《本記事のポイント》

  • 共和党マコーネル院内総務がトランプ大統領に背信行為
  • マコーネル夫妻と江沢民との密接な関係
  • 米政界各所に「統一戦線」の魔の手

 

 

米国では12月14日、各州の選挙人投票が行われた。そんななか、激戦州6州とニューメキシコ州では、議会が別の共和党選挙人を選び、トランプ大統領に票が入ったことが話題となった(12月14日付Vox「代替選挙人:選挙を覆す最新の遠回しなトランプ計画を説明」)。

 

そのため7州に関しては、バイデン候補に投票された84票と、トランプ大統領に投票された84票という、2つの票が存在する。したがって2021年1月6日の開票当日まで、米大統領選挙での勝者は決定していない。

 

 

マコーネル院内総務の背信行為

波紋を呼んだのが、翌15日、米共和党上院のミッチ・マコーネル院内総務が、突然、バイデン候補に「当選」の祝意を表明したことだ。

 

選挙結果が不明の時点で、共和党上院のトップが、民主党候補に祝意を示すのは奇妙である。これは、まだ法廷闘争中のトランプ大統領に対する"背信行為"ではないか。

 

けれども、マコーネル氏の人間関係を探れば、その行動は容易に説明がつく。同氏の2番目の妻は、趙小蘭(イレーン・チャオ)現運輸長官である。ここから、中国共産党とのつながりが見えてくるのだ。

 

 

マコーネルの妻は中国の実業家の娘

小蘭の父親は、上海生まれで趙錫成という。福茂集団を創立し、現在、その名誉董事長である。大学卒業後、遠洋商船で実習をしていたが、「国共内戦」で継続が困難となり、上海へ戻って来た。その後、叔父一家と一緒に渡台し、商船の船長にまで上り詰めている。

 

その間、趙錫成は安徽省出身の朱木蘭と結婚し、6人の娘をもうけた。その長女が、マコーネル氏の妻となる趙小蘭である。趙小蘭は台北市で生まれたが、幼い頃、両親と共に米国へ渡った(ちなみに、一番下の6女、趙安吉はFacebookへの投資家でハンガリー系のジム・ブライヤーに嫁いでいる)。

 

趙小蘭はマウント・ホリヨーク大学を卒業後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した。マコーネルとの結婚後は、ブッシュ・ジュニア政権時代の2001年から2009年まで、労働長官の職責を果たした。さらに2017年からは、トランプ政権下、運輸長官を務めている。

 

 

マコーネル夫妻と江沢民との密接な関係

その趙一家だが、江沢民と密接な関係にある。

 

「マコーネルの造反は『上海幇』江沢民家の工作の結果」(12月20日付「明徳時評」)という記事が興味深いので、ここで概略を紹介したい。

 

趙家は、中国共産党の長年の友人であり、共産党の歴代指導者と交際している。共産党は、趙一族に多くの事業を行わせた。北京の援助で趙家の商売は繁盛した。趙錫成は数十億米ドルの資産家として名を馳せ、米国の華人船王になっている。

 

実は、趙錫成は上海交通大学で江沢民・元国家主席の同級生だった。1960年代初頭、趙一家がアメリカへ移住した後、趙は福茂海運を設立。1980年代初頭、当時の電子工業相だった江沢民と接触し、上海の電子機器工場に資本参加した。それが、趙と中国共産党との最初の協力関係になっている。

 

そして江沢民がまだ上海市長だった1985年、宝鋼集団が新日鉄の技術を導入して上海宝山製鉄所を建設するプロジェクトが動き出す。これは、中国共産党の最大かつ最重要技術導入プロジェクトだった。

 

その頃、宝鋼の生産に必要な鉄鉱石はすべて輸入に頼っていた。鉱石輸送も、海外の船会社に委託している。先見の明があった趙錫成は、宝鋼がまだ建設中の時、上海に戻って、この海運ビジネスを行うことを計画した。

 

趙のビジネスは宝鋼から始まり、後に武漢鋼鉄へと発展した。江沢民が北京へ行ってから、趙は首鋼京唐鋼鉄との取引を行うのみならず、後に金融など他の分野にも進出し、共産党との関係はますます緊密化した。

 

両者の協力関係は経済分野から政治分野にも及んだ。

 

1989年の「6・4天安門事件」直後、江沢民が党総書記に就任した。その際、趙錫成は北京に赴き、江の就任を祝した。江沢民は総書記就任後、6回も趙を迎えたという。

 

一方米国では、趙は単なる実業家に過ぎず、政治的影響力はほとんどなかった。しかし、長女である小蘭が、1986年に政治の舞台に足を踏み入れて以来、趙一家は徐々に政治的影響力を持つようになる。

 

1993年、連邦上院議員だった51歳のマコーネル氏は、40歳だった趙小蘭と結婚した。新婚時、趙錫成は二人を北京に連れて行ったのである。江沢民は中南海にマコーネル夫妻を迎え、釣魚台迎賓館でもてなした。マコーネル氏と江沢民が会ったのはこれが初めてだという。

 

1997年、江沢民主席(当時)は初めて訪米した際も、マコーネル夫妻と会っている。そうした縁もあり、夫妻は多くの共産党の指導者と会っている。まさに江沢民こそ、趙一家の恩人と言っても過言ではない。

 

そうなれば、中国共産党にとって、マコーネル夫妻が、米国における重点的な「統一戦線」の対象だったのは言うまでもない。

 

こうした中国の息がかかった人物が、米政界にも財界にも無数にいるのだ。

 

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

 

 


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