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グローバル化への準備---まず、日本人たれ(1)

2012-06-10 | ビジネスの世界
2.グローバル化への準備

現在、日本は歴史的な円高ドル安ユーロ安に見舞われている。このような世界の経済情勢で日本企業の海外シフトはさらに加速する。

ここで、本題の「グローバル化への準備」に入る前に、幾つかの統計で日本の姿を再認識して、今後の参考にしたい。

(1)日本の現状
昨今の流行語 グローバル化は別として、海運業界ではすでに4、50年前からグローバル化が始まっていた。それには、海運関係者以外の人々は気付いていないので、「工場管理7月号」の筆者の記事で【コラム2】として次のように実情を紹介した。

【コラム2】 外航船のグローバル化
 1960年代、日本は世界有数の海運国、外航船と乗組員は100%日本国籍、地球の津々浦々で仕事をするグローバルな存在だった。もちろん、50年以上の昔から航海日誌(Logbook)や操船用語は英語(世界標準語)だった。やがて、高コストの日本船と乗組員は低コストの外国勢に置き換えられ、少数の船会社がオペレーターとして生き残った。50年後の現在、日本国籍の外航船とその乗組員は無きに等しい。しかし、日本船や日本人船員抜きでも国際物流はますます発展している。これがグローバル化の1つの形である。
 グローバル化が進む現在、やがて在日外資系会社と同様に日本企業の業務報告やE-mailは英語になり各国の社員と情報を共有すると考える。さらに、今から50年後には人口が9000万人割れと高齢者が40%の日本、そのとき日系工場と日本の姿はいかになっているであろうか。今なすべきことは多い。
(主典:実際のトラブル事例から学ぶグローバル化の流れに乗ったITシステム構築の鉄則(上)、工場管理7月号、日刊工業新聞社、2012年)

この【コラム2】を裏付けるデータを、朝日新聞Globeの記事“「特急通過」、落ち込む日本”に見付けたのでここに引用する。

        
       (出典:朝日新聞Globe、May 15, 2012)

上のグラフから【コラム2】が指摘する「50年後の現在、日本国籍の外航船とその乗組員は無きに等しい」ことがわかる。また、グラフの“2003年10月神戸商船大学を神戸大学に統合”は、筆者のコメントである。同じ頃、国は東京商船大学と水産大学を合併して東京海洋大学を新設した(全国5校の商船高等専門学校には変更はない)。

さらに、次の表は【コラム2】の「日本船や日本人船員抜きでも国際物流はますます発展している」ことを示している。

     
      (出典:朝日新聞Globe、May 15, 2012)

【筆者のコメント】
1)1970年代の便宜置籍船の台頭で、価格の競争原理が国際海上物流を支配し始めた。これに対し
  て、日本政府は無策どころかコスト削減のためには商船大学も不要と考えた。
2)国際物流は地球人口の増加と共に増加するのは明らかである。しかし、日本は国際物流と造船の
  大きな市場から撤退し、物流の制海権を放棄した。
  四面海に囲まれた海運国が制海権を放棄すれば、その先には無条件降伏が待っている。
3)過去50年で失った制海権を回復するために今から50年かかると仮定する。その間に日本の人口
  は9000万人割れで高齢者が40%になる。船腹は金で確保できようが、船乗りは促成できない。
4)国際海上物流への国の無策は、「特急列車の通過駅」だけでなく、記事も指摘する有事においては
  最も大切な補給路を絶たれることになる。この事態の“想定外”は許されない。

 余談だが、第二次世界大戦の敗因の一つにロジスティックス(Logistics)があった。ロジスティックスは兵站(ヘイタン)学といい、物資や兵員輸送や後方支援に関する軍事学である。
 戦後、各地からの復員者たちは「自分たちの部隊は勝っていた」といいながら帰国した。それは、ロジスティックスを重視しない日本軍の戦略の結果だった。各地の戦線は、物資の補給を考えずやみくもに敵地の奥深くまで進攻した。勇敢な前進あるのみだったらしい。しかし、その勝ち戦が裏目に出て、補給路を断たれて孤立したと戦後の分析で明らかになった。
 その後、経営学などでロジスティックスという言葉とその重要性を知った日本企業は、運送業の社名などにロジスティックスという言葉を多用した。
 現代のロジスティックスはサプライチェーン(Supply Chain)であり、製造業の生命線である。なお、ロジスティック、つまり物流ネットワークの最適化には線形計画法(LP:グローバル工場---機能階層(5)、2012-02-25参照)を使用する。

