この小説の原題は「The Music of Chance」と言い、ポール・オースターにより1990年に書かれました。ポール・オースターはアメリカを代表する現代文学の作家です。
1947年2月生まれですので、今年72歳になります。
妻と離婚をし幼い娘を姉に世話をしてもらっているしがない男ジム・ナッシュが思いがけない大金を手中にしました。30年以上も音信不通になっていた実父の遺産が転がり込んだのだ。消防士の主人公は2週間の休暇を取り、新車のサーブで旅に出ます。休暇が終わり一度は帰ってきますが、やはり旅の誘惑に駆られ再び長旅に出かけることになります。姉に預けていた実の娘のところへも行ってみますが、幼い頃から姉のところで暮らしている娘は向こうの家になじんでいるらしくて、主人公はそれに対して戸惑いを感じてしまいます。
そうして旅を続けるのですが、その途中で不思議な人物と出会います。ジャック・ポッツイという若者です。
彼はギャンブラーでポーカーを得意としていましたが無一文の状態でした。ジム・ナッシュはそんなギャンブラーのジャック・ポッツイに1万ドルを与えます。元金を除いて儲けを折半する条件で大きなポーカーの勝負に打って出ることにしたのです。
ポーカーの相手の富豪の屋敷に二人で乗り込み、勝負を挑みます。富豪の二人、フラワーとストーンの屋敷でポーカーの勝負は中盤まではポッツイが勝っていたのですが、最後には負けてしまいます。元金を無くしたほかに一万ドルもの借金を背負うハメになってしまいます。
借金の返済のために、二人は石を積み上げ壁を作る作業に従事することになります。50日間で借金を払い終わりポッツイはその場所から逃れることを提案しますが、ナッシュはポッツイと行動を共にしません。
一人で壁の石積みの作業を続けることを選択したのです。ところが逃れたはずのポッツイが二人が寝泊りしていたトレーラーハウスの外に倒れているのをナッシュが発見します。ポッツイは誰かに暴力を振るわれたことは一目でわかります。逃亡を企てた事への警告であることは確かです。瀕死の重傷のポッツイを病院に連れて行くように監視人のマークスとその息子に預けます。ですがポッツイのその後の様子はマークスの対応でははっきりしたことは判りません。
ナッシュはポッツイのその後の様子が気にかかって仕方がありませんが、マークスとの約束の期限が来てここを出て行ける日までただ自分の務めのように作業を実行してゆきます。晴れてその日が来てナッシュは監視人のマークスからの思いがけない申し出を受けます。それは期日が明けたお祝いにマークスがご馳走してくれるというのでした。ナッシュとマークス、それにマークスの息子の3人で町に出掛け、酒場で酒宴をおひらきなり、屋敷へ帰ろうという事になり、かっての自分の愛車サーブのハンドルを握り帰途についている途中、ナッシュは不思議な感覚に囚われます。
今自分がハンドルを握っているサーブは自分を自由なところへ連れて行ってくれる気がして来たのです。時速95キロを過ぎさらにスピードが増してゆきます。110キロも過ぎ135キロに達した時、自分に向かってくるヘッドライトの光の存在に気付きます。ナッシュはそれを認めてもブレーキを踏む代わりにさらにアクセルをぐっと踏み込みます。そして、光が目の前に来てナッシュはもうそれ以上見ることが出来ずに目を閉じた。その時同乗しているマークスと彼の息子はナッシュの中では存在してなかったのである。
このようにこの物語「偶然の音楽」は幕を閉じる。
この作品を読み終わって思ったのは、この光景はいつか見たことがあるのだ。
かってのアメリカのB級映画「バニシング・ポイント」もこのように「消失」する情景で物語は終わるのです。
長くなりましたので今日はこの辺で終わります。続きはまた後日。
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