
しばらくすると友人が面倒くさがり出したので、私が人の記憶の儚さとこの旅行を記録することの重要さを順を追って暑苦しく説明していると突然、背中でモゾモゾと何かが動くのを感じた。
ナンダナンダ、と取り出してみると指の腹ほどの大きさしかない小さなトカゲだった。
【2010/03/07/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】