ヒマジンの独白録(美術、読書、写真、ときには錯覚)

田舎オジサンの書くブログです。様々な分野で目に付いた事柄を書いていこうと思っています。

絵画の「翻訳」はあるのか?

2020年02月09日 21時17分30秒 | 美術 アート
母国語以外の文学作品を読もうと思えば、私たちはそれを「翻訳」によって読むことが出来ます。
翻訳家は作品の持つ言語的意味と共に作者が伝えたかったことを他国語に変換します。そのおかげで世界の多彩な言語で書かれた作品を別の言語で読むことが出来るのです。外国語で書かれた作品にはその国の言語が持つ独自の社会的な背景に基づいているものがあります。それらのことが社会慣習として存在しない地域にその作品が持ち込まれるときに言葉がよく理解できない事があります。
一例を挙げてみましょう。英語圏の子供たちに親しまれている「ハンプティ・ダンプティ」という謎解き歌があります。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」にも出てくるのはご存知かと思います。

Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the king's horses and all the king's men
Couldn't put Humpty together again.
ハンプティ・ダンプティが塀に座った
ハンプティ・ダンプティが落っこちた
王様の馬と家来の全部がかかっても
ハンプティを元に戻せなかった

これは英語のフレーズを日本語に訳した例ですが、ハンプティ・ダンプティがそもそも何者なのかを知らない人にとっては、この歌の面白さは伝わっていきません。
「ハンプティ・ダンプティ」は17世紀のイギリスにおいて「ずんぐりむっくり」を指す言葉として使われていたものであったが、英語圏では現在でも童謡のキャラクターのイメージから、「ずんぐりむっくり」や頭が禿げていてつるつるしている人を言い表す言葉として用いられているほか童謡の内容から「非常に危なっかしい状態」あるいは「一度壊れると容易には元に戻らないもの」を指し示すための比喩 として使われることがある。ハンプティ・ダンプティがあまりにも「ずんぐりむっくり」だったため、塀の上から落ちてしまった彼を持ち上げて元の塀の上に戻すことは出来なかったと言うのがこの歌の意味だったのです。
ハンプティ・ダンプティは日本で言えば「百貫デブ」と言ったところでしょうか。
「ハンプティ・ダンプティ」を例に引き言葉の翻訳を見てみました。
きょうの本題は、他の表現手段、例えば絵画では「翻訳」が可能になるのかを考えてみたいと思います。まずもって「絵画の翻訳」なるものがあるのでしょうか。絵画なんて、それを見れば何が描かれているのかが解るので、翻訳なぞ必要では無いだろう、という意見が聞こえてきます。ですが私たち日本人がある絵画を見た時、そこに描かれているものが、西欧の宗教上の逸話を題材にしたものなどは、その内容を知っているといないでは、理解に大きな違いが出てくるでしょう。
ある絵を見た時、そこに描かれている人物の衣装などの色や形が解っても、それは絵を理解した事にはなりません。
一例を挙げてみます。次の絵を見ていただきましょう。



これはネーデルランド(今のオランダ)の画家ブリューゲルが描いた「東方三賢王の礼拝」と題された絵画です。「東方三賢王」とは「東方三博士」ともいわれ、旧約聖書に記述のある「イエスキリストの生誕」を三博士が祝うために訪れたことを描いています。三人の博士とはゾロアスター教の司祭です。ゾロアスター教は後の世界宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の元になった宗教です。そのような権威あるゾロアスター教の司祭がキリストの誕生を祝ったのだと、キリスト教の権威を高める為に使われている事が解るのです。宗教画に限らず西洋絵画を見る時にはそのような背景が解っていると絵画の意味がより深く理解できるでしょう。
これが「絵画の翻訳」ではないかと、私は思うのです。


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2 コメント

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大賛成です (猫の誠)
2020-02-11 19:10:41
 実は小生も長い間同じことを考えていました。詩や小説などの文学は、言語が異なるので、異言語の文学は理解できないことは明瞭です。ところが絵画の場合には視覚的に見ることが可能なので、絵画の書かれた背景が分からなくても理解できると勘違いしていしまいます。以上は貴兄の考えと同じだと思いますが、小生は貴兄の絵画と同様なことが、音楽にも言えるのだと考えています。音楽はもっと複雑で歌謡曲のように歌詞のあるものは、異言語の歌は理解できるとは思わないのですが、楽器だけの音楽は、言葉を使わないので、音を聞いただけで理解できると誤解されます。
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追伸です (猫の誠)
2020-02-11 19:18:29
実は前記の事は、小生のホームページhttp://www.ac.cyberhome.ne.jp/~bwidow/のなかの「純粋芸術論」で論じておりますので参考まで。
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