1.現状分析の準備
何か新しいことを始めるとき、先ずその試みを現状に照し合わせることが大切である。現在の業務手順を見直す、新しい業務アプリを開発する、製造中の製品原価を削減したいといった場合には、まず現状を調査する。現状を正しく知った上で、改善の余地を検討する。もし、改善が可能であれば、その具体的な方法を立案する。
これらの一連の動きを、現状調査・分析といい、略して現状分析という。新商品を開発する場合は、現状分析を市場分析という。市場分析の結果、新商品の性能や価格、生産量、宣伝・広告の方法を決定する。
外国の公園でよく見かける光景だが、リスがふざけ合って木から芝生に落ちてくる。着地したリスは、一瞬背伸びをして周囲を見渡す。そして、逃げる方向を見定めて、一目散に駆け出す。その一瞬は、10分の1、2秒であろうか、必ず駆け出す前に方向を決めている。走り出してから円弧を描いて目的地を変更するリスや着地の姿勢からいきなり走り出すリスは見たことがない。この一瞬の行動は動物本能だが、見事な現状分析だといつも感心している。
高価なパッケージソフトを購入したが、導入が思うように進まない。これはよくある話だが、その原因は現状分析の甘さにある。現状分析を省くと、後に思わぬトラブルに陥ることがある。
ここでは、工場の現状分析を説明する。その目的は業務改善と仮定する。もちろん、業務改善はコンピューター・システムの改善が前提である。
具体的な箇条書きの目標には、実効可能(Feasible)な業務改善(人の役割)とコンピューター・システム改善(推定期間&コスト)を、それぞれ最優先3項目に絞って提案する・・・通常、3つの最優先事項を片付けると以下の優先順位が変化するので、すべての改善を目指すのは得策ではない。
もちろん、この方法は、海外の工場や事務所にも当てはまる。国内外を問わず、現状を“あるがままの姿”(“As is”)で捉えるためには、“すべてを机の上に出す”(Everything on the table)ことがキーポイントになる。
現状分析では、道具、たとえばビデオカメラ、ストップウォッチ、特殊な計測器などを使うことがある。しかし、業務改善の現状分析では、ノートと筆記用具だけである。ただし、忘れてはいけないことが一つある。それは、現状分析を始める前に工場内の写真を数枚撮っておくことである。改善後に同じ角度から写真を撮って、改善前の写真と比較する。たとえば、改善前は仕掛品が乱雑に置いてあったが、改善後には通路もスッキリと見通しが良くなる・・・工場内が物理的にスッキリするのは継ぎはぎだらけの業務管理システム(Legacy Systems)の更改で経営視界(Management Visibility)が改善され、結果として工場管理の目が行き届くからである。
次に、現状分析の手順を3つに分けて説明する。それは、準備、調査および分析である。
(1)調査の準備
先ず、調査の準備として、範囲とスケジュールを設定する。
調査範囲を工場の敷地内に限る、あるいは分工場や外注先などを含めるなど、物理的な範囲を決める。たとえば、外注先の含める場合、ピンとキリの外注先を選ぶのも一つの方法である。自社の観点だけでなく、外部の目線を交えることに大きな意味がある。
次に、調査の対象業務と順序を決める。たとえば、受注、出荷、生産計画、工程、購買、在庫、経理、原価、基礎情報の業務を調査の対象とする。これらは、基幹業務であり、この場合は工場全体の現状分析と言える。
調査の順序は、品物や帳票の流れに沿って進んでゆく。この流れに逆行すると、調査が複雑になるので避けるべきである。
最後に、調査の日程を決める。過去の経験では、従業員200人から2,000人程度の工場ならば、基幹業務の調査に1ヶ月、分析に1ヶ月が目安になる。分工場がある場合、製品開発や設計部門を含む場合は、期間が1、2週間長くなる。
調査の期間にもとづいて、受注業務はいつごろ、出荷業務はいつごろと大まかなスケジュールを決める。正確な日付は、調査の進行状況によるが、実施の2、3日前に確定し、当事者に伝える。
今回はここまで、次回の現状分析2で調査と分析の方法を説明する。
【参考】
工場の調査範囲と順序の例として「生産管理の理論と実践」の「試し読み」の「図1-1 工場のビジネスモデル」を参照されたい。英語版は「Try Sample」参照