ちょっと裕福な家の少年がやらかした「偽札使用」という犯罪。その偽札が巡り巡って貧しい労働者イヴォンを人生の谷底に突き落とすという不条理極まる話。
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ブレッソンの遺作で知られた本作です。ブレッソン作品を見たのは、これが2作目。最初はあの『スリ』。本作も、やはり、『スリ』とタッチは似ています。ムダな描写やセリフが一切ないところとか。最初から最後まで目が離せません・・・。
不条理も、ここまで来ると、もうなんというか、虚脱状態になります。特に、本作は冤罪による不条理なので、もう、見ていてドキドキしっぱなしで疲れます。そう、冤罪ものは本当に見るだけでもの凄く体力というか、エネルギーを消耗します。あまりに不条理すぎて動悸が止まらないのです。
『スリ』はドストエフスキーの「罪と罰」が下敷きにあるということだけれど、あの映画はそんな哲学を見ている者に全く感じさせない、ひたすら「スリというお仕事」にフォーカスした作品だったので、見ている方も、ドキドキはしながらも、やるせなさに襲われるということはなかった気がする、、、。と思って、みんシネで『スリ』に何を書いたか見たけれど、やっぱり消耗した形跡はナシ・・・。
でも、本作は・・・、とにかく見ていて、く、苦しい。ブレッソンの怒りなのか、これって。厳然と横たわる“格差”。その前にあまりにも無力なイヴォン。これでもかと不運と不幸が続き、彼は、遂に“殺し”に手を染めてしまう。本人に責任のないことが引き金となって、人間とはここまで堕ちて行くものなのだ、しかも、いとも簡単に堕ちて行くものなのだ、ということを、一切の無駄を省いた描写でえげつないほど見せつける。何が彼をここまでの創作に駆り立てたのだろう、と思うと、これまたドキドキしてしまうのです。
本作にしても、『スリ』にしても、要は金、カネ、money、そう、ラルジャンなわけです、人生を狂わせしもの。
よく、借金がらみで殺人事件が起きていますよね。金を貸してくれないから殺した、金を返してくれないから殺した、どっちも、正直なところ動機としては分からない。痴情のもつれの方がよっぽど分かります。でも、本作を見ると、何となく少し「カネで殺し」が分かってしまう気がします。
イヴォンの殺しを見ていると、殺しに対し得るにしてはあまりにも“はした金”です。でも、イヴォンに躊躇は一切ない。そこが怖い。こうなっちゃうんだよ、人間は、と言われているようで。そして実際に起きている、カネで殺しが、あちこちで。
お金って、額の多寡にかかわらず、持つ人の人間性を露出させてしまう、実に恐ろしいツールです。お金って人間にとって、最悪の発明品だと常日頃ぼんやり思ってはいましたが、ブレッソンにここまでダメ押しされると、そうはいっても必要悪なのよ、と反論したくもなってくるような、、、。
途中、イヴォンに優しさを見せる人もいるのですが、最早、彼にとってそんな程度の善意は何の救いにもならなかった、ということなんでしょう。最初に偽札を使った少年は、まさか、自分の行為が一人の見知らぬ人の人生を完全に破壊しているだなんて、思ってもいないであろうことが、究極の不条理です。
恐るべし、ブレッソン、、、。
恐ろしきモノ、それは「お金」
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