さらに、日本の現状認識を新たにする2つの統計がある。それは、下に示す国連分担金とODA(国際協力政府開発援助)の支出金額である。いずれも世界第2位であり、「ノー」と云えない日本の姿を示している。

     
【国連の補足】
1)安全保障理事会の常任理事国=米、英、中、仏、ロシアの5ヶ国(第二次世界大戦の戦勝国)
  非常任理事国=各地域から10ヶ国を選出(任期2年)=アジア2、アフリカ3、中南米2、西ヨー
  ロッパ2、東ヨーロッパ1、以上が選出枠の国数である。
  拒否権:常任理事国にはあり、非常任理事国にはなし(日本は、金を出すが口を出さない)。
2)国連の分担金は、GNP(またはGNI:国内総所得)を目安に国連が決定する。
  日本はGNP(GNI)世界第3位、しかし、分担率は第2位で金額は約236億円(80円/ドル)である。
  日本の分担率と分担額などに疑問があり、外務省に問合せたが表は正しいとの回答だった。

     
ODAも年間約1兆5812億円(80円/ドル)の支出で世界第二位である。日本は、背丈を超えた過大な国際貢献をしている。これは、分不相応、ファーストクラスで出張する赤字会社の社長(【コラム7】参照)と云える。

母校を国家に消された船乗りの心情では、未曾有の被災、他国民よりまず自国民を最優先で支援しろと叫びたい。現在も国連分担金を滞納する国もあるが日本は真面目に支払っている。しかし、有事の日本、国連分担金とODAを1年や2年停止しても大勢に影響がない。まず自国の原状回復と被災者の癒しに全力を投入すべきである。それが国家の第一の責務であると同時に、せめてもの罪ほろぼしになる。

【筆者のコメント】
1)第二次世界大戦の終戦は1945年、以来世界情勢は大きく変化した。にもかかわらず、国連は当時
  の戦勝国を基軸にした運営体制を継続している。それは、すでに時代遅れの国際機関といえる。
2)国連とODAは共に政治経済の利権が絡む世界、きれいごとで済む世界ではない。もちろん、国連や
  ODAを否定しないが、これらを美化する必要はない。
  アメリカは、国連のリストラを求めて分担金の一部を支払わない時期があった。
3)かつての南北問題(北半球の先進国と南半球の途上国との格差)は様変わり、今では先進国や途上
  国に関係なくそれぞれの国内に深刻な格差が生じている。
4)この地球を覆うグローバル化の波、そこには新しいタイプの社会モデルが必要である。それは、国際
  協調のあり方の見直しである。この見直しは、海外進出企業だけでなく国連や日本のODAにも有効
  である。すでに「援助する国」「される国」の時代ではない。
5)「工場管理8月号」では、日本と進出先国が協調することにより、新しい道が開けて日本も蘇生すると
  提唱した。8月号には、グローバルシステムを開発中の話(【コラム7】参照)なども紹介した。

グローバル化の波に呑まれて、船尾に日章旗を掲げる商船がほとんど見られなくなった。しかし、日本の外航商船と同様に日系工場とその日本人社員を絶やしてはいけない。

ではどうする?この問いには即答できない。しかし、無責任な国家に頼ると失敗する。それが問題であり、このブログの課題である。

【コラム7】エコノミーで飛び回る社長
 あるアメリカの中堅企業が戦略システムを開発中に、業界の不況で会社が赤字になった。そこで社長は世界の事業所を一ヶ所ずつ回ってあらゆるコストの削減を求めた。その頃の社長はエコノミークラスで飛び回っていた。そのことを知ったとき、(世界中の)皆はあの社長らしいと納得した。
 もちろん、赤字会社の社長がファーストクラスでは様にならない。ファーストやビジネスをエコノミーに変えた効果は疑問だったが、プロジェクトは継続した。社長はエコノミー、コンサルタントはビジネスで気が引けたが、アメリカの担当者に規定だから心配しないでといわれた。5~7年に亘る戦略システムの開発、この間にいろいろな事が起こる。
(主典:実際のトラブル事例から学ぶグローバル化の流れに乗ったITシステム構築の鉄則(下)、工場管理8月号、日刊工業新聞社、2012年)

今回は「日本の現状」が長くなったが、次回は本題、「日本人たれ」に進んでいく。

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