今回は、完結したはずの筆者の夢に続きがあったことを紹介します。
今から2年前、ハノイ在住の娘一家の息子(筆者の孫)は、不思議な切っ掛けでヒューストン大学のiD Tech Campに参加した。もちろん、筆者と娘は、ヒューストンまで孫に付き添った。その詳細については、ヒューストン再訪(3)---iD Tech Camp(2016-8-25)を参照して頂きたい。【iD Tech Camp=全米150校以上の大学で毎年開かれる子供向けの夏期講座】
あの時、孫は10歳になったばかりだったが、1週間のiD Tech Campで親しい友達もでき、ヒューストンがすっかり気に入った。帰りのヒューストン空港で、筆者、娘、孫はそれぞれの思いでまたの参加を祈り、娘と孫はNY、筆者は成田に向かった。
成田に向かう機中で、「途切れない糸」として50年も続いた筆者の夢は、今回の「ヒューストン再訪」で完結したと思った。人生は一つの夢、一つの物語として実在する。もちろん、いかなる物語にも結末があり、筆者は「ヒューストン再訪」という偶然だが最高の結末に満足した。最後に3人で過ごしたホテルも思い出深い。
その完結を示唆するように、ヒューストンからの帰国後3ケ月で脳梗塞を発症した。幸い、リハビリで自立歩行は可能になり、何よりもまず神に感謝した。しかし、年齢を考えて、運転はしない、海外旅行はしない、成田空港にも用事はないと、なにやら「否定形」が多い人生になった。否定形はビジネス文書では避けるべき文型だが、否定形が多い人生は後ろ向きでうつむき加減になる。そこで、ドン・キホーテを真似て時空を超える「想像の旅」で80歳代の人生にもう一つの夢を描こうと、このブログを続けている。
しかし、今思えば2年前のヒューストンで筆者の「途切れない糸」は完結しなかった。
あの時、娘と孫はヒューストンからNYに向かったが、NYの空港での番狂わせがあった。・・・しかし、その番狂わせが孫をボストンに結びつけた。・・・まさに「ないと思うな運とツキ」、この世には人間の理解を超える何かがあるとまたも実感した。その「番狂わせ」とは、筆者の娘が以前からNYで再会しようと約束していた親友が、あろうことか突然日本に帰国、代りに親友の親戚が娘と孫を出迎えた。
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話が長くなるので詳細は省くが、「番狂わせ」から始まった一連の出来事を辿ると一つの流れが見えてくる。しかし、ひとつひとつの出来事の発生はランダムだが、ランダムな事象の連続が、ある日突然、忘れていたiD Tech Campに繋がった。
一連の流れを振り返ると「絶妙なタイミング」や「塞翁が馬」もあった。たとえば、ヒューストンからハノイに帰った孫がインター(ナショナル スクール)で左腕を「骨折」した。ハノイの大きな病院がその治療にまさかの失敗、やむなく半年後に東京で「再手術」、それに続く「緊急帰国」などが続いた。これらは、どう見てもiD Techには関係がない出来事だった。
しかし、運命のタイミングは絶妙、この春のたった数日の「緊急帰国」で娘と孫はNYの「番狂わせ」で筆者の娘と孫を「迎えに来た人」と東京で偶然に「再会」した。この「再会」でボストンのiD Tech Campが思いも寄らず実現した。また、「緊急帰国」で孫の左腕も正常に回復した・・・一連の騒動に筆者もドキドキハラハラ、中には馬鹿げた話もあったが、貴重な偶然が交錯する作り話のような話、これも「途切れない糸」で起こる出来事の特徴である。
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話は飛ぶが、たった数日の「緊急帰国」で話が進み、夏休みに合わせて孫は単身でボストン近郊の素晴らしいホスト・ファミリー宅に3週間も滞在することになった。その間に1週間の泊まり込みiD Tech Campに参加した。
7月上旬に12歳の孫はハノイから成田経由でボストンまで一人旅、筆者が成田で孫の乗り継ぎを支援することにした。ここに筆者の出番がやってきた。
成田での乗り継ぎの9時間、筆者たちはVISAラウンジを拠点に、孫を空港のあちこちに案内した。好物の牛丼、回転ズシ、タコ焼きに孫は大満足だった。
ハノイのインターに転校して早や5年、孫の英語はすでに今風の若者が話すアメリカ語、しかし食べ物の好みは今も昔も変わらない。ハノイの自宅に遊びに来る同級生たちは、国籍を問わず、娘の作る牛丼が大好きという。
夕方、ボストン直行便に搭乗するとき、JALの「スマイル・サポート」*注)に出国手続きの支援をお願いした。【*注):スマイル・サポートは一人旅の子供、障害や怪我・病気の乗客を支援する。一人旅の子供には、出国、搭乗、機内サービス、到着地での入国を支援する。他の航空会社にも同様のサービスがある。】
「スマイル・サポート」のスタッフに付き添われて出国する孫
孫の出国を「スマイル・サポート」カウンターで待つとき、横に飾られた七夕・笹の葉に孫が残した短冊を見付けた。その短冊には「アメリカの?学?に行けますように」とあった。
何気なくふと見た七夕・笹の葉、その短冊に綴られた孫の本心「アメリカの大学への憧れ」を筆者は見た。偶然だったが、短冊に書かれた孫の願いがこの上もなく大切なものとして筆者の脳裏に焼付いた。
たどたどしい日本語の「?学?」を正しく「大学」に修正して、「願いが叶いますように」と念じながら笹の葉に戻した。2年前にヒューストン大学で孫がこころに抱いた憧れは、言うまでもなくiD Tech Campのもっと先にある「大学」であり、筆者は喜んでその願いをどこまでも支援する。
間もなくスマイル・サポートから無事に出国したという知らせが届き、「安航(Bon Voyage)」を祈りながら成田空港を後にした。
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現在、孫はすでに美しいベントリー大学でiD Tech Campを無事に終えたという。さらに、ホスト・ファミリーに連れられてボストン・レッド・ソックスの観戦、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)の見学など、多忙な日々を送っている。付き添ったホスト・ファミリーによれば、孫は理数が得意なので将来エンジニアを目指したいとか。彼が「野生のリスやウサギが遊ぶアメリカの大学」に展開する世界が楽しみである。
今回は、孫の「ボストン行き」で筆者は大いに教えられた。その一つは、筆者の「途切れない糸」は50年や60年の短期的な話ではなく、すでに娘や孫とその先の世代につながっていると・・・最も大きな発見は夢と希望の連続性である。
その連続性は、人間だれにもいえるDNAの連続性である。DNAに刷り込まれた夢と希望は、有限の個人から次世代へとその時代に応じた形をとりながら次々と続いていく。将来、どんな子供が生まれ、なにをこころに描くのか、まだ見ぬ一人ひとりに夢は広がる。
こうと知ると、「否定形」が多くてうつむき加減の人生が、急に明るくなった。間もなく孫がボストンから帰国する。帰国すれば、回転ズシと国産ウナギで歓迎しよう。
次回の「想像の旅---カサブランカ」に続く